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親水  作者: 小嵐普太
第一章 招かれざる湧水
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第ニ部 親水池へ

荷を部屋に置いたあと、澪と教授は親水池の調査のため、村の中心部へ向かった。

道中、誰一人として村人に出会わなかった。だが、どの家にも洗濯物が干されていたり、囲炉裏からわずかに煙が立ち上っていたりする。

確かに人は()()。ただし、姿を見せたがらない何かの理由があるらしかった。


「ここだよ、親水池。」


教授が指差した先には、低く石垣で囲われた池があった。

直径はおよそ10メートル。

外縁には苔むした丸石が等間隔に置かれており、池そのものが何かの()()のような印象を与える。

澪は背筋に冷たいものが走るのを感じながら、池のほとりに立った。

澄んでいる——とても。

底が見えるほど透明でありながら、同時に底知れぬ深さを湛えているようでもある。

池の中央には、ぽこぽこと絶え間なく水泡が上がっていた。


「……湧水量、かなり安定してますね。あの水泡、止まる気配がない。」


澪が呟くと、教授はメモを取りながらうなずいた。


「だろう? それが()()なんだよ。この規模で、季節にも天候にも左右されないなんてね」


教授は足元の小石を拾い、水面に放った。

——ぽちゃん。

その音と共に、水面がわずかに揺れた。その瞬間だった。


「……っ。」


澪は一歩、後ずさった。

今、水面の奥に何かが()()()ように見えた。人の顔。——いや、顔のような影。


「どうかしたかい?」


「……いえ、見間違い……です。」


澪は目をそらした。自分が水に過敏すぎることは自覚している。

幼い頃、母を水難事故で亡くして以来、水を見るたびにどこか胸がざわつく。

だが今回は、単なるトラウマではない()()が潜んでいる——そう直感した。


池のほとりには、小さな石碑が立っていた。

風化が進んで読みにくかったが、澪はその表面に指を這わせて、文字をなぞった。


「——水、絶やすなかれ。水、振り向くなかれ……?」


「そう。これがこの池の【教え】らしいよ。」


教授は石碑の脇に置かれた古い注連縄を指さした。


「この親水池、どうやら【神域】とされているらしい。だが、どうしてこのような場所に神が祀られるようになったのか……そこが問題なんだ。」


風が吹いた。池の表面がさざ波を立てる。

どこからか、またしても水音が聞こえてくる。だが、それは風の音とも違い、明らかに——


人の声のようだった


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