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第43話 勇者

 トビは20分ほどイヴンに因果応報ブレイクを指南した。指南した結果、如何に因果応報ブレイクが難しい技か改めて理解した。


「えーっと、相手の攻撃に合わせて、盾を回転させると」

「そう。回転はそこまで大げさじゃなくていいんだ。軽く捻るぐらいでいい。この時に盾の表面に魔力を渦巻くようにする。盾の回転に魔力の回転を合わせるんだ」

「は? へ?? はぁ???」

「二重螺旋を作るんだよ。盾の回転と魔力の回転で。その二重螺旋のちょうど中心に相手の攻撃を擦る感じ……」

「ほへ???」


 イヴンは頭から煙を上げる。


(口で説明するの難しいな……僕は見て真似できたから、里長にもメイビスさんにも口ではあまり説明されてないんだよなぁ。どう説明すればいいのかわからない……)


 トビが思い悩んでいると、


「できましたよ~」


 と遠くからソフィアの声が響いてきた。


「一旦ここまでにしようか」

「そうね……体より脳が疲れたわ」


 ソフィアに近づくほど香ばしい匂いがしてくる。

 ソフィアは岩のテーブルに、料理を乗せた木の器を四つ用意していた。トビと自分とイヴンとヨタマルの分だ。

 イヴンは香りを嗅いで、駆け足でテーブルに向かった。


「ご、は、ん♪ ご、は、ん♪ お腹へったー!」

(良かった。これでちょっとは距離が詰まるかも)

「……何コレ」


 イヴンは、木の器に入っている物を見て固まった。

 トビは嫌な予感を感じ、走って岩のテーブルに向かう。そして目撃する、その木の器に入っている物を。

 トカゲだ。

 トカゲの丸焼きが乗っている。


「スープもありますよ」


 そう言ってソフィアは鍋を出す。鍋の中には蛇が丸ごと入ったスープがあった。


「……ソフィア、これは?」

「トビさんに昆虫料理はダメだと言われたので、爬虫類料理にしました! どうでしょう、自信作です!」


 イヴンは明らかに顔色を悪くしていた。


(ダメだイヴン! 大人になってくれ! 変なことは言わないでくれ……!)

「気色悪っ」

(あ~、終わった)


 トビは静かに諦めた。


「気色悪い?」

「普通、爬虫類料理とか作る? 引くんですけど」

「……引く?」

「アンタも嫌でしょ。こんな料理」


 イヴンが同意を求める目で見てくる。

 トビは何も言わず、目を逸らした。


「トビさん、もしかして爬虫類嫌いでした? や、やっぱり昆虫料理の方が良かったのではないですか!?」

「昆虫料理!? うえっ、冗談でしょ。エルフって昆虫とか爬虫類とか食うの?」

「な、なにか悪いですか?」

「いや、こういう趣向は種族で違うからさ~、あんまり言いたくないけど、人間は一部を除いて虫とか爬虫類は食べないわよ」


 ソフィアは里からほとんど出たことがない。ゆえに、エルフの常識しか知らない。

 ソフィアにとって、虫は人間でいうところの魚、爬虫類は人間でいうところの豚肉や牛肉の位置にあった。ゆえに、このイヴンの言葉は非常にショックであった。だが、それよりもショックだったのはこれまでトビに無理強いをさせてしまっていたことだ。


 ソフィアはガーンと、これまでで一番の落ち込み具合を見せる。ソフィアはトビとイヴンに背を向けて、顔を背けてしまった。


「なんか、ごめん」


 イヴンはさすがに申し訳なさを感じ謝った。これ以来、イヴンはちょっとだけソフィアに優しくするようになったのだった。めでたしめでたし……?



 --- 



 とある火山の頂上。

 そこに金髪の男性が座っていた。

 男性は鳥が運んできた手紙を読んでいる。二十代半ばほどの端正な顔立ちのこの男こそ、魔王を打ち倒した勇者である。


「誰からの手紙だ?」


 勇者の背後にやってきたのは青毛で、眼鏡をかけた男性。魔法使いだ。


「メイビスのじっちゃんから」

「メイビスさんから!? 珍しいな。滅多に手紙寄越さないのに」

「うん。ヴァンパイア関連の報告と、それと――妹に会ったってさ。面白いよ~。読んでみる?」

「貸せ」


 魔法使いは勇者から手紙を受け取る。


「……へぇ。テメェの籠手を拾ったガキと、エルフのガキと行動しているのかアイツ。つーか籠手見つけるのに時間かかり過ぎだろ。どうするロイ、籠手の回収に行くか?」

「籠手はどうでもいいけど」

「よくねぇ」

「その男の子は気になるな~。じっちゃんが『センスある』って書くとか、相当だよ。相当()()()()()

「そんじゃ王都に行くか? もう依頼は全部果たしたしな。タイミングとしてはちょうどいい」

「あ! 良いこと思いついた!」

「あぁん?」


 勇者が笑い、魔法使いは苦い顔をする。勇者に常に振り回されてきた魔法使いは嫌な予感を感じていた。


「グレイさ、前に言ってたよね? 後継者を作らないのかって」

「ああ。テメェは弟子一つ取らねぇからな。後世のこともちっとは考えろってんだ」

「だからさ、作ることにするよ。弟子」

「おぉ! マジか! そりゃいい!」

「うん。でもさ、ちょっと趣向は凝らすよ」


 勇者は悪ガキのような笑みを浮かべる。


勇者()の弟子を決める大会を開こう」

「はぁ!!?」

「優勝者を俺の弟子にする。一か月ぐらい期間設ければきっと世界中から集まるよ。それに今ってさ、若手が俺たちの世代の再来って言われるぐらい豊作なんでしょ?」

「まぁな。ティアの弟に、テメェの妹、俺の一番弟子に、メイビスさんのギルドの新人エース、ペネロペの人造人間……」

「六英衆の関係者勢ぞろいじゃない」

「ビリーさんの関係者はいないよ」

「あ、そっか。まぁ仕方ないよね。あの人、魔王倒したらすぐ牢にもどちゃったし、弟子とか作る暇はなかったか。それでも面白いと思わない? 六英衆の秘蔵っ子五人と、俺の籠手を拾った少年トビ。この六人がぶつかる姿、見てみたくない?」

「まったくテメェは……」


 魔法使いは深い深いため息をつく。


「まぁ、グレイが乗り気じゃないならやめるよ」

「バーカ! こんな面白い話乗らねぇわけねぇだろ。待ってろ。いま計画書を作る。こりゃいい……参加費ぶんどればいい金になるぜぇ……!」


 魔法使いは目を金貨にして火山の傍に停めてある飛空艇へ乗り込んだ。

 勇者ははるか先の雲を、つまらなそうな瞳で見つめる。


「俺の籠手を受け継いだ男――トビ、か。ちょっとは面白くしてくれよ……この退屈な世界を」

【読者の皆様へ】


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