5話 旅路
昨晩は村長さん宅に泊めてもらった。
美味しいご飯に、暖かい寝床、それに大量の食料を持たせてくれる。
お金をくれようとした時は、流石に丁重にお断りした…
こんなに良くしてくれては、恩を返すのが一苦労だ。
それでも、いつか必ず返そう。
「こんな大量の食料… これ以上は馬車に乗らないですよ! 姐さん!」
声の主はカールさん。行商人のお姉さん、エレインさんが護衛に雇っている冒険者だ。がっしりした剣士で、妹のカーラさんと二人でパーティーを組んでいる。
カーラさんは細身で身のこなしが猫みたい、短剣と縄の扱いがやたら絵になる。二人とも若いのに3等級の冒険者。十代でそこにいるってだけで、才能の証明だ。
ちなみにエレインさんは十八歳。凛とした目の色と商人らしい計算高さ、その奥に隠しきれない優しさがちらっと見える人。
冒険者の制度は、1~10等級まであり、9、10等級は過去の大賢者と勇者がなった事があるだけで、現在の最高等級は8までだそうだ。
多くは3等級で引退すると聞く。その話を聞いて、僕は改めて二人がすごいと実感する。
とはいえ、今の問題は積み上がった食料だ。馬車の板が悲鳴を上げそう。
「それなら、僕の【インベントリー】に入れておけるので大丈夫ですよ!」
そう言って、僕は両手をそっと広げる。
【ストレージ】
麻袋、干し肉、穀袋、干し茸、根菜の束、次々と消えていく。空気がふわっと揺れ、影だけが一瞬遅れてついてくる。三人の視線が、袋と僕の間を忙しく往復した。
「しょ、少年……今のは何だ!?」
カールさんが目を剥く。
「バックパック三つ分は軽く越えてたろ! 生活魔法のインベントリーで入る量じゃないって!」
カーラさんも目を丸くして口をぱくぱく。
「普通はショルダーバッグ一つ分が限界だよ?」
エレインさんの眉が、きゅっと上がり、すぐに柔らかく戻る。
「助かるよ。でも、ここじゃ詳しい話はやめとこう。目立つ力は目立たせない。旅の基本ね」
空気、読めたつもりだけど、今日は少し読み違えたかもしれない。
僕は
「はい…」
と素直に頷いて、最後の袋を仕舞う。馬車はぐっと軽くなり、板の悲鳴が止まった。
出発の準備が整い、村の入口に並んだ人々に手を振る。風車の羽がゆっくりと回り、影が草むらを横切っていく。背中で村長の声が響いた。
「また来いよ! 次は干し茸もたんまり持たせるからな!」
「はい、必ず!」
声に重ねて胸中で呟く。必ず、返す。あの暖かさに形を与える日まで。
旅の初日は順調だ。道中の焚き火では、僕の家を【リリース】して、三人をご招待。魔道具完備のキッチンに、三人の目がきらりと輝く。
「なにこの流し台、魔力循環してんの?」「お鍋が勝手に温度管理してる……」「お風呂まであるの!?」
わいわいと賑やかに、夕飯の支度。僕は野菜を刻み、カーラさんが肉を焼き、カールさんが味見係を自称してつまみ食い、エレインさんが手際よく盛り付け。
スープが湯気を立て、焼き目のついた肉が香って、パンを切る音が小気味いい。食卓に「いただきます」が重なる瞬間って、どうしてこう幸せなんだろう。
翌朝以降も、道は続く。朝は簡単に粥と干し果物、昼は途中の小川で水を汲み、道端で焼いた根菜を齧る。夜は家を出すか、星空の下で焚き火ごはん。
合間の時間、僕は弓の練習。カールさんには剣の素振りを見てもらい、足の運びを矯正される。「重心が高い、腰を落とす」「肘が先に走るな、刃が遅れる」。
カーラさんからは短剣の握りと抜きの角度、縄の結び方——ほどけない、でも解ける結び。手が覚えるまで繰り返す。
エレインさんには「商隊の歩き方」を伝授された。荷馬車の後ろを歩くと砂埃を吸い込む、だから斜め後方の風下は避ける、とか。旅にルールがあるんだ。面白い。
そんな風に、笑って、学んで、食べて、眠って。迷宮都市アマーリアまで、あと数日という頃だった。事件は、あっけなく起きた
この馬車が盗賊に出くわしたのだ。




