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願い事

どの位の時間そうしていたのだろう。

何時の間にか日は陰り、空には一番星が輝いていた。


「大丈夫か?」

顔を上げると先程と同じ場所に変わらぬ優しい目をした男が立っていた。


ーずっとこうして側にいてくれたんだ……ー


「帰るぞ。」


「……え?どこに?」


「決まっておるだろう。お前の新しい家だ。」

そう言って男は

ひょいっとわたしを抱き上げ無言で歩き出した。


「ちょっと待ってよ!?どういう事?…ねぇ、ねぇってばあ!」


「煩い、馬鹿女。少しは女らしくその下品な口を閉じたらどうだ。」

「なっなによ、さっきまであんなに優しかったくせに…!」

「は?優しい?誰が。お前夢でも見ていたんじゃないか?」

男はいつも通りにやり、と意地悪く笑う。


降ろしてくれ、と抗議しようと息を吸い込んだ瞬間

私はどさり、と乱暴に地面に降ろされた。


「いったぁ……急に何すんのよ!」

「着いた。」

「えっ…も、もう?」

見上げると確かにそこは

今朝逃げるようにして駆け下りてきた石段の前だった。

でも確かここを出て街に行くまで数時間は歩いたはず……

するとまるで私の心を読んだかの様に

「驚いたか、馬鹿女。妖怪にはそれぞれ自分の住む庵や寝床への捷路(しょうろ)を持っているものがいる。」

「捷路?」

「あぁ、近道とでも言っておこう。それがあると数十キロ離れた場所にいても迷わず数分で帰ってくることができる。」

「便利ねー…」

「俺らにとっては…だがな。」

「…?」

「普通低俗妖怪にはなかなか扱えん代物だ。故に捷路自体に吸い寄せられ住処から出てくることが出来なくなる。そして無理に出ようとすると何百年もの間その捷路の中を彷徨うこととなる…」

「怖い……」

「ふんっ、まぁ俺様ぐらい高尚な妖怪になると操ることも否、その捷路自体を別の場所へ繋ぐことも容易い。」

相変わらずこの妖怪は相当自分という存在に自信があるらしい。

確かに力がある事は認めるが

少し買い被りすぎやしないだろうか。

「何だ?まだ俺様の力の強さが信じられないのか?」

この男、読心術でも心得ているのだろうか。何故こうも先程からほいほいと私の考えを当ててみせる?

…もしかして全て考えが顔に出てしまっているのでは……

そんな私の思いをよそに男はいかにも楽しそうな口ぶりで言葉を続ける。


「仕方が無い。見せてやろう。」

言葉と同時に男の手のひらがほうっと赤く光る。

そしてパチパチッと音がしたと思うと

赤く光っていたそれは

何時の間にか男の手の上で小さな火の玉となった。

それはまるで生きているかのようにゆらゆらとその身を揺らし、赤々と燃えている。


「それは…火…?」

「そう。狐火だ。」

そう言うと今度は

その手のひらの上で揺れ動く狐火にふぅっと息を吹きかける。

するとその瞬間辺りがぱっと昼間のように明るくなり

私を照らした。

「眩しいっ…っ」

思わずぎゅっと目を瞑る。


「目を開けてみろ、馬鹿女。」


「………えっ…」

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