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序章 

 蝉の鳴く暑い夏だった。

水の張った田圃の脇を抜け、僕らはある山に続く道へ入った。立ち入りを禁止されている「塚柳山」への道に。


自転車に跨ったまま、哲夫が言う。

「やっぱりやめよう?母ちゃんに怒られるよ」

白いランニングを土で汚した健太が歯を剥いて笑った。

「哲夫、お前ビビってるのか?」

哲夫は、ずれた眼鏡を両手でそっと直すと、眉をしかめて首を振った。

「セツ、お前は?」

そう呼ばれた少年は、掴んでいた蝉の抜け殻を放り投げると眠そうに目を擦った。

「べっつにぃ」

少年の返答に哲夫はぎょっとしたが、健太の満足そうな顔を横目で見ると諦めたように首を曲げた。


各々が落ちた枝からお気に入りの「剣」を選ぶと、健太が声をあげた。


「行くぞっワンコ探検隊!」


蝉が鳴き喚く程暑い夏だった。


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