ー5
「熈濤!」
「ぁあ?誰だお前?」
「その子から離れてはもらえませんか?」
「あ?こいつの知り合いか?」
「ひゅーっ、いじめられっ子にコスプレ男。超お似合いカップルじゃん?」
ギャハハハハ
「…離れて頂けませんか?」
「残念ながらこの子には先客がいるもので。終わるまでそこで指くわえて待っててくださいねー」
ギャハハハハハハハハ
「さぁてどこからだっけなー?そうそう…」
「離せと言っているのが聞こえないのか?」
男たちは熈濤の存在を無視するかのように言葉を続ける。
「お!いいねー」
「可愛い下着履いてるじゃん?」
「………離せ、下劣な人間共。」
「あ?なんだとごらぁ!」
「俺らに喧嘩売るってんのか?ぁあ?」
「なぁ、こいつうぜーしやっちまおうぜ?」
そう言って男はナイフを振り回し熈濤に襲いかかる。
……危ないっ…!
そう思った瞬間
バチバチッとなにかが弾けるような音がした。
「何……?」
強い異臭が鼻をかすめる。
気がつくと最初に襲いかかろうとした男の髪が燃えている。
「あ、え…あ……あつっ!熱い、熱い!」
「水、水、水!」
「このままじゃ俺………痛い!熱い!助けてくれよぅ…!」
先程までの気迫はどこへやら、半べそかいて助けて、と懇願する男。
そんな様子を見て意地悪く笑い
「じわじわと火に体を蝕まれていくのはどうだ?痛かろう、苦しかろう?しかしな透の感じた恐怖はそんなものではない。もっと苦しめ。そして死をもって償うのだ。」
「…てめぇ何しやがんだ!」
今度は別の男が熈濤に殴りかかる。
「まだ懲りぬか、愚かな人間共」
はぁ…と深くため息をつき
パチンッと指を鳴らす。
その瞬間、側の大きなゴミ袋が火だるまに変わる。
「これが望みか?それとも…」
また軽く指を鳴らす…と今度は近くに置いてあった自販機が大きな音を立て、爆発した。
「こちらがお望みか?」
気がつくと辺りは揺れ動く火に囲まれている。
その中心でほくそ笑む狐の妖怪はまるで地獄の番人。
「ひっひぃぃ…っ!」
さすがに懲りたのか男はくるり、と向きを変え尻尾を巻いて逃げ出した。
それに髪を焼かれた男と最後まで口ばかりで何もしなかった駄目男が続く。
「まっ待って、置いてかないでくれよぅ…!」
男達が路地の角を曲がり見えなくなると
同時に周りを囲んでいた火もすぅっと跡形も無く消えていった。
大破した自販機だけが
淋しくそこに取り残されていた。
「ふんっ、人間ごときが生意気な。……立てるか?」
「う、うん………」
思わず声が上擦る。
「俺が…怖いか?」
「う、ううん。違うの…そうじゃなくて………」
「すまん。そうだな、怖かったな…」
そう言って暖かい大きな手で私の頭を撫ぜてくれる。
優しい優しい熈濤の声…。
「うっううっうっ…」
気がつくと私は声をあげて泣いていた。
わんわんと、まるで小さな子供のように。
殴られて、蹴られても
虐められても1人になっても
絶対涙は流さなかった。
泣いたって仕方のない事だから。
でもどうしてだろう。
この暖かい手は、優しい声は
私のどうしようもない涙腺を緩めてしまう。
お母さん、お父さん
ごめんなさい…
私……強く生きられなかった…