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親水  作者: 小嵐普太
第五章 親水
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第二部 親水

数年後。

澪は町の資料館に勤めていた。

地域の言い伝えや民俗資料を扱う部門で、古い記録を掘り起こし、新たに言葉として残す仕事。


今、澪の机には一冊の小冊子が置かれていた。

タイトルは「水に名を与えてはならない」。

筆者名は記されていない。

だが、その物語の中には、かつての澪の記憶と一致する記述があった。


「ある少女は、自らの名を水に与えた。

水はそれを鏡にし、少女の影を写した。

だが少女は、影を愛することで、名を手放さずに済んだ。

その日から、町では水に名を呼ばせる者はいなくなった。

水は、ただ水として存在し続ける。名前を求めることなく」


澪は冊子を閉じ、ふと窓の外に目をやった。

雨が降っていた。

だが、その音はもう、怖くなかった。


——そして澪は知らなかった。


その冊子が、ある夜、濡れた手の誰かによって図書館から抜き取られ、どこか遠くの町へ運ばれていたことを。


次に名を呼ばれる水が、誰を鏡に映すのか——それは、まだ語られていない。


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