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彼の深い恋情_気づかないふり



 俺の彼女は変なやつだ。

 とにもかくにも、変なのだ。



 俺の彼女、鈴木理子はとにかく普通だ。



 別に容姿が特別いいやつでもない。

(ただしかなりかなりかわいい。誰がなんと言おうとやたらかわいい。)

 頭が極上にいいわけでもない。

(ただし会話しているととても楽しめるくらいに頭の切れがある。誰がなんと言おうと賢い。)

 運動神経だって、まあ普通だ。

(ただし二人で歩いているとき、ちょっとこけかけて恥ずかしがる様子は鼻血を出したくなるほどいい。異論は認めない。)



 俺という、天から二物や三物を頂戴している人種から言えば、平々凡々としている。

 そういいきるのは嫌みったらしくて鼻持ちならないやつ、という気持ちを与えるのは分かっている。しかし、これを否定して謙遜したほうがかなりの嫌味だろう、と思うのだ。



 容姿端麗、スポーツ万能、頭脳明晰、家柄良好。自分を取り巻く環境、自分の持ちうる才能はすべて、こうした華美な評価を与えられてきた。

 自分でも、それなりに努力して、そうした豪華な称号に相応しい人物になろうと努力を重ねてきている。そんな人が、「いやいや、自分はとてもとても。あなたのほうが素敵ですよ」などとのたまってみろ、なんて嫌みったらしいやつなんだ、とはならないだろうか。

 別に、誰彼かまわず、俺はなんでも持ちうる人間だ、と主張する必要はないが、自己認識くらい正しいものでいないと、謙遜するときも誤りかねない。




 そんな俺と彼女が付き合いだしたのは、ごく最近だ。

 高校の卒業式の日。彼女から言い出して付き合い始めた。

 呼び出されて何事か、と思っていたら、妙に色っぽい顔をして告白をしてきたのだ。

 俺は喜びで動揺しながら、何とか体面を取り繕って返事したのを覚えている。勿論イエスだ。




 彼女との付き合いは、それこそ母親の乳を吸っているころからのものだ。

 家が隣同士で、親同士の仲が良かったものだから、交流があったことに始まる。

 幼稚園、小学校と手を繋いで登校する姿は、ちょっとした微笑ましい光景としてご近所から人気があったほどだ。



 だがしかし、子供とは第二次成長を迎える。男女、というものを、意識し始めるた途端、彼女と登校するのが、手を繋ぐのは、気恥ずかしくてたまらなくなったのだ。これは、思春期として真っ当な成長であるから、なんの後悔もしていない。ただ、もっとうまくやれただろうな、という反省はある。ただ、過ぎてからの感想だ、あの頃に求めるのは酷だろう。



 告白をされだしたのも、中学にあがってからすぐだった。今でも覚えている。本当に裏庭に呼び出されて、潤んだ瞳で想いを告げられた。漫画のような展開にのぼせ上がって、すぐにいい返事を返してしまったのは、今思えば青臭すぎて身悶えする。



 それから、俺は彼女を切らしたことがなかった。なんとも人を食材のように扱った発言だが、ご勘弁いただきたい。本当に、切れ目がないくらい彼女たちは俺に交際を申し込んできた。

 すぐに終わったものもあれば(1日とか)、そこそこ付き合った彼女もいる(それでも5ヶ月だ)。そのすべてをちゃんと覚えているものの、その隙間に必ず存在していた女性がいた。

 お察しの通り、今の彼女である。



 高校生にもなれば、同じ学校であったことも幸いして、お互いのわだかまりも解けていた。あれだけ敏感だった時期も、過ぎ去ってしまえばなんであれだけ過敏になっていたのか、という感想しか残らない。変わらない彼女を見て、とても嬉しく思っていた。

 そのころから、何となく彼女に名乗り上げる女性たちの考えの裏を、ほんのり感じ取るようになっていた。俺という人間の彼女、という位置から得られる、ステータスだとか旨みだとかを求める気持ちだ。



 俺はそれを浅ましいとは思わない。誰だって、その程度求める気持ちはある。見ていて麗しいほうがそりゃあいいだろうし、お金はないよりあるに越したことはない。頭だって良いほうがいいだろうし、スポーツだって出来て方が何かとお得だ。


 ただ、それだけを見ている人間を肯定するわけでもない。あくまで俺のオプションであるからいいものであり、俺がオプションになるのは我慢できない。その程度に、俺はプライドある人間である。

 


 俺がオプションである、と認識する女性が多くて辟易しながら、それでも俺のオプションとして求めてる程度の女性と付き合いを続けていた頃。

 長く、俺は、俺がオプションではなく、俺のオプションを求めるでもなく、単に俺を認めてくれる女性に気がついた。長いこと、つかず離れず、けれど結局くっついて、隣を歩く、隣に座る、平々凡々とした、幼馴染の存在に。


 特筆すべき点が必要なのだろうか。

 たとえば、俺が色々な特筆できる点があるとして、それを理由に誰かを好きになる理由にも、嫌う理由にもならないのではないだろうか。

 笑顔で何もかも応援してくれる彼女。

 憎まれ口もたたく、感情表現も気遣いがありながらストレート。

 計算も媚も、なんだか絶妙にうまい。不快感がない。


 なにより。


 俺にとって変わらず昔から、やたらかわいかった。



 それは、なんというか気恥ずかしいが、昔抱いた初恋の再燃だった。



 だから、告白されたときは、なんとも有頂天だった。

 まさか、あちらから俺の手中へ飛び込んできてくれるとは思わなかったから。

 高校を卒業し、大学生という最後のモラトリアムを謳歌する時期に、ゆっくり篭絡していく予定だったのだ。それを大学入学の最初から手にしてしまうとは。なんとも大きな願望を達成したものである。


 そう、目に入れてもかまわない、可愛らしい彼女なのだが。

 そんな彼女は、変なやつである。俺が、ほかの女性と話していても、まったく嫉妬しないのだ。



 最初は、きっと信頼してくれているからだと思っていた。

 彼女は俺に全幅の信頼をしてくれているがゆえに、俺に対してそんな感情を抱かないのだと。

 しかし最近、それがどうも違うような気がしているのだ。間違いない、彼女は俺を信頼していないがゆえに、嫉妬していないようなのだ。


 最近、他の男と楽しそうに会話していた場面を見て、頭に血が上った。相手を殴りつけることはなかったが、とにかく顔がほてるくらいに悔しくなったのだ。だって、彼女がもう、それはかぶりつきたくなるくらい可愛らしい顔で笑っていたのである。それも、俺が分からない内容で!



 これを嫉妬せずにいられるだろうか。いや無理だろう。彼女の特上の笑顔は、俺が与える事象にのみ起こるべき奇跡であるはずだ。

 なので、断固俺は抗議した。人気のない教室に連れ込んで。今思えば、よく押し倒して体に教えてやる、という展開にならなかったものである。人気のない教室なんて、こう、燃えるではないか。(俺は断じて変態ではない。)


 そんな俺の愛に溢れた抗議に対して、彼女は言ってのけたのである。


「いや、そんなの絶対無理だから」


 絶対! 無理! 言うことに欠いて、完全な拒絶!

 なんたる無情! なんたる非情!


 俺の頭はマグマよりもどろどろとした激情で、間違いなく噴火したキラウエア火山に匹敵する温度になっていた。測定してないから分からないが、確信できる。


「だって、正宗くんと一緒にいるときが一番楽しいし、笑顔なんていっつも一緒だよ。質が違うかもしれないけど、そんなの気にしたってわからないよ。無愛想にしてたらそれはそれでコミュニケーション難しいじゃない」


 確かにそうだ。それは間違いじゃない。しかし、だから、そうだといって。

 喉の奥でぐるるるる、と獣のような唸り声を上げる。彼女の白い喉笛に噛み付いて、色々なところをまさぐって舐って噛んで撫でて揉んで啜って愛して、俺の気持ちを体に教え込んでやる、などという唾棄すべき暴漢のような考えを頭にめぐらせながら、俺はすんでのところで自分を抑えた。

 だって、そうだろう、そんなことしたらせっかく手に入れた可愛い可愛い彼女がいなくなってしまう。大体、そんなことして嫌わない女性などいないだろう。


「嫉妬なんかしないよ、だって同じ気持ちなんでしょ? する必要がないじゃない。別に嫉妬しないから、わたしが正宗君のこと好きじゃないって感じるわけじゃないでしょ?」


 小憎らしいほど美味しそうな唇で、そんなことをあっさりのたまってみせる彼女。

 落ち着け、とりあえず凶暴な自分は抑えろ。嫌われるだけの自分など、生きているに値しない。

 深呼吸をして納まった動悸と衝動に一安心して、とりあえず彼女に謝っておいた。


「まあ、次は気をつけるよ。あんまりそういう焼餅されないように」


 にこ、と笑った彼女にまた理性が振り切れて、押し倒したくなったのを我慢したこと、勇者だとたたえられるべきである。そうであろう、諸君!


 とにかく、彼女は変だ。

 俺がこれだけ求めているのに、焦がれているのに、愛しているのに。

 彼女だって、俺のことを強く強く愛しているのに。


 なんだか、ひどく冷めている。

 俺の嫉妬を見ても、なんてことのないように振る舞い、ちょっと嬉しがるような色すら見せない。

 俺が女性と話していても、なんの反応もしない。嫉妬ってなにそれ、美味しいもの? というような、冷たい冬の風のようである。


 



 本当は分かっている。

 彼女は、俺のことを、俺くらい強く愛していないのだろう。

 

 ずっと二人きりでいたい。

 ずっと二人で睦みあっていたい。

 ずっと愛を告げていたい。

 ずっと、ずっと、ずっと。


 そういう、凶暴なほどの愛情を、彼女は感じていないのだろう。

 穏やかな、緩やかな愛情を、持っているのだろう。


 それが悪いとは言わない。それを悪だとは思わない。

 俺だって、そういった類の愛情を彼女に持っている。

 しかし、それと同時にそういった感情を爆発させないように有している。独占欲、所有欲、愛欲、そういった、なんだか人に見せるにはあまりに恐ろしい、凶暴な愛情。

 そういった、ある種暴力的な衝動を、彼女はまだ持っていないのだろう。

 それが、たまらなく悔しい。



 彼女の、柔らかい笑顔に思う。


 俺を、もっと愛してくれ。

 もっと、俺を求めてくれ。

 

 願うように、請うように、焦がれるように。

 彼女の、すんなりとした姿に思う。

 なりふり構わず、思って欲しいと要求するのは、とてもひどいことなのかもしれない。

 彼女は、とても頭のいい女性だから。(嫌味ではない。本当にそう思っているのだ!)


 彼女を、俺の最後の女性でいてもらうべく、俺はもっともっと彼女を愛さねばならない。

 とりあえず、手を繋ぐまでという清らかな段階からもう一段、二段、三段、すっとばして十段くらい上に進めるように、デートに誘うべきだろう。


 焦ることはない。

 そうだろう?



 困ったように眉をしかめるきみに、俺はそう問いかけた。



 問いかけずには、いられなかった。






 それが不安だとは、気づかないふりをして。

彼のほうが書きやすかったですが、変な人になりました。

やっぱり何か粗いので、多分こまごまと書き直します。

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