エピソード6:優しい洗濯屋
(前書き)
ノボルは新しい世界で少しずつ前へ進み始める――
今回は彼にとって、最初の“出会い”の話です。
「……どんな物語になるか、ばかり考えてて、どこに進むべきか考えてなかったな。」
ノボルは深呼吸し、拳を握った。
「よし! 物語の種類なんて気にする必要はない。いずれわかることだし! だったら今は、目の前の小さな目標に集中するだけだ!」
――どうやって、この異世界を進めばいい?
「俺が有名人じゃないのは分かってる……なら――」
視線が隣の屋台に突き刺さる。
「まずはこの親切そうな……人に話を聞いてみよう!」
「テン……デロ?」ノボルの顔が固まる。
「おーい!」
その男は手を振りながら明るく挨拶した。
「お、おーい……」
緊張した声で返す。完全に呆けた顔をしてしまった。
「どうした、小さな迷子くん?」
……形容詞が多いな。
「え、えっと……」ノボルは何を聞けばいいか全く分からなかった。
「ふむ、その奇妙な服を干したいのか? 最近はそういうカジュアルな格好が流行ってるのかね? お洒落だ!」
「お、おお、ありがとう、えへへ……」
(学生服がオシャレ……? いや、まぁ、この世界の服装と比べたらフォーマルかもな。)
男の服装は奇妙だった。
深いエメラルド色のズボンに、黒いベルトのような肩紐。肩には小さな金属の防具。頭は短いモヒカンで、腕には包帯を巻いている。
「それ、ケガ……してるんですか?」ノボルが指さすと、男は一瞬固まり――
「はははっ! おもしれぇな、坊主!」
背中を軽く叩きながら大笑いした。
(なるほど、これがこの世界の普通の服装ってわけか……。いや、でもやっぱ変だろ。)
「なぁ、なんでそんなに緊張してるんだ?」
「えっと……」ノボルは困惑しながらも口を開く。
「その……“洗濯屋”って、仕事なんですか?」
「うお、失礼なやつだな」
「あっ、ち、違うんです! そういう意味じゃ……」
「ははは、冗談だって!」
また背中を叩かれた。
(あー、この人……マイペースだな。)
「もちろん仕事さ! こうして生活の糧を得てるのさ」
「でも、自分で服を干したりすればよくないですか?」
ノボルの目は干された服へ。手作業で乾かされ、きれいに畳まれている。
正直、お金を払う価値があるのか分からない。
「たとえばこう考えてみろ。君、初めてこの街に来たんだろ?」
「はい。」
「よし、じゃあ想像してみろ。皆、派手な服を着て意気揚々と冒険を始める。だが――ドシャーン! 突然の大雨! 服はびしょびしょ! 宿も満室! 外に出たら寒くて凍える!」
勢いよく机を叩く。ノボルがびくっと体を跳ねさせる。
男は服を一枚取り、水の桶に沈めた。
「えっ?」
「そんなときに登場するのが、彼らの救世主だ!」
次の瞬間、男の掌にオレンジ色の光が宿る。
服も同じ色に輝き、まるで乾燥機に入れたように一瞬で乾いた。
「ほら、これでまた冒険再開ってわけ!」
「ま、ま、まさか、それ――魔法!?」
ノボルは机をバンッと叩いた。目が輝いている。
「ははっ、初めて魔法見たみたいだな!」
「も、もう一回! もう一回!」
完全に子どものようだ。
男は笑いながら再び手を光らせる。
ノボルは興味津々で指を伸ばした。
「うわっ、あっつ!」
思わず手を引っ込める。
「信じられない、本物だ……!」
「はは、低級魔法だよ。そんなに驚くなって」
光はすぐに消えた。
だがノボルの笑顔は消えない。
(魔法が……本当にある! ってことは……)
「俺にも、できるのかな……?」
「ん? 何か言ったか?」
(魔法! 本当に魔法! 俺の力は何だ!? どんなスキルがある!?)
「おいおい、爆発しそうな顔してるぞ、坊主」
男の言葉も耳に入らない。
ノボルの心は、完全に高鳴っていた。
「えっと、あの――」
「その前に名乗らないとな! 名前を知らないまま話すのも失礼だろ?」
「あ、す、すみません!」
「俺はW・レオンハルト。みんな俺のことは“W”って呼ぶ。よろしくな」
「……」
「……?」
「えっと……もう一回、お願いします」
「W・レオンハルト」
「……W?」
「そう。」
「そ、それが名前……ですか?」
「ああ。」
「え、冗談じゃないんですか?」
「俺の名前をバカにしてるのか?」
「い、いえっ! そんなつもりは……!」
(いや、絶対ヘンな名前だろ!)
「ぼ、僕は加藤ノボルです! よろしくお願いします!」
深々とお辞儀する。
「すげぇな、お前の国はずいぶん礼儀正しいんだな」
「え、ええ……まあ、そうです。」
「なるほどな。カトー・コボヌか。」
「ノボルです。」
「……ロボル?」
「ノ・ボ・ル!!!」
(なぜ誰も俺の名前を覚えられないんだ……!?)
「“ノボル”か。変わった名前だな。」
「そ、そんな……!」
(怒りで血管が爆発しそうだ!)
「で、何を聞こうとしてたんだっけ、ノボル?」
(名前呼び捨て!? まぁ、この世界では普通なのかもな。)
「えっと、Wさん――」
「“さん”はいらない。Wでいい。」
「い、いや、それは敬称で――」
「ケイショウ?」
男の顔がきょとんとする。
(あ、そうか……ここは日本じゃない!)
「えっと、それよりも……さっき言ってましたよね? “冒険を始める人たち”って!」
「おう。この街は“中央都市”だからな。」
「ちゅ、中央都市……!」
ノボルの目が輝く。
「つまり――ここから冒険者が旅立つ場所なんだ。」
「う、うおぉぉぉっ!」
「また爆発しそうだぞ、お前の顔。」
「す、すみません……!」
声を抑えながらも、全身から興奮が溢れていた。
「その様子だと……君も“冒険者”を目指してるんだな?」
「はいっ!」
「いいねぇ。若者の情熱は世界を変える!」
「感じましたか!? 俺に秘められた才能を!」
「……は?」
「俺、きっと最強の冒険者になります! 世界に名を轟かせる伝説の英雄に! いや、悪を震え上がらせる存在に!」
「はは、頑張れよノボル。でも気が変わったら、いつでも洗濯屋で雇ってやる。」
「そんなのダメです! 俺はこの世界で生きていく! 冒険者として、世界に宣言しますっ!」
拳を天に突き上げ、空気を切るように振るうノボル。
Wはただ優しく微笑んでいた。
「なら、“初心者の塔”に行くといい。」
「初心者の……塔?」
「ああ。この街は安全で設備も整ってる。冒険者を登録する場所がその塔だ。簡単な試験を受ければ、“ライセンス”がもらえる。」
「な、なんて便利な! いや、助かるけど! お金ないんですよね俺!」
「……あぁ、そういえば。登録料は銅貨10枚だったな。」
「……」
(ど、どうやって金を稼げばいいんだよ……!?)
ノボルは初めての“仲間”と出会い、次の目標を見つけた。 だが――“お金”という現実の壁が立ちはだかる!?




