夢寐 プロローグ
今日は暗闇の中を歩いている、暗闇は言い過ぎかもしれないから訂正しよう、薄暗い所を目的もなく歩いている。
周囲には何も無い。ただ、この空間に私がいるだけだった。
ふと私は足を止めた。何もない場所で立ち止まったままボーッとしている。
現実にいたらなんとマヌケなことだろう。
そんなことを考えていると誰かがこちらに近づいてくる。それに合わせ私も歩み出した。
顔は、、、見えない。黒いモヤがかかったようにぼんやりとしている。黒いスーツのような服装でキッチリしているだけに黒いモヤが一段と私の恐怖を仰いだ。
その男?は、遠くからでもわかるくらいに何かを呟いている。
距離が近づくに連れ、それが何を発しているのか段々と聞き取れるようになってきた。
「……る」
まだハッキリとは聞き取れないが相当な憎しみをかんじる。
「..して.る」
ここまで来ればなんとなく予想はついた。
そしてそれとの距離があと1歩でぶつかるところまで来るとお互いに立ち止まり、それは私に向かってしっかりとその言葉を口にした。
「ころしてやる」
次の瞬間には全身を激しい痛みが襲っていた。
私は痛みの正体に気づかないまま倒れ込んでしまった。痛いも助けてもやめても言えないこの状況で救いを求めるほうが間違いなのだろう。
私はただ心を無にして死ぬのを待つしかなかった。
ほんとは叫んで逃げたいがそれが出来ないことを私は知っている。思い知らされている。
黒いモヤが私を見下ろしている、ニヤけるでもなく、憎しみの表情をうかべるでもなく、哀れむでもない。
ただ黒いモヤが私を見ているのだ。もうこの光景は見飽きたよ。
そのモヤはいつものように私の上に跨ると、刃物を懐から取り出す。これもいつも通りだ。そして私はいつものように、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「……」
「いやっ!!」
大声と共に彼女は目を覚ました。
目が覚めると共に起き上がった彼女の目には涙が滲んでいる。
「もう、、、ほんとにやだ、なんで私がこんな、、、」
布団に顔を押し付け、押し殺したような声で嘆く彼女は、寝ていたとは思えないほど疲弊している。
今日で何日目だろうか、こんな形で目を覚ましたのは、、、
涙を布団でぬぐい、キッチンへと向かう。この行動を一体何度繰り返しているだろう、もはや毎日のルーティンになりつつあった。
冷蔵庫から牛乳を取り出し、インスタントのココアの袋を開ける、ココアの袋に書いてある美味しい作り方はもう見なくても実行できるようになっていた。
「毎日こんな時間に飲んでたら太るだろうなぁ」
冗談のつもりで言ってみたが、そんな余裕はなかった。
彼女は本来、迷ったらどんな悩みでも誰かに相談したほうがいい!という考えを持った人間だった。今回のことも、もしも深刻になるなら相談しようと決めていた。しかし彼女は、自分の考えの浅さに絶望した。
誰に相談すればいいのかを決めていなかったのだ。だがそれも仕方のないことだった。
なぜなら、今彼女を悩ませているのは「夢」なのだから。正確には悪夢と呼ぶのが正しい。
彼女は毎晩悪夢にうなされている、それも、自分が殺される夢に、、、
「誰に相談したらいいんだろう」そう悩み始めてもう1ヶ月が経っていた。
彼女は限界だったのだろう、だからあんな所で偶然出会った名前も知らないおれなんかに相談が出来たのだろう。
ただ、彼女が幸運だったのは、たまたま相談した相手が呪解士だったことだ。