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第37話 クソガキ

 メイビスとクリシュの戦場となった山は、すでに原形を失おうとしていた。巨大な破壊跡があらゆる場所にでき、さらに巨大な銀の杭やら槍が至るところに刺さっている。いまも絶賛山林破壊中の二人は空中で技をぶつけ合っていた。


八破(はっぱ)蹂躙(じゅうりん)滅殺撃(めっさつげき)!!」


 クリシュは両拳を高速で振るう。八方向から迫る拳打。一撃一撃が山を破壊できる威力を持つ。


銀十字(ぎんじゅうじ)八架(はっか)


 メイビスは銀魔法で作った銀の十字架を八個作り、それぞれの拳打をガードする。

 クリシュはメイビスに正面から向かうが、メイビスの両手の槍に腹と左肩を穿たれる。が、死に耐性を持つメイビスはそれでも止まらず突き進み、メイビスの胸の中心に右手の手刀の先を当てた。


五臓鬼抜(ごぞうきばつ)

「!?」


 一瞬で、手刀からメイビスの五臓(心臓・肺・脾臓・肝臓・腎臓)に衝撃が走る。が、衝撃が甘い。クリシュは舌打ちする。手刀と肌の間には銀の鎧が生成されていた。


「もう歳なんだ。内臓攻撃は勘弁してくれ」

「よく言うぜクソジジイが……!」


 二人はそれから空中で百回以上衝突し、ボロボロになった山の麓に着地する。


「驚いたな。アンタ、15年前より強くなってないか?」

「そうか? お前が弱くなったんじゃないのか?」

「人が素直に褒めてやってるのに、可愛くない爺さんだよ」


 メイビスは深呼吸し、集中体勢に入る。


(来やがるな。お得意の因果応報ブレイクが……!)


 クリシュは唇を舐め、走り出す。


「馬鹿が。死にてぇのか」

「馬鹿はどっちだジジイ! その技はもう死んでんだよ!!」


 クリシュの拳とメイビスの槍が衝突する。


「三又拳!!」

因果応報ブレイク!!」


 メイビスはすぐさま違和感に気づく。なにかが違う、と。


「つうっ!?」


 因果応報ブレイクは成功するが、反射した衝撃はまた別の衝撃に相殺され、そしてまた新しい衝撃がクリシュの拳から伝わり、メイビスの右手にダメージを与える。メイビスは右手から槍を零れ落とす。


一角(いっかく)!!」


 クリシュは頭突きを繰り出す。メイビスはクリシュの頭突きに自分の頭を合わせる。


因果応報ブレイク!!」

「があっ!?」


 衝撃を返され、クリシュは10メートルほど後ろへ飛ばされた。


「おいおい、頭突きでも因果応報ブレイク使えるのかよ。驚いたぜ。全身因果応報(ブレイク)マシーンだな」


 だが。とクリシュはメイビスを指さす。


「俺の拳ならアンタの因果応報ブレイクも破れるとわかった。勝負は決まった。そのクソ技と一緒に殺してやるよ」

「ははっ! お前さん、俺の言葉すっかり忘れちまってるようだな」


 メイビスは不敵な笑みを浮かべる。


因果応報ブレイクは万物を弾く最強無敵の技なんだよ。テメェのくだらねぇトリック技に敗れるほど安くねぇ」



 --- 



 トビとイヴン、二人は呼吸を合わせ、クリシュに接近戦を仕掛ける。


天才の突撃(ジーニアス・タックル)!!」


 イヴンは結界を纏い、強化術を自身と盾にかけて突進する。クリシュは跳んでこれを躱す。


「トビ!」

「OK!」


 トビはイヴンの盾を足場に跳躍し、クリシュを追撃する。クリシュは足の裏で籠手を押しのけ、踵落としでトビの頭を殴る。トビは地面に超速落下する。


「ちょ! アンタ大丈夫!?」

「うん、平気」 


 トビは笑顔で起き上がるが、頭から血が噴き出している。


「ギャー! 全然平気じゃないわよバカ!」


 イヴンは慌てて治癒術でトビを治癒する。


二歩(にふ)


 クリシュは両足で同時に地面を蹴り、土を弾き、トビたちに迫る。

 トビは治癒を続けるイヴンを押しのけ、右手を前に出す。


因果応報ブレイク!!」

「三又拳!!!」


 トビの籠手とクリシュの拳が合わさる、が、また衝突音が三度鳴り、トビの右手が弾かれた。


「くっ!!」

「学習しねぇな馬鹿が。その技はもう終わってんだよ!! ――一角!!」


 クリシュはトビの顔面に頭突きする。トビは鼻血をまき散らしながら飛ばされ、岩壁まで吹っ飛ばされた。

 イヴンはクリシュの背後に迫るが、


六幻(むげん)灯籠(とうろう)

「はあ!?」


 クリシュの姿が六つになる。

 さっきの分身とは違い実体はない。独特な足運びで残像を作っているに過ぎない。イヴンは三体の幻影を盾で消す。その攻撃の隙をクリシュは見逃さず、イヴンの横っ腹に蹴りを入れる。


「かふっ!!」


 イヴンは地面を転がって家の壁に激突する。


「もうそんな欠陥だらけの技捨てな~。相手になんねぇぜ」

「欠陥だらけ?」


 トビは不敵に笑い、立ち上がる。


「あなた、メイビスさんの元部下なのに、知らないんですね」


 クリシュは、心底不快そうな顔でトビを見る。


「……因果応報ブレイクは、万物を弾く……完全無欠の技なんですよ」

「クソガキ、ここに極まれりだなぁ……オイ!!」

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