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七章 「雨」

僕は、一階にあった大きなスタンドを持って二階へ戻った。

あの部屋からは相変わらず何も聞こえない。

聞えない方が良いけれど・・・



「資料室」


カギ穴のないその部屋に最後のなにかが眠っているような気がしていた。

どっしりとしたスタンドの土台で思い切り扉を叩いていった。

木片が飛び散って金属に当たる音が記念館中に響いた。


衝撃で手の感覚がマヒし、二の腕が限界を迎えた頃金属の悲痛な悲鳴と共に扉は開いた。

曲がり気味のスタンドを放り投げて、僕は資料室へ踏み込む・・・



狭い部屋で天井に届きそうなほど高い本棚の列。

それ一杯に収めらたファイルや書類を期待していた僕は度肝を抜かれた。


そこにあったのは、濁った水を張った大きな水槽と監獄のような光景だった。


赤い斑点が不規則に飛び散った壁と床、天井からぶら下がる拘束具のような数本の鎖。

そして、黒々と錆びた大きなナタを始めとする刃物・・・


とてもこれは資料に見えないし思えな・・・


「いやぁぁぁ」


悲鳴っ!?


なんで、今ここには僕しかいないはずなのに


いつの間にか天井から吊るされたボロボロの服を着た女性、傍には白衣を纏った数人の男達。

それぞれが大きな注射器を持ち、代わる代わるそれを女性に打っていく。


「ちょっと、やめろよあんた達!」


叫んだ僕に目もくれず、男達は女性を見ながらなにかメモを取っている。


「やめろって!」


いつの間にかピクリとも動かなくなった女性に一人が言った。


「こいつも駄目だな。捨てておけ」


指示されたもう一人は女性を抱えると部屋を出て行く。


「おい、あんた達あの人に何したんだ!」


答えようとする者はおらず、連れてこられた別の女性にさっきと同じことをしようとする。


「やめろって言ってるだろ!」


飛びかかった僕は、その瞬間男に触れることなくシミだらけの床に倒れ込んだ。


気づけば白衣の男達も女性もいない、薄暗い何もない部屋。

折れた鉛筆が転がってる。


いまのって・・・


よく見れば室内にあったはずのモノもなく、空っぽの本棚が枯れ木のようにならんでいるだけだった。



結局、この記念館で手に入った物はたった一枚のディスクと気味の悪い体験。

そして・・・


転がったスタンド拾い、ノブに巻きつけておいた電気スタンドのケーブルを解く。

右手にスタンドを持ち替え、勢いをつけて扉を押した・・・


奇声を発していたあれの姿はなく、「てしろこをみるな」と書かれた絵も消えていた。

全て想像の出来事だったんじゃないかと思いたかったけど、床に広がった割れた額の破片や白い床に着いた小さな足跡がその存在を証明していた。


窓から見える満月と流れの早い雲。僕は、踏み込んではならない世界へ迷い込んでしまったらしい。

いや、もう既に十年前の夏から僕は、異界にいるのかもしれない。



入り込んだベランダ周辺は変わらず荒々しく割れたガラスの破片で散らかっていた。

割れたガラスの向こうの闇、潜る一枚のこのガラスはもしかしたら異世界とを隔てる壁なのかもしれない。

なんて、空想の行き過ぎかな・・・


一人苦笑いを浮かべながら外に出ると、途端無数の大粒の水に叩かれた。

足元に溜まった深くて大きな水たまりがどのくらい振り続けているのか思い知らせる。


「そんな・・・さっきまで満月が出てたのに・・・」

立っている場所と空間の雰囲気に違和感を感じる。

振り返ったそこに窓は無く、僕は屋根の排水菅に立っていた。




お読みくださり

ありがとうごさいます!



「柳に風」

次篇もよろしくお願いします∪!



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