第38話 構いませんよ
トビは二度、三又拳を受けたおかげで技の仕組みに気づいていた。
(あの技は一度の接触で三発分の衝撃を出している。拳が対象に触れた時に一回目の衝撃、次に曲げていた肘を伸ばして二度目の衝撃、そして最後に恐らく肩関節を外して無理くり勢いをつけて三度目の衝撃を出している。ヴァンパイアの体だからできる無茶苦茶な技だ)
三度目の衝撃を因果応報で返せればいいが、一度目の衝撃から三度目の衝撃までの時間は限りなく短い。その間にもう一度右手で因果応報を繰り出すのは不可能だ。龍氣を使っても無理だろう。だからと言って、因果応報無しで勝てる相手じゃない。
地力はあっちが上だ。因果応報というジャイアントキリングの技なしではまず勝てないだろう。
どう足掻いてでも決めるしかない。あの三度目の衝撃に、因果応報を……。
「天才の乱撃!!」
イヴンは盾を振り回し、クリシュに連撃を浴びせる。
クリシュはにやけながら盾を手で受け流す。
「君を見てると昔の自分を思い出すよ。耐性が無くても努力を続けていた自分をね」
「あっそ! だからなに!」
「凡人の先輩として教えてあげるよ。いくら努力したところで、努力する天才には勝てない。怠惰な天才には勝てるけどね」
「ご忠告どうも! でも残念! 私は天才だから無用の忠告よ!!」
イヴンはクリシュの背後に立方体の結界を作り、クリシュを後ろへ引けないようにする。同時に突進し、結界と盾でクリシュを挟み込む。
「天才の挟撃!」
「無駄だって、こんな圧力で俺を――」
クリシュが油断した刹那、イヴンは結界を解除した。
裏から、トビが現れる。
「やべっ!」
「どうも」
トビはクリシュの背中を殴る。背中を殴られ、体をくの字に曲げたクリシュの腹に、イヴンは突撃する。
「ごはっ!」
トビがさらに背後から攻撃しようとした時、クリシュは咄嗟に地面を四度、一瞬の内に踏み砕いた。
「四震脚!!」
地割れがトビとイヴンの足元を崩し、動きを止めさせる。
「くっ!」
「あーもううざったいこの技!」
「調子に乗るなよガキ共!!」
クリシュはトビとイヴン、どちらかに確実に攻撃を当てられる。クリシュは一瞬の内に、倒すべきはどちらかを考えた。
耐性を無効化する籠手。これは驚異的だが、トビの得意技である因果応報を破った現状において、トビと一騎打ちで負けることはない。しかし一騎打ちで負けることはないのは対イヴンでも同じだ。
どちらにも確実に勝てる。ならばより、崩すのに時間がかかる方をいま潰そう。
クリシュはイヴンに目を向けた。籠手だけの小僧より、結界術・治癒術を使えて尚且つ不壊の盾を持ってる女の方が厄介だと判断した。
「七剥」
クリシュは両手の爪を騎士剣ほどの丈に伸ばし、爪による連続引っ掻きを七連続で放つ。爪の攻撃範囲は広く、盾で防ぎきれずにイヴンは肩とわき腹と腕を爪で抉られた。
「いっつぅ……!!」
イヴンはあまりの痛みに涙目になり、盾を手放す。
「可哀そうに。泣いちゃってさ~。後で抱きしめてヨシヨシしてあげるよ」
クリシュはイヴンの首根っこを掴み、一回転して勢いをつけ、ぶん投げた。イヴンは岩壁に打ち付けられ、力なくずり落ちる。
「イヴン!!」
トビの額に血管が浮かぶ。
「お前……!!」
「いいの? 怒っちゃって。余計に因果応報が成功しなくなるよ」
トビは大きく息を吸って、大きく吐く。
「……いいや、絶対に成功させる。あなたの技はもう見切った」
「はいはい、強がり強がり……」
「いいからさっきの技でこいよ。怖いなら逃げてもいいけど?」
「安い挑発だな。そんなのに乗るほど子供じゃないって」
トビはさらに挑発を重ねる。
「そういえば、あなたは因果応報できないんですか?」
「……」
クリシュの眼の色が変わる。
「できないわけじゃない。やるまでもないだけだ」
「ホントかなぁ。なんかやけに因果応報を破ることにこだわっていたし、もしかして因果応報を覚えようとしたけど、全然できなくて諦めて、因果応報を使える人間に対してコンプレックスを抱いている……とか?」
クリシュは目を細める。
「図星、ですね」
「クソガキが……!! ぶっ殺してやる!!」
クリシュは飛び出し、拳を構える。
「くらいな! 三又――」
トビが右手を出す素振りを見せたところで、クリシュは笑い、拳を開いて爪を伸ばした。
「なんてな」
「!?」
「待ってる技いちいち使うわけねぇだろ! 七剥!!」
伸ばした爪による七連撃。トビは爪に籠手を合わせる。
「別に構いませんよ」
「なっ!!?」
七連撃全てを、
「因果応報」
トビは籠手で弾いた。
クリシュの爪がすべて、粉々に消し飛ぶ。
「あなたのリズムはもうわかってる」
トビの籠手の一撃がクリシュの腹に突き刺さる。
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