第41話 宴
トビたちがメイビスと合流したのは夜のことだった。
「うぃ~っす」
「メイビスさん!」
「無事、倒せたみたいだな」
エルフの里の時と同じく、村では宴が始まっていた。
「じっちゃん遅い!」
「仕方ねぇだろ。もう足腰弱いんだから」
「ご無事でなによりです」
「エルフの嬢ちゃんもな」
メイビスの頭に、ヨタマルが乗っかる。
「なにやっとるんみんな~。早く宴に参加しようや。辺鄙な村やけど、結構べっぴん多いで」
「おおっ! マジか! ナンパすんぞ猿!」
メイビスとヨタマルは焚火の周りで踊る踊り子たちの方へ走っていった。
「あのジジイ、まだ精力残ってんのか!」
「さてと、僕もお腹減ったな~。なにか食べようっと。ソフィアはいいの?」
「……先ほど一度見て回ったのですが、残念ながら昆虫料理はなくて……」
ソフィアは心底落ち込んだ顔をする。
「そっか。それは残念だったね」
と言いつつトビは笑顔だ。
(久々に昆虫料理以外を食べられる……!)
「ねぇ、そこの可愛い女の子二人」
焚火の前で踊っていた女性が一人、こちらへやってくる。
「え? 私たち?」
「そう。そこの金髪ちゃんと銀髪ちゃん。もしよかったら一緒に踊らない? 衣装余ってるんだけど」
「い、衣装……ですか」
ソフィアは難色を示す。
踊り子の衣装はかなり派手だ。下着ほどの面積しかない黄金色の胸当てとパンツ、後は透明の羽衣が腕や顔についているだけ。他に細やかな装飾が幾つかあるが、露出範囲は広い。
イヴンに散々スレンダーな体型を馬鹿にされたからか、ソフィアは拒否反応を見せる……が、
「着たい! めっちゃ着たい!」
イヴンはソフィアの腕を引っ張り、目を輝かせる。
「ちょっと、イヴンさん……!」
「私たちも踊り子やるーっ!」
「な、なんで私まで!? 私は嫌です! 断固拒否します!」
顔を真っ赤にしてまで拒否するソフィアだが、踊り子は数人でソフィアの体を抱き上げ、有無を言わせず家に運ぶ。
「お二人様ごあんなーい!」
「ちょ、待っ……!?」
「村中の男共全員魅了してやるわーっ!」
トビは二人を手を振って見送り、一人宴を眺める。
楽しそうに踊る女性、ふんどし一丁で太鼓を叩く男性。それを見て酒瓶片手にはしゃぐ村民たち。
トビは彼らを眺め、そっと水を飲む。
「なにガキがジジイみてぇな楽しみ方してんだよ」
メイビスが酒瓶片手にやってきた。
「メイビスさん。ナンパはもういいんですか?」
「馬鹿野郎。もう成功したからここにいるんだよ。深夜に第二の宴だぜ……えっへっへ!」
「?」
トビはメイビスの言っている意味がわからず首を傾げる。
「お前さん、これから王都に行くらしいな」
メイビスはトビの隣に腰掛ける。
「メイビスさんはどうするんですか?」
「俺も王都へ行くが、その前にウチの本部に寄ってく。我がギルドの本部は王都とは逆側だからな、一旦お別れだ」
「そうですか、残念です。メイビスさんにはもっと教わりたいことがいっぱいあったのに」
「もう教えられることは全部教えたよ。ここからはテメェで学べ。あ~、いや、一つ教え忘れがあったな」
エイビスはトビの籠手を指さす。
「その籠手についてだ。勇者の籠手……またの名を、凡骨の誇りと言う。装備条件は魔力量が一定以上あること。装備条件を満たさず装備すれば激痛が走る」
「一定以上の魔力量って、具体的には?」
「さぁな。俺が知る限り、その条件を満たせたのは二人だけ。勇者ロイとティアってやつだけだ。ちなみに、そいつは天χ礼装って呼ばれるモンだ。超一流の戦士がその命を全て費やして作る、作成者の耐性を100%受け継いだ武具。天χ礼装はこの世に十二個しかない代物なんだぜ」
「そうなんですか!? そんなモノ、僕なんかが持ってていいんですかね……」
「いいんじゃねぇか。ロイのやつ、いっつも籠手がくせーくせーって嫌がってたしな。ちなみに凡骨の誇りを作ったのは『耐性への耐性』を持った勇者ヒバリって人で、勇者史上最も落ちこぼれだった人だ。正義感が強く、他人のために命を張れる人だった。お前がその籠手を拾ってくれて喜んでると思うぜ」
「道理で。この籠手からはなにか温かいモノを感じると思っていたんです」
「……大事にしろよ」
「はい!」
二人の会話がちょうど終わったところで、少女たちが着替えを終えやってきた。
「ちょっと! なんで私の後ろに隠れるのよ!」
「だ、だって……こんな格好恥ずかしいです! 破廉恥です……」
トビとメイビスは声の方を見る。
トビは、彼女たちの姿を見て、思わず息を呑んだ。
「どう? 惚れちゃった?」
「目に毒ですよね……すみません」
イヴンとソフィアが、踊り子の服を着てやってきた。
イヴンは、服の上からではわからなかった胸の大きさや、筋肉の締まりが布面積の少ない踊り子の服と抜群の相性で、まだ子供ながらも色気がある。派手な装飾も彼女の佇まいと良く合う。
一方、ソフィアは筋肉量や胸の大きさはイヴンに劣るが、白光で照らしているのかと勘違いするほどの肌の白さ、肌のきめ細やかさ、整ったラインの肢体。彼女に合わせ金ではなく銀を基調とした装飾・服装もよく似合っている。現実離れした、妖精のような神秘さをソフィアは演出していた。
うろたえるトビの頭にヨタマルが飛び乗る。
「で、どうなん? トビはんはどっちが可愛いと思ったん?」
「えぇ!?」
「ほほう。それは俺も気になるところだな」
「メイビスさんまで……! そんなどう答えても摩擦が生まれること聞かないでください!」
「面白いじゃない」
イヴンは自信満々の顔で、
「答えなさいよ。私とソフィア、どっちが綺麗だと思った?」
「え」
「……」
ソフィアは何も言わない。何も言わないが、圧力は感じる。
トビは第三の選択肢でもっとも安全なセリフ、『どっちも可愛いよ』を使おうとしたが、
「どっちも可愛い、とかいうつまらないセリフは無しやで」
ヨタマルがトビの手を先読みし妨害する。
「じゃ、じゃあ」
トビが指さしたのは、
イヴン――ではなく、
ソフィア――でもなく、
イヴンとソフィアの間、二人の背後にいる巨乳の踊り子のお姉さんだった。
「あの人が一番綺麗――ぶはっ!」
イヴンがトビの顔面に蹴りを入れる。
「つまんなっ! 行くわよソフィア。せっかく着替えたんだから踊らないと!」
「あ、あの! 私、踊りとかやったことなくて……」
「私もよ。こういうのはパッションとノリよ♪」
イヴンは下手くそながらも豪快に踊る。
ソフィアは恥じらいを感じつつも、それなりにうまく踊っている。
喧騒鳴りやまぬまま、夜は更けていった。
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