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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

星の願い

作者: 西瓜
掲載日:2025/12/25

こんにちはこんばんは、西瓜です。

「冬童話2026」に参加させていただきました。

長くなってしまいましたが、ぜひ読んでいってください。

あるところに働き者の少年がいた。

少年は体の弱い母親を養うため、毎日毎日休みもなく働いていた。

そんな少年にも望みがあった。

けれど少年は叶うはずがないと諦めてしまっていた。

そんなある日、いつも通り仕事を終え家に帰っている途中にとても綺麗なお星様のような少女を見つけた。


「ねぇ君、こんな夜中に一人でいると危ないよ」


少年は少女に話しかけたが、少女は聞く耳を持たずただぼーっと立ち尽くしていた。

こんな夜中に一人で立っているなんておかしな少女だと思いつつも、少年はその少女から目が離せなかった。

闇夜に輝く白髪に、星を映し出したかのような濃い青の瞳。

おまけに...少女はとても美しかった。


「あら、人がいたの。全然気が付かなかったわ」


少女に話しかけられ、少年ははっとした。

突然話しかけられて心臓が痛いぐらいに跳ねた。

話しかけてもこちらの存在を認識しなかった少女が、こちらをじっと見つめている。

少女は怖いくらいに清廉な雰囲気を纏っていた。


「あなた...話せないの?」


「いや...話せるよ。さっき話しかけたじゃないか」


「あらごめんなさい。気が付かなかったわ」


「いいよ...別に。それよりこんな時間に女の子が一人でいるのは危険だ。早く家に帰りなよ」


「...そうね、そうだったわ」


少年が早く帰りなよ、と言うと少女は悲しそうな表情になった。

少女の憂いを帯びた表情すらもとても綺麗だった。


「帰りたくないの?」


「...そういうわけではないわ。ただ...少し難しいというだけよ」


少女は空を見上げ、無数に輝く星を眺めていた。

星明かりに照らされた彼女の表情に、影が落とされているような気がした。


「よく分からないけど帰りたくないんだね」


「まぁ...そうね」


「それなら...うちに来る?」


「え?」


「うちに来る?って言ったんだ。どのみちここにいるのは危険すぎる。熊でも出るかもしれない」


「熊?あぁ熊ね。そうね、危ないわね」


少女はどこか他人事で、熊を怖がる様子すら見せなかった。

熊を見たことないのかと少年は思った。

不気味な様子の少女に、関わらない方がいいかもしれないという考えが少年の頭に浮かんだ。

けれど少年は少女がとても寂しがっているように見えた。

だからなのか、少年は思わず少女に手を伸ばした。


「ほら、行くよ。家こっちだから」


「えっ、えぇ...」


少年は少女の手を引き、早歩きで家に向かった。

少女の手はとても冷たく、人間味が感じられなかった少年だったが、些細なことだと無視し森を突き進んだ。




「ただいま」


「おかえりなさい...遅かったわね...あら、その女の子は?」


少年が家に着くと、見るからに体調が悪そうな女性が奥から出迎えた。

少年の母親だ。

少年の後ろにいる少女に母親は首を傾げていた。

けれど驚いている様子は全くなかった。

森で一人でいたことを母親に説明すると、母親はすぐに湯を沸かし、温かい飲み物を淹れてくれた。


「ありがとう、ございます」


「いいのよ、訳ありなんでしょう?それに...この子が連れてきたってことは悪い子じゃないはずだもの」


少女は母親に優しい眼差しを向けられ、突然涙を流した。

少年の目には少女の涙はただの水であるはずなのに、きらきらと輝いている天の川のように見えた。

少年は慌てふためいて少女を慰めようとしたが、女の子の慰め方など仕事ばかりしている少年に知る由もなかった。

けれども少年は不器用ながらも少女の手を握り、大丈夫だと声をかけた。

その言葉を聞いた少女は朗らかに笑い、涙を手で拭い取った。

そうして少年と少女はもう遅いからと、一緒に寝ることになった。

心優しい少年は、少女にベッドを譲ろうとしたが少女がそれを許さなかった。

同じベッドに入った少年と少女は、窓から漏れ出す星明かりを眺め、うつらうつらとしていた。


「ねぇ...。あなたの名前って...なんていうの?」


「名前?」


「そう、名前。知りたい」


「...ルナだよ、そういう君は?」


「...あなたが付けてくれる?」


「名前がないの?」


「うん」


「そっか...」


この目の前にいる少女には一体どんな凄惨な過去があるんだろうかと、ルナは思った。

ならば少女にこれからの人生が少しでも輝きがあることを願って。


「ステラ、なんてのはどう?」


ステラ。

ただの「星」という意味だけれど、ルナにとって星は暗い夜道を照らしてくれる希望のような存在だった。

少女にも希望を持ってほしい。

ルナはそう願った。


「ステラ?」


「そう」


少女はルナをじっと見つめた。

気に入らなかったかな、とルナは不安になったが、少女はすぐにルナに笑いかけた。


「良い名前ね。ステラ...これからは...そう呼んでほしいな」


「分かったよ、ステラ」


「うふふ、ありがとう良い名前をくれて」


少年と少女は笑い合った。

ぎこちなかった二人が、打ち解けた瞬間でもあった。


「ねぇ...」


「なに?」


「ルナの...願いってなぁに?」


「僕の...願い?」


「そう。あるでしょう?願い」


「あー...。お金をいっぱい稼ぎたい」


「意外と強欲なのね」


「お金がいっぱいあれば...。母さんにもっと良い薬を買ってあげられるし、美味しい食べ物もいっぱい買ってあげられる。それに...」


「それに?」


「いや、なんでもない」


「そう...」


そうしてルナとステラは眠りについた。

お互いの体温が二人を穏やかな眠りへと誘った。




ルナが目覚めると、横で眠っていたはずのステラがいなくなっていた。

ルナは血の気が引いた。

ルナはすぐに着替え、家の中をくまなく探したがどこにも見当たらない。

外に出てしまったのかと森を走り回ったがステラは見つからなかった。

するときゃあ!と悲鳴が聞こえた。

ステラに何かあったんじゃないか、と声がした方に駆けつけるとステラの目の前に体の大きい熊がいた。


「ステラ!」


「ルナ?」


ルナはステラを守るため、熊を睨みつけた。

ルナの手足は震え、頭の中は恐怖でいっぱいだった。


「た、食べるなら僕を食べろ...!」


「ルナ...」


すると熊はルナの頬をべろん、と舐めた。

どうやら熊はルナとステラを食べるつもりはなかったようだ。

ステラが悲鳴を上げたのは、ただ転んでしまっただけだったらしい。

ルナは勘違いしていたことを恥ずかしがった。


「ルナ、ありがとうね」


ステラにお礼を言われ、ルナは無駄な行動じゃなかったなと思えた。

熊は怖がらせてしまったお詫びに、甘い木の実をお裾分けしてくれた。

そのまま熊はどこかへ去って行ってしまった。

ルナは今まで熊を怖い存在だと思っていたが、ステラのおかげで熊は心優しい動物なのだと知ることができた。


「ステラは...どうしてこんな朝早くに森に...?」


「出て行こうとしていたわけじゃないのよ。ただ居候するだけじゃ悪いから、美味しいご飯でも作ってあげたくて...」


「そんなことしなくていいのに」


「私がしたいの...ルナは今日も仕事でしょう?家のことは私に任せてね」


「うん...それじゃあお言葉に甘えて」


「ええ。ルナもお仕事頑張ってね」


ステラに笑いかけられ、ルナは憂鬱な仕事がいつもより頑張れるような気がした。




「おいルナ!早くしろ!」


「はい!」


ルナは鉱山で石炭などを採掘する炭鉱夫だ。

仕事が遅いと怒鳴られたり、一番年下だからと雑用を押し付けられたり、まだ体が小さく力の弱いルナに先輩たちはきつく当たっていた。

それでもルナは母親を養うために必死に仕事を続けていた。


「おいルナ。これやっとけよ」


「はい」


先輩たちははいつもルナに仕事を丸投げしサボっていることが多かった。

ルナの仕事がいつも遅いのは、人に仕事を押し付けられていたからだった。

それでもルナは文句も言わず、真面目に仕事をこなしていた。


「今日は終わりだ。後片付けして帰れよお前ら」


「はい」


ようやく仕事が終わり、家に帰れることになった。

ルナは後片付けをし、帰ろうとすると先輩たちに呼び止められてしまった。


「おいルナ、あっちにまだツルハシ残ってるぜ。取ってこいよ」


「...はい」


先輩にそう言われ、坑道の奥の方までツルハシを取りに行き、戻ろうとしたその時。

突然、足元が崩れてしまった。

必死にしがみつくが、這い上がれない。

すると先輩たちがやってきた。


「すみません...手を、貸していただけませんか...?」


「なんで俺たちが手を貸さねぇといけねぇんだ?」


「え...?」


「勝手に落ちたのはお前だろ?頑張って這い上がるんだなぁ、ぎゃははは!」


先輩たちは、笑って見ているだけで手など貸してはくれなかった。

ルナはただ、母親に楽をさせたかった。

体調を崩すまで必死に働いていた母親に、恩を返したかった。

同い年の子供達が走り回って遊んでいるのを羨ましく思いながらも必死に働いた。

先輩たちに仕事を押し付けられても、きつく当たられても必死にしがみついて努力した。

だというのに、その結果がこれか。

ルナは手を離した。

しがみついている理由が、分からなくなってしまったから。


「このまま落ちれば...怪我だけじゃ済まないだろうな」


ルナはそのまま深い深い穴に落ちていった。




「...な、...な!るな!ルナ!」


星のような...眩い光が何度も呼びかけてくる。

僕は...。

そうだ...穴に落ちて、それで...。


「はっ...!」


「っ...よかったぁ...目が覚めて...」


「ステラ...?どうしてここに...」


「あなたの気配が消えかかっていたから...急いで駆けつけたのよ...」


ステラは安堵した表情で、ルナに笑いかけた。

その笑顔がとても眩しくて、涙が出そうになってしまった。


「あら、泣いてるの?」


「泣いてないし...」


「泣きたい時は...いっぱい泣いた方がいいわよ」


「っ...。どうしてステラは...こんな僕のことなんかを...助けてくれるの?」


「あなたが、あの時声をかけてくれたから。これからどうしていいのか分からなかった私に、道を示してくれた。温かく迎え入れてくれた。名前をくれた。感謝してもしきれないほどのものを...私はルナにもらっているのよ?それに...僕のことなんか...なんて言わないで...。私はあなたが困っていたら必ず助けるわ。絶対に。あなたが...私にそうしてくれたように」


「ありがとう、ステラ...」


ルナはステラに優しく抱きしめられ、声を殺しながら涙を流した。

その間ステラはずっと...ルナの頭を撫でてくれていた。


「落ち着いた?」


「ごめん...」


「いいのよ、謝らなくて。ルナのお母さんも心配してたわ、早くここから出ましょう」


ステラはルナに手を伸ばした。

ルナはステラの手を握ると、とても温かかった。

あれ...初めて握った時は...あんなに冷たかったのに...。

今は...すごい温かい。

するとたちまち自分の体とステラの体が浮いていく。


「わっ...う、浮いてる...?」


ステラの方を見ると、綺麗な白髪に淡い光が集まり、瞳は青白く光っていた。

本当に...ステラは星みたいだ...。

すごく綺麗でつい見惚れてしまう。

落ちてしまったところまで着くと、ステラから光たちが霧散していってしまった。


「ステラ...君は...」


「...ごめんね、まだ秘密」


ステラの正体は...一体なんなんだろうか。

けれどまだ秘密と言われてしまった。

いずれ...話してくれるかな。


「さっ、帰りましょう」


「うん」


手を引かれ、二人は仲良く帰路についた。

いつも疲れて帰るのもやっとな道も、ステラのおかげで楽しいものになった。




「ねぇステラ...本当にやるの?」


「当たり前じゃない!ルナが虐げられているなんて許せない!」


ステラはルナから穴に落ちてしまった時のことを聞くと激怒し、ルナの仕事場に抗議しに行くと行って聞かなかった。

僕の話なんて誰も聞いてくれるはずがないと思って今まで誰にも相談してなかったんだけど...。

事態はあっさり解決した。

端的に言ってしまうと先輩たちはクビになった。

この件があって、過去に同僚を虐げて辞めさせたり、事故と見せかけて怪我をさせたりしていたみたいだ。

おまけに横領までしていたみたいでそれはもうこっぴどく怒られていた。

ステラがいなかったら僕はずっと...炭鉱で先輩たちに仕事を押し付けられながら生きていたんだろうな...。

ステラはもうこれで安心ね!と笑っていた。

本当に...感謝してもしきれない。

ステラに何か...返せないかな。

そう思っていると、ルナは坑道で綺麗な青い石を見つけた。

ステラの瞳と同じ色と輝きを持った、綺麗な石だった。

ステラに似合うと思ったルナは、この石を使ってアクセサリーを作れないかと思い立った。

石を持って帰っていいかと相談すると、あっさり許可が出た。

そうしてルナは石を家に持ち帰り、ステラにバレないようにこっそりアクセサリーの制作に取り掛かった。




「ステラ」


「なぁに?」


夕ご飯も食べ終わり、もう寝ようかとなっていた時ステラに声をかける。

ルナは青い石がはめ込まれた銀色の髪飾りをステラに差し出すと、ステラは驚いた表情をしていた。


「えっ買ってきてくれたの...?」


「ううん、作った」


「えっこれを?すごいじゃない!大変だったでしょう?」


「いや...父さんが死んじゃうまでは、こういうのよく作ってたし...別に苦ではなかったよ。久しぶりだったから時間かかっちゃったけど...」


ルナの父親は数年前に事故で亡くなっていた。

それからルナの母親がルナを養うために体を壊すまで働き続けて、今は何時間も立っていられない状態になってしまった。

ルナは肉体労働よりも、アクセサリーや物を作る方が性に合っていた。

小さい頃から物作りが好きだったルナはいろんなものを作っては母と父に褒めてもらっていた。

けれどそれだけでは生活に十分なお金は稼げない。

そのため稼ぎのいい炭鉱夫となり、毎日必死に働いていたのだ。


「...そう...だったの」


ルナは父親のことをステラに全く話していなかったので、父親が死んでしまっていることを知ったステラはとても悲しそうな表情をしていた。


「あ、いやといっても父さんが事故で死んじゃったの何年も前だし、もう悲しくないというか、だからそんな悲しい表情しなくても...」


「無理して笑わなくてもいいのに...」


「無理してなんか...いや、確かに父さんが死んじゃった時は...この先どうやって生きていけばいいのか分からなくて不安だったけど...今は...君がいるから」


「えっ」


「あっいや、母さんもいるし!幸いお金は稼げているし!だからその...これ...受け取ってくれる?」


「うん、もちろん」


ステラは今まで見たことがないぐらい、輝かしい笑顔を見せてくれた。

そんなステラの笑顔に思わず心臓が跳ねる。


「ねぇ、付けてくれる?」


「あ、う、うん」


ステラの笑顔に見惚れてしまっていたことに気づき、必死に取り繕う。

ルナは緊張しながらも、そっとステラの絹のような白髪に触れ、そのまま髪飾りを付けた。


「どう、似合う?」


「うん、すっごく」


「えへへ...ありがとう、ルナ」


ここに鏡がないのがもどかしい。

本当に...本当に綺麗だ。

この石を見つけられたのは、幸運だったなぁ...。

それからステラは、毎日のように髪飾りを付けてくれた。

母さんにはあらあらと揶揄われたけど...。

ルナはとても幸せな気持ちになった。




ステラと出会ってから、三ヶ月が過ぎた。


「もう春だなぁ...」


「早くもっと温かくなってほしいわね」


「そうすれば母さんも心置きなく散歩できるね」


「そうね、楽しみだわ」


今は街まで、ステラと一緒に買い物に来ている。

あれから、僕はちょくちょく休みを取るようになった。

母さんを楽にさせるために毎日必死に働いていたけど...。

今は母さんの体調も良くなってきているし、肩の力を抜いて自分のことに目を向けることにしている。

空いた時間でアクセサリーを作ったり、ステラと一緒にこうして出かけたり...。


「あっ、あのお店で最後ね」


「分かった」


「ありがとうね、荷物持ってくれて...重くない?」


「ツルハシよりは軽いから」


「あら、ご冗談がお上手で」


「冗談じゃないんだけどな...」


「ふふ、じゃあ行ってくるわね」


「はいはい」


ステラは駆け出し、お店のおばさんに話しかけに行った。

こういうフレンドリーなところ見習わないとな...。

僕の方がステラよりも先に街の人たちと知り合っていたのに、ステラの方が街の人たちと仲が良い。

まぁいいことだけど、少し寂しい...なんて。


「おい、ちょっとこっち来い」


「なっ、ちょ、離せっ...!」


肩を掴まれ、ずるずると人気のない路地裏の方まで連れ去られてしまった。

力が強くて、全く抵抗できない。

誰だよ、こんなことするやつなんて...。

後ろを振り向くと、目を剥いた。


「え...先輩?」


「おう久しぶりだなぁ...。元気にしてたかぁ?」


肩を組まれ、逃げられない。

どうしてこんなところに...。


「なんの用ですか」


「用ってほどじゃねぇよ。お前めちゃくちゃ綺麗な女の子と歩いてたよなぁ?」


「それがなんだって言うんですか」


「いいご身分だなぁと思ってなぁ...。俺は仕事をクビになり、家を追い出され、路頭に迷ってるってのに」


「自分のせいでしょう、そうなったのは」


「あ?んなわけねぇだろうが!!!」


「っ...」


肩を痛いぐらいに掴まれ、思わず顔をしかめる。

くそ、早く戻らないといけないのに...!


「お前のせいで俺の人生めちゃくちゃになったんだよ!俺の人生は充実してた...。なのにお前が!ぶっ壊したんだ!」


「...あんたのせいで僕はずっと苦労してきた。その報いを受けただけでしょう」


「口答えするなぁ...!!!!」


「っ...!?」


首を思いきり掴まれ、持っていた荷物を地面に落としてしまった。

苦し...!

必死にもがくが、先輩はびくともしなかった。

力の差がありすぎる...!


「あぁその顔...その顔だよ...お前には絶望がお似合いだ...。幸せそうに笑いやがって、ずっとずっとお前にイラついてたんだ...。誰にでも気に入られて、なんの努力もしてないお前が、ただへらへら笑っていただけのお前がぁ!!!!」


「な、んの...どりょくも...して...ない...?ふざ、けるなよっ...!ぼくは、ずっとひっしに、どりょっ、くしてきた...!おまえ、に...いわれる、すじあいなんてっ...ない...!」


「黙れ黙れ黙れぇ...!今すぐにぶっころ、」


「なんですって?」


「あ?なんだお前」


ステラ...?

ステラの表情は今まで見たことないぐらい険しく、先輩をじっと睨みつけていた。

綺麗な白い髪は逆立ち、青い瞳は青白い光を放っていた。


「おいおい邪魔するなよ、今いいところ...。あ、お前...こいつと歩いてたやつか」


「す、てら...にげ...」


「こいつをやったあと、お前は俺の(もの)にしてやるよ。どうだ光栄だろ?」


先輩は、ステラを舐め回すような目で見ていた。

その瞬間頭の中で何かの糸が切れた気がした。


「ふざけ、るな...」


「なんだよ、何か文句でも...」


「ステラは...ものじゃない...!そんな目で...見るな...!」


「っ...。あぁ、今すぐにぶっ殺されてぇんだな...。いいぜ、今すぐに...」


「そうはさせない」


「ぐあっ...!?」


途端、ルナの首を締めていた男は逆さまに浮かび上がった。

ステラが...やってるのか...?


「ひ、ひぃぃ!なんだこれ、降ろせ、降ろしてくれぇ!」


先輩は酷い顔で泣きじゃくっていた。

ちょっと気分がいいかも。


「あなたなんぞに...ルナは殺させやしない...!」


「わかった、殺さない!殺さないから!降ろせ!降ろしてくれぇ!」


「...どうする?ルナ」


ステラは冷たい表情でルナの方を向いた。

その表情にぞくり、と背筋に冷たいものが走った気がした。

...ステラはステラだ。

どんな表情をしていても...ステラが僕の大切な存在であることに変わりはない。


「降ろしていいよ。もう十分...痛い目見てるでしょ」


「...ルナがそう言うなら」


ステラはゆっくりと先輩を地面に降ろした。

先輩は腰を抜かしながらも、覚えてろよー!とありがちなセリフを吐いて去って行った。

なんだったんだ本当に...。

ほっと一息ついていると、突然ステラに抱き締められた。


「す、ステラ...!?」


「よかった...無事で...」


「ステラのおかげだよ...。また、助けられちゃったな。ありがとう」


「...言ったでしょう?私はあなたが困っていたら...必ず助けるって」


ステラは顔を上げ、瞳に涙を浮かべながら微笑んだ。

さっきまで冷たい表情をしていたからか、余計に笑顔が温かく感じた。




そうして僕たちは街から家に帰った。

首を締められた痕はステラが治してくれたから、母さんには何があったのか悟られずに済んだ。

...ステラは一体何者なのか。

これだけの力を持っている人間なんて、きっといない。

自分よりも体格のでかい男を軽々浮かし、こうして怪我を治すこともできる。

本来なら、魔女だなんだと怖がられてしまうのだろう。

けれど...僕の目にはただ可愛らしい女の子が映るだけだ。

うん、気にしないようにしよう。

ステラが何者でも、僕はただ...受け入れるだけだ。

そうしてステラと一緒に夕飯の準備をして、母さんとステラと食卓を囲み、夕飯を食べた。

そしてもう寝ようかとなった時。


「ねぇルナ...」


「ん?どうした?」


寝巻き姿のステラに呼び止められた。

ステラは何か思い詰めたような表情をしていて、今にも泣き出してしまいそうな...そんな感じがした。


「私...私ね...」


「もしかして、秘密だって...言ってた話?」


「うん...」


「話したくないなら...無理に話さなくても...」


「ううん、話したいの。お願い...聞いてくれる?」


「ステラがそう言うなら」


「ありがとう...」


ステラは自分のベッドに座り、ルナを招いた。

少し恥ずかしかったけれど、素直にステラの隣に腰をかける。

するとステラは淡々と話し始めた。


「私は...。人間じゃないの」


「うん」


「...驚かないんだ」


「まぁ...。あんなにすごい力を見せられたらね」


「それもそうね。それで...。私って、星なの」


「星?」


「そう...星」


「星...」


「夜の空に浮かぶ...一番明るい星。私は...何千年とこの世界を見守ってきた。ある時は人間の指標になって、ある時は人間の願いを叶えて、そうやって...生きてきた。けれど...。ある時...その...罪を犯してしまったの」


「罪...?」


ステラがそんな、罪を犯すような子には見えないけど...。


「そう...罪。だから私は...空を追放されて...そうしてこの地に降り立ったの」


「そう...だったのか」


「罪を犯して...私はいろんな星に詰め寄られたわ。ありえない、穢らわしい、近づきたくない...。自分が悪いことをしたというのは分かっているの...けれど...それでも悲しかった」


「うん」


「みんな...仲が良かったのよ。だから余計に...みんなの私を見る目が怖くて...」


「うん...」


「だから逃げるように...ここに来てしまった」


「それで...あの時星を見上げて...寂しそうにしていたのか」


「そう...帰るところも...行くところもなくて...でもあなたが...帰る場所をくれた。温かく出迎えてくれて...。名前も、素敵なプレゼントもくれた。こんな私に...」


「こんな、じゃないよ...。僕の方こそ、ステラにいっぱい助けられた。支えてくれた。ステラが家に来てくれたから、この家は前よりずっと明るくなったんだ。君と出会えて...僕はすごい嬉しいんだ。不謹慎かもしれないけど...」


「ううん...嬉しい。ありがとう、ルナ。私を...見つけてくれて」


「さも見つけてほしい、って言わんばかりに立ってたけどね君」


「もうっ言わないでよ」


「見つけてほしいって言わないと、誰も見つけてくれやしないんだよ。だから君を見つけられた。僕だけの力じゃないさ」


「ふふ、良い考え方ね」


「でしょ?」


「ルナ...改めて、いろいろとありがとうね」


「こちらこそ。あ...そういえばステラってなんの罪を犯したの?」


「へっ」


「あっ、嫌だったら言わないでいいんだけど...」


「い、嫌ではないけど...恥ずかしいからだめ」


「えぇ」


「もうっいいから早く寝ましょっ」


「わっ、え、ちょステラ!?」


「へへ...最初この家に来た時みたいね」


「そ、うだけど...」


「今日だけだから...一緒に」


「...今日だけと言わず...毎日でも。一人で眠りたくないって思ったら...遠慮せずに言ってよ」


「ふふ...ありがとう。おやすみ、ルナ」


「うん...おやすみ、ステラ」


そうして二人は、抱き締め合いながら眠った。

お互いの心臓がとくとく、と静かに鳴っていた。




「えっステラも働きたい?」


「うんっ!そのルナと同じ炭鉱で...」


「それは絶対にだめ」


「えっなんで」


「危険がいっぱいだから」


「私ルナより強いよ?」


「そっれはそうかもしれないけどだめなものはだめ」


「けちー」


「けちで結構。とにかく、炭鉱以外の仕事にして」


「仕事はいいんだ」


「まぁ...。ステラがしたいことをするべきだろうし」


「じゃあ炭鉱で...」


「それは絶対だめ」


「ちぇっ」


そうしてステラは街のパン屋で働くことになった。

ここ数ヶ月で上達していた家事スキルの手腕を買われたそうだ。

ここしばらくは毎日ステラと職場に行き、一緒に帰ってくるという日々が続いていた。


「じゃじゃーん、どうですかお母さん」


「あらあら、とても美味しそうね」


ステラがパン屋で働き始めてから、食卓に出てくるパンがとても豪華になっていた。

僕がぱぱっと作ったパンよりも圧倒的に美味しくて、毎日食べている今でもほっぺたが落ちそうになる。

母さんの体調も前よりだいぶ良くなり、こうしてステラと一緒にキッチンに立って家事をできるようになった。

気温も温かくなってきたので、毎日少しだけ外を二人で散歩しているらしい。

元の元気な母さんに戻りつつあって、すごい嬉しいな...。


「ルナも、出来立て食べてみる?」


「あっうん、じゃあ頂こうかな」


「はい、あーん」


「えっ」


「どうしたの?」


「い、や...あーん...」


「どう?美味しい?」


「う、うん」


美味しいには美味しいんだけど...。

ちょっと羞恥心の方が大きいかな...。


「あらあら...。あなたたちそんな仲になったの?」


「そ、そんな仲?」


「え?恋人同士になったんじゃないの?」


「はぁ!?」


「えっと...お母さん、そんなことは...」


「あらそうだったの?たまに二人で一緒に寝たり、抱き合ったり手を繋いだりしてるからてっきり...」


確かにステラとしていることは恋人同士がするようなスキンシップばかりだと気づいた。

こ、恋人同士でもないのにこんなことしてしまうなんてあまりにも失礼だ...!

これからは気をつけないと...。

それからステラを避けまくるようになってしまった。

一緒にベッドで寝ることも、触れ合うこともなくなって心がどんどん疲弊していっている気がしたけど...。

ステラのおかげで、明日の仕事も頑張ろうって...思えるようになってたんだな...。

ステラを避け始めて一週間、今僕は...ステラに詰め寄られています...。


「ねぇルナ、私何かした?」


「いや何もしてないけど...」


「...なんで目も合わせてくれないのよ」


「いやぁあははは」


笑って誤魔化すが絶対にステラは納得しないよな...。

ちら、とステラの方を見ると今にも泣き出しそうになっていた。


「ごっ、ごめん、その恋人同士でもないのに恋人同士がするようなスキンシップをしていたことに今更気づいて、その恥ずかしくなってしまったといいますか、別にステラが嫌いになったとかでは...!」


「そ、そんなこと?」


「そんなことって...僕にとっては結構一大事...」


「ぷっ...あはははは!」


「笑うなよぉ...」


「だって...ルナすごい可愛い」


「なっ...。男に可愛いって言うなよ...」


「あら、可愛いと思ったら可愛いって言う方がお得じゃない」


ふふん、と得意げに笑っているステラを見て、いたずら心というか、ステラに意地悪をしたくなってきた。

僕はステラの頬に触れ、じっと見つめた。


「な、なによ」


「...可愛い」


「はへっ...!?」


「可愛いと思ったら可愛いって言う方がお得なんだろ?」


「そっうだけど、こんな突然...」


「真っ赤になってるのも可愛い」


「ひっ...!」


「耳まで赤くなってる...可愛いね」


「も、もうやめてぇ...」


か、勝った...。

ステラは頭から湯気を出し、そのままぐったりしてしまった。

さ、さすがにやりすぎたかな?


「あらあらイチャイチャは程々にね?」


「うわぁっ母さん!?」


「うふふ、将来孫を抱くのが楽しみだわ〜」


「ち、ちが、違うからね!?」


「はいはい。うふふふふ」


母さんはそのまま一人で散歩に行ってしまった。

絶対誤解してる...。

いや誤解するような行動をしていたのはこっちか...。

とりあえず...ぐったりしてるステラを寝室に運ぶか...。

ステラを横抱きにし、寝室まで運び、ベッドに降ろす。


「ルナ」


「な、にっ...」


ぐったりしていたはずのステラから名前を呼ばれ、振り返ると突然ステラの唇が自分の頬に当たった。


「これでおあいこ!」


ステラはすぐに布団を被ってしまった。

え、えぇぇぇぇ...!?

混乱した頭で寝室から出て、その場に座り込んだ。

な、なんちゅうことを...!

ステラの唇...柔らかかった...って変なこと考えるんじゃない...!

不埒だぞ自分...!

はぁ...これからステラにどんな顔して接していけばいいんだ...。




「ほう、お前がルナか」


「はい?」


仕事が終わり、ステラを待っていると突然変なおっさんに声をかけられた。

こんなやつ...見たことないな。


「ふんふん、お前がシリウスの...」


「シリウス?」


「あーいやこっちではステラって呼ばれてたんだっけ?」


シリウス...。

もしかしてステラの...前の名前か?


「...ステラの知り合いか?」


「まぁそうだな、シリウスは俺の...婚約者だ」


は?

婚約者?


「どういうことだ?」


「そのままの意味さ。俺たちは将来を誓い合っていたのさ...。だというのに、お前が俺たちの仲を引き裂いたんだ!」


「はぁ...」


「なんだその適当な返事は!まぁいい、シリウスは俺がもらっていく」


「...ステラは物じゃない、生きている一人の人間だ。もらっていくとか奪うとか...あとシリウスじゃなくてステラだ」


「っ...口答えするな、もらうといったらもらうんだ!まぁ...もうもらった後だがな」


「なっ...!」


そう言うとおっさんはぽっけから水晶玉のようなものを取り出した。

中には...ステラが入っていた。

こんなことできるなんて...。

こいつ何者だよ...!


「お前っ...!ステラをどうするつもりだよ!その水晶玉から出せ!」


「無理な相談だな...俺たちが結ばれるのは確定しているんだ。お前が口出しできるものではない」


「...僕はステラの家族だ、口出す権利はあるだろう」


「お前はシリウスの本当の家族じゃないだろう。ただの他人だ。数ヶ月一緒に暮らしただけのな」


「っ...」


そうだ...。

僕とステラはただの他人だ、だけど。


「そうかもしれないが、ステラは僕の大事な人だ!他人なんかじゃない!」


「ほう、お前もシリウスのことが好きだと?」


「あ、あぁ!」


「それは...友情か?家族愛か?それとも恋愛的な意味での好きか?」


「そっれは...」


「ま、お前のような小童に分かるはずがないよな、愛だとか恋だとかの感情は。まぁいいさ、シリウスが欲しいというのならば...奪い返しに来い」


「なっ、どこに行くんだ!」


「空だよ、ステラの故郷、俺たちの住む場所さ」


もしかしてこのおっさん、ステラと同じ星か...?

途端、おっさんは水晶玉を持ったまま浮上した。

空に行ってしまったら届かない!


「待て!」


必死に手を伸ばしたが、全くと言っていいほど届かなかった。


「くそっ...!どうしろって言うんだよ...」


僕はしばらく...動けなかった。

僕はステラが恋愛的な意味で...好き...なのか?

分からない...。

こんな気持ちで...ステラを...取り戻すなんて...。

僕は立ち上がり、そのまま家に帰った。




「おかえりなさい...あら、ステラちゃんは?」


「...いなく...なった」


「え?どういうこと...?」


「っ...連れ去られた...空に...」


「そんな...」


「あいつは...空を飛んでた。きっと...ステラと同じ...」


「ステラちゃんは...お星様だったのね」


母さんは妙に納得したかのような様子だった。

気づいてたのか...。


「...ルナはどうしたい?」


「どうしたいって...無理だろ...あんな...空に行かれちまったら...それに...ステラも、空に帰った方が幸せかもしれない...」


「...私はルナがどうしたいのかを聞いているの」


「っ...」


母さんは今までにないぐらいに真剣な顔だった。

そりゃ...。


「助けたいに...決まってる...!」


そうに...決まってるだろ...。

ステラは僕の大切な人だ...大好きな人だ...。

このままお別れなんて...絶対に嫌だ...!


「そう...それなら、今まで私が預かっていたあなたの力を...返すわ」


「え...?力...?」


すると母さんは僕の額に自分の額を合わせた。

途端に、母さんから何か...温かいものが流れ込んでくる気がした。

な、なんだ...この力は...。


「はい...これで全部ね」


「これ...は」


体が...軽い。

体の奥底から、とてつもないパワーが溢れ出てくるような...。


「あなたのお父さんは...ステラちゃんと同じで、空から来た存在なの」


「え?」


「お父さんは...お月様だったのよ」


「月...って十年以上前に空から突然消えたっていうあの...?」


「そう...あなたのお父さんはね、私を...死んでしまいそうだった私を助けてくれたの。けれどそのせいでお父さんは空から追放されてしまった...」


「そう...だったのか」


「あなたはね...お父さんの力を、受け継いでいるの。だから...これでステラちゃんを助けに行けるはずよ」


「っ...ありがとう、母さん...!」


「お礼なんて言わなくていいのよ...ただ、私は力を返しただけ...さぁ、早くステラちゃんを助けに行ってあげなさい」


「うん...!行ってくる!次帰る時は...ステラと一緒に!」


「えぇ、待っているわ。いってらっしゃい、ルナ」


「いってきます!」


僕を勢いよく家を飛び出した。

なんとなくだけど、この力の使い方が分かる気がする。

僕は空を飛ぶイメージをした。

ステラが穴の中から、引っ張り出してくれた時のように。

途端に僕の体は浮き始めた。


「わっと、っと...バランス取るの結構難しいな...でも、急がないと」


早くステラに会いたい。

会って...話したいんだ。

僕は君が...。




「おいおい何が気に入らないっていうんだシリウス、君が望むものは全て用意したというのに」


「さっきから言ってるでしょ!私がただ一つ望むものは、ルナの元の帰ることだって!いいからこの鎖を外しないさい!それとシリウスって呼ばないで、今の私にはステラっていう名前があるんだから!」


「注文が多いなぁ。まっ、ルナって小僧がここまで来るっていうんなら解放することも考えてやってもいいがな」


「あなたって本当に...」


ルナがこんなところに...来れるわけないじゃない...。


「ははっ、いい目だ。久しぶりに帰ってきたんだ、ゆっくりしておけよ」


「嫌よ」


「はいはい。気難しいお嬢さんだ。じゃあな、シリウス」


ベテルギウス...。

どうしてこんなことを...。

他の星たちに恨まれている私を空に連れ帰って監禁するなんて...。

何を考えているの...。


「ルナ...」


会いたい...ルナに。

ルナに私は...何も...言いたいことを言えていないのに...。

今頃どうしているのかしら...。

ショックを受けてる?

それとも普通に仕事をしてる?

それはそれで悲しいわね...。

ショックも...受けててほしくはないけれど...。


「はぁ...いつになったらここから...」


もしかして一生...帰れないんじゃ...。


「ステラ!」


え?

嘘...そんなはず...。

この声は...。


「ルナ!」


「ステラ!」


ルナに力強く抱き締められ、目の前に...ルナが...いることをはっきりと認識できた。

あぁ...ルナ...。

まさか本当に会えるなんて...。

これは夢...?


「ルナ...あなたどうしてここに...それに...その髪と目は...」


ルナは綺麗な艶のある黒髪と、黒曜石のような黒色の瞳だったはず...。

けれど今は...月を映し出したかのような金色の髪と瞳になっていた。


「さっき母さんから聞いたんだけど...僕の父さん、お月様だったみたいだ」


「え、えぇ!?」


十年以上前に空から追放されてしまったっていう...あの?

まさか...ルナが月の息子さんだったなんて...。

そう、だから...ルナから懐かしい気配がしたのね...。


「母さんから力を返してもらって...ステラを、助け出すために」


「っ...!ルナ!ありがとう...私のためにこんなところまで...」


私はもう一度、ルナに思いきり抱きついた。

ルナは私を強く抱き締めてくれた。

あぁ...温かい...。


「ステラ...もう、離さない」


「えぇ...離さないで...ずっとずっと、離さないで...」


私たちはしばらく、強く抱き締め合っていた。




あぁ...ステラ...よかった...また会えた...。

またこうして会って...気づいた。

僕は...ステラが好きだ。

どうしようもなく...大好きなんだ...。


「ルナ...早くここから離れましょう」


「あっ...そうだね」


ステラにそう言われ、はっとする。

こうしてずっと抱き合っていたかったけれど今はここを離れるのが先だ。


「でも...この鎖が...」


「え?」


ステラの足をよく見ると、ステラは鎖に繋がれていた。

なんで...こんなひどいことを...。

あの...ステラを連れ去ったおっさんがやったのか...?


「ステラ...ごめん気づかなくて、すぐに壊す」


「え...そんな無理よ、この鎖は私でさえも...えっ...」


鎖に手をかけると、いとも簡単に鎖が砕けた。

...本当に、すごい力だ...。


「す、すごいわねあなた...」


「そうかな?正直自分がこんな強い力を持っていること、あんまり実感が湧かないから...」


「ふふ、ルナらしいわね」


「そうかな?とりあえず早くここを離れよう」


「えぇ、きゃっ...!?」


僕はステラを抱き抱え、立ち上がった。

ステラは顔を真っ赤にして何か言いたげにしていた。

可愛い...。

って違う違う、早く母さんのいるあの家に帰ろう。


「おっと、そうはさせねぇぜ」


「...おっさん」


どこからともなくおっさんが現れた。

なんかかっこつけて立ってるけど...。

早くどいてもらっていいかな?


「おっさんて...。俺にはベテルギウスっつう立派な名前があるんだけどなぁ?」


「...どうでもいい、いいから早くどけ」


「おぉ怖っ。俺をどかしたいていうなら力づくでどかしてみな!」


「なっ...」


おっさんは手から光の球のようなものを出し、こちらに投げてきた。

雲を突き抜け地上の方にいってしまったが、あれに当たったらただではすまない。

そんな感じがする。

というか...。


「おいステラに当たったらどうすんだよ!」


「そこかよ!お前が全部避ければいい話だろ、どんどんいくぞ!」


「っ...くそ!」


「ルナ、私のことは降ろして、じゃないと...!」


「...もう離さないって言ったろ、絶対に離してやるもんか」


「ルナ...」


「それに...それが目的なんだろ?おっさん」


「なんのことかな?」


「今ステラを離したら...絶対すぐにまた攫うだろ」


「あーあーあー勘のいいガキだなまったく」


「...なんでそんなにステラに執着するんだ」


「執着?そんなものじゃない。シリウスは俺の物だ!」


「はぁ?誰がいつあんたの物になったっていうのよ!」


「ステラ、あのおっさんと婚約者だったんじゃないの?」


「はぁ!?そんなわけないでしょ!ずっと付き纏われて迷惑だったのよ!」


「えぇ...」


僕はおっさんにこれでもかというほど軽蔑の視線を向けた。

全部嘘だったのかよ...。


「うっほんっそれはまぁさておきな?」


「さておくな」


「っ...なんなんだよお前は!」


「はい?」


「ぽっと出のお前が、どうしてシリウスの心を射止めたんだ!」


「ちょ、ベテルギウス!」


心を、射止めた?

なんかステラも顔赤くなってるし...。

えっと...え?


「ずっとずっと空の上からお前を見てるシリウスを見ていた!手の届かない存在のお前に焦がれているところをずーっとな!俺はお前が生まれる前から、ずっとずっとシリウスのことを愛していた!それだというのにシリウスは一度も振り向いてくれなかった!どんなに愛を囁いても、どんなにプレゼント送っても、一度も!見てくれなった!なのに、お前は!お前はなんでシリウスに...!」


おっさんは納得がいかない、と散々本音をぶちまけた。

えっとその、いろいろと聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするんだけど気のせいかな?

腕の中にいるステラの方を見ると顔を真っ赤にしてそっぽを向いていた。

え、なにこれ可愛い。


「まぁ...前半のステラが僕に焦がれてた云々の話は後で聞くとして...」


「ひえっ」


「...おっさんはずっと...ステラを物扱いしてる気がするんだけど。そういうところがステラに見てもらえないんじゃないの?」


「は...?」


「ステラを攫っていった時も婚約してたって平気で嘘つくし、おまけに物扱いしてるし...そういうところが...」


「黙れ黙れ黙れ!お前なんか、お前なんかぁ!」


「ルナ!」


「大丈夫、力の使い方が分かってきたから」


おっさんは特大の光の球を出してきた。

けれど...そんなもの意味はない。


「なっ...!?」


放たれた光の球を弾くとおっさんは驚いて腰を抜かしていた。

そんなに驚くことじゃないと思うんだけど...。


「俺の力を...どうやって...というかお前、そもそもなぜこんなところに来れている!?何者だよ!」


「...別に...ただの炭鉱夫だけど」


「ただの炭鉱夫は俺の攻撃をあんな風に簡単に弾けねぇよ!」


「ベテルギウス...諦めなさい、ルナは月の...息子さんよ」


「は...?月の...?」


「まぁ...そうみたいだね」


僕の正体を知ると、おっさんは生気を失ってしまったのかぐったりとしていた。

えーと...撃退成功?


「ちょーっと!ベテルギウス!あんた何してるの!」


「プロキオン!」


プロキオン?

すると突然ひょっこりと女性が顔を出した。

ステラとはまた違ったタイプの美女だな...。


「あら〜久しぶり〜シリウス!元気してたぁ?」


「え、えぇ...。プロキオンも元気そうね」


「まぁねぇ。まっこいつのせいで元気なくしたけどね。あんた本当に何をしているの!好きだからといって、何してもいいわけじゃないでしょう!」


「だって...俺は...」


「だってじゃない!あんたいつまでも尻込みしてシリウスに告白しなかったくせに、他の男に盗られそうになったら奪いにいくなんて、とんだ最低男じゃない!」


「うっ」


「もう、反省しなさい!ごめんなさいねぇ二人とも、あとはごゆっくり〜ほらあんた行くよ!」


「離せ!俺はシリウスに!」


「はいはい、話は後で聞くから、あ、こいつは私が抑え込んでおくから安心してね〜じゃね〜」


「あっおい、まだっ」


嵐が過ぎ去ったように、あたりは一気に静かになった。

これで...一件落着...?


「まぁいいか...。帰ろうか、ステラ」


「えぇ、帰りましょう」


僕たちは笑い合い、一緒に家に帰ることができた。

家に帰ると、母さんは泣きながらステラに抱きついていた。

ステラも母さんに釣られたのか涙を流していた。

それから僕たちは今までと変わらない、平凡な日常を過ごしていた。

あと...ステラに一つ、聞きたいことがあった。


「あの...ステラ...」


「なぁに?」


「ずっと...聞きたかったことがあるんだけど...」


「なぁに?」


「あのおっさんが言ってた...ずっと空から僕を見てたってのは...本当なの?」


「へっ...!?な、なんのことかしら」


「ステラ、誤魔化さないで...ちゃんと教えて」


「っ...。そう、ね...ベテルギウスが言ってたことは...本当よ。その...前々から...あなたのこと知っていたの。ずっとずっと前から...あなたのことが...す、好き...だったわ!」


「え...」


「お母さんのために一生懸命働くあなたが...眩しく見えて...優しくて、かっこよくて...あなたに、会いたいって思うようになった。それでその...人間に恋してるってことがばれて空を追放されちゃったんだけど...」


「そう...だったのか」


「まぁ今となっては追放されてよかった...って思うんだけどね。それでそのルナは...私のことどう思ってるの?」


「へ?」


「わ、私は全部言ったんだから、あなたも私のことどう思ってるか言いなさいよ!」


「あっ...えっと...その、ステラ。僕は...君のことが...きっと出会った時から...好きでした」


「っ...本当に...?」


「君が言えって言ったんじゃないか...」


「だ、だって...好きになってもらえているなんて...思ってなかったんだもの...嬉しい...ルナ!」


「うわっ!?」


あれ...何か...唇に柔らかいものが...。

こ、これもしかして...ステラとっ...!?


「ぷはっ...えへへ...大好きよ、ルナ!」


「は、はへっ...僕も...好き...」


そうして僕たちは晴れて...お付き合いすることになりました...。

母さんにこのことを報告すると、ステラが帰ってきた時よりも泣いて喜んでくれた。

さっそく結婚だとか孫だとかの話をしていて居た堪れなくなるけど...。

それから三ヶ月後、僕は炭鉱夫を辞め、本格的に作ったアクセサリーを売り出すことになった。

ステラがパン屋で仕事をしている時、いつも付けている髪飾りをある商人が見初めてくれたらしく、ぜひうちに売ってくれ!と懇願されたらしい。

さすがにこれは渡せないから、と新しくアクセサリーを作って商人に渡すとそれはもう喜んでくれた。

そして定期的にアクセサリーを商人に売ることになり、僕は専属のアクセサリー職人となることができた。

母さんもステラも、すごく喜んでくれた。

今の僕の夢は、自分の店を持つことだ。

そのためにも、もっと頑張らないと。

ステラは変わらずパン屋で働いていて、体調が良くなった母さんも働く僕たちを支えてくれている。

今までにないくらい、幸せだ。


「ねぇねぇ、そういえばルナの望みって...なんだったの?」


「え?」


「ほら...初めて会った時の夜聞いたじゃない」


「あぁ...今更それ掘り返すの?」


「いいじゃない、気になったんだもの」


「えっと...その」


「うんうん」


「同い年の子と...外で一緒に遊んだりしてみたかった...っていうのと...冒険...外の世界を見てみたかったっていう、ちっぽけな望みだよ」


「あら、いいじゃない。今から一緒に外で遊ぶ?それとも冒険に行っちゃう?」


「もうそんな年じゃないでしょ」


「遊びは年とか関係ないでしょ」


「...それもそっか」


「そうよ」


「ねぇ、ステラ」


「なぁに?」


「ステラは...何か望みとかあるの?」


「え?」


「ほら...空に...帰りたいとか...」


「...帰りたいと思う?」


「あんまり...」


「でしょ?いいのよ、ここが...私の居場所だから。それに...もう望みは叶ったもの」


「え、どんな?」


「私...ずっとただの星になりたかったのよ」


「ただの星に?」


「そう!私は...星だった頃、結構大きな役割を背負っていたのよ。だから...ただの、ただそこに存在する星になりたかったの」


「それは...なれたの?」


「えぇ!私はあなたの隣にいる、ただの(ステラ)になれたわ」


「そっか...それならよかったよ」


「うん!」


「ステラ、好きだよ」


「私も好きよ、ルナ」




それから、長い月日が流れた。


「ねぇねぇお父さん、お星様はなんであんなに輝いているの?」


「それはね、僕たち人間の道標となって、願いを叶えるためだよ」


「へーそうなんだ!どうしてお星様は、僕らの願いを叶えてくれるの?」


「それは...」


「それはとってもお星様が優しいからよ!」


「わぁ!お母さん」


「ステラ、危ないだろう」


「えへへ、ごめん。あ、この絵本!また読み聞かせてもらってるの?」


「うん!この絵本大好き!」


「そっかぁ。じゃあ私も読み聞かせてもらおうかなぁ」


「それは恥ずかしいかもなぁ」


「ほらほら、お父さん読んで!」


「はいはい...」


炭鉱夫として働いていた頃には、考えられない光景だろう。

可愛くて美人なお嫁さんをもらって、子宝にも恵まれて...。

本当に...幸せな人生を歩んでいると思う。


「んー...」


「あらあらもう寝ちゃった」


「今日はいっぱい外で遊んだからな、疲れてたんだろう」


「そうねぇ。私たちもそろそろ寝ようか」


「そうだね、ステラおやすみ」


「おやすみ、ルナ」




地上に降り立ったばかりの寂しそうなお星様は、ある心優しい少年と出会いました。

二人はお互いに助け、助けられ、絆を深めていきました。

悲しいことも、嬉しいこともたくさんありました。

それでもお星様と少年は笑い合いました。

お星様は空に浮かんでいなくとも、心優しい少年がいればきっと輝ける。

お星様と少年の、物語。

きっとずっと続いていく、幸せな物語。


-おわり-

きらきら、というテーマを見てすぐに星と月を思い浮かべました。

どんな話にするか試行錯誤した結果、よし星と月に恋愛させよう!(?)という結論に至り...。

こんな感じの物語になりました。

楽しんで読んでいただけたら幸いです。

ちなみにルナは14歳、ステラは3000歳くらいです。

ステラは少女の姿をしていますが、これはステラがルナの年齢に合わせて姿を変えているだけで実際の姿は大人の女性です。

大人の女性の姿になってルナを翻弄するステラとかを書いてみたかったんですが、さすがに長くなりすぎてしまうので泣く泣くカットしました。

多分ルナと一緒に歳を重ねて、成長していくんでしょう。

後書きが長くなってしまいましたが、「星の願い」を最後まで読んでいただきありがとうございました!

ご感想などお待ちしております!

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