第39話 デュアル
因果応報を七連続で成功させたおかげで、クリシュの耐性をかなり削ることができた。
しかし、依然劣勢なのはトビの方だ。
(今の爪の連撃はテンポが単調で直前で見ていたから因果応報できた。他の技はまだ見切れてない……でもここはハッタリを通す。まるで、全部の動きを見切ったかのように演出する。焦っているように見せるな。見下せ。すべてを見透かしているような目をしろ。三又拳を確実に引き出すために……)
クリシュにトビのハッタリは効いていた。
七連撃を全て弾かれたことで、精神的にショックを受けていた。それに、クリシュは勘づいていた。自分の中にある何か大切なモノが、着実に削られていることを。実際にはまだ耐性の耐久に余裕はあるが、クリシュがそれをわかるはずもなく、焦燥感に駆られるのは仕方のないことだった。
もしも、動きそのもののテンポを読み切られているのなら、選択肢は因果応報を使われても突破できる三又拳しかない。
「……」
「……」
この勝敗の行方は単純に、クリシュの選択肢で決まる。
トビはもう因果応報しか狙ってない。三又拳しか待ってない。三又拳以外の技をクリシュが使えば、確実に敗北する。
クリシュは覚悟を決め、飛び出した。右拳を引き絞る。
(間違いなく、三又拳だ!!)
トビが三又拳を待っていたことはわかっていた。だが、それでも三又拳でいった。理由はプライド……クリシュは三又拳という技に、他の技以上のプライドを持っていた。
「三又拳!!」
トビは三又拳に右手の甲を、勇者の籠手を合わせる。
「因果応報!!」
因果応報は成功する。だが、跳ね返した衝撃はクリシュが放った二発目の衝撃に相殺される。
俺の勝ち。そうクリシュが思った時だった。
「なっ!?」
トビは左手の甲を自身の右手にぶつけた。
(右手で足りないのなら、左手も使うまでだ!)
トビの右手に放たれる、クリシュの三発目の衝撃。それを、トビは左手の甲を右手にぶつけることで、反射させる。
「二重の因果応報!!」
「ざっけんなああああああああああっっ!!!」
衝撃がクリシュに跳ね返り、クリシュの右手に伝わる。
クリシュは右手を折られる。が、まだ耐性は生きており、すぐに治る。
「ふざけんな……なんだって、テメェが……! 負けてたまるかよ! テメェにだけはぁ!!」
クリシュはすぐさま技を繰り出す。
「九躯獅子王演舞!!」
クリシュは零破→一角→二歩→三又拳→四震脚→五臓鬼抜→六幻灯籠→七剥→八破蹂躙滅殺撃を連続でつなぐ、己の最強の奥義を繰り出す。
まず最初に出した技零波は己の両の手を合わせ、その拍手音で相手を怯ませる技。トビは拍手音を聞くが、怯まず、無視する。トビは激痛耐性により、鼓膜をつんざく痛みをカットした。
次に一角。頭突き攻撃。これをトビは籠手で弾く。
「因果応報」
トビの眼の瞳孔が開き、体には静寂なオーラが流れていた。
――完全同調。
怒り、動揺し、単調となったクリシュの思考とテンポはトビの手中に完全に収まった。
クリシュは両足で地面を踏み砕き、トビの背後に回る。そして三又拳を繰り出す。
「二重の因果応報」
先ほどと同じように衝撃を処理する。
クリシュは四振脚を繰り出すが、トビは走って地割れを回避。次にクリシュは五臓鬼抜を繰り出す。
「因果応報」
五臓鬼抜、手刀は籠手に弾かれる。次に六幻灯籠を繰り出し、幻影と共に七剥を繰り出すも、クリシュと完全同調しているトビはクリシュの思考を読み切り、実体を看破。七剥を籠手で弾く。
「因果応報」
爪が割れる。あと残った技は一つ。
最後の拳による八方向同時攻撃、八破蹂躙滅殺撃を出す。これはトビも対処しきれない。
「因果応報」
完全同調状態ゆえ、二発は躱し、三発は因果応報するも、残りの三発は体に受ける。左肩脱臼、あばら骨骨折、左腕複雑骨折。それでもトビは止まらない。
「……っ!?」
ここでようやくトビの異常さを、常人離れした精神を、クリシュは感じ取った。
コイツを止めることはもう自分には不可能。そう察したクリシュは逃走を選択する。
「お前……!!」
「へへ!!」
クリシュはトビに背中を向け、無様に逃走する。
「ははははは! 別にいま勝つ必要はねぇわな! ここは逃げさせてもらう……!」
クリシュは、逃げてる途中で急に膝をガクンと落とした。
「な、に……」
クリシュを襲ったのは……強烈な眠気だ。
クリシュは建物の影で、何やら青い粒子を手から出しているソフィアを見つける。
「ヴァンパイアにも睡眠魔法が効くのは、V・タイタンで実証済みです」
トビと同じく痛みに疎いヴァンパイアは痛みによる気付けもできない。
トビは力を振り絞り、クリシュとの距離を詰める。
「開け、龍王核……!」
龍王核を開き、龍氣を右手に灯す。
琥珀色のオーラを纏った籠手で、トビはクリシュの心臓を突き刺す。
「ち、くしょう……!」
「さようなら。哀れな吸血鬼」
心臓を破壊されたクリシュは体を黒い塵にして、消え去った。
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