第34話 再会
翌日。
またV・ドラゴンの巣へ帰ってきたトビ。
銀の柵越しにメイビス、ソフィア、イヴンが見守っている。
トビの目の前には銀の籠に入ったV・ドラゴンがいる。
「やあ。久しぶり」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」
V・ドラゴンの気迫に、今日はじめてV・ドラゴンを見たソフィアとイヴンは表情を強張らせた。
「……危なくなったらすぐ助けに入ってくださいね!」
「わかったよ」
「こ、こっちに攻撃飛んで来たらちゃんと処理してよじっちゃん!」
「昨日の威勢はどこいった……」
トビの心の準備が整うのを待ち、メイビスは声を上げる。
「始めるぞ、トビ」
「はい! お願いします!」
メイビスが指を鳴らすと、銀の籠が消えた。
V・ドラゴンは飛び出し、一日中籠に入れられた怒りをぶつけるが如く、トビに激しい攻撃を繰り出した。
翼で竜巻を起こし、口からは雷を放つ。その全てを――
「因果応報」
トビは第二段階の因果応報で弾く。
「す、凄い……! 雷を籠手で弾くなんて!?」
「アイツ、たった一日でここまで強くなったの!?」
「驚くのは早いぜ」
トビは、自分で自分に驚いていた。
昨日は最後の一撃以外、まったく攻撃のタイミングが読めなかったのに、今日は手に取るようにV・ドラゴンの攻撃が読める。簡単に第二段階の因果応報を出せる。
(わかる。全部……V・ドラゴンの思考、いつどのタイミングでどの攻撃を出すのか、全部わかる……!!)
遠距離攻撃を全て弾き近づくと、V・ドラゴンは爪を振ってきた。だがそれも、
「因果応報」
螺旋の衝撃が爪を弾く。V・ドラゴンは体を回転させ、尾を振るうが、
「因果応報」
尾による攻撃を籠手で弾き返す。
「どういうこと……? 因果応報って、タイミングがかなりシビアなはずでしょ? なんであんなポンポン決められるの?」
「トビは昨日でもうV・ドラゴンの動きのリズムを頭に入れたんだ」
「動きのリズム……ですか」
「一流の武人は拳を交えることで、武器を交えることで、相手の思考や癖、呼吸を吸収していく。因果応報に精通している人間は特にその能力が高い。そんで、相手の全てのモーションを吸収した時、相手の動きの未来を完全に予知できるようになる。自分と相手の完全なる思考同化、今のトビのような状態を――完全同調と言う。ああなったらもうV・ドラゴンに成す術はない」
弾く。弾く。弾く。
昨日のメイビスのように、ブレスも、竜巻も、翼撃も、尾撃も、爪撃も、頭突きも――すべてを弾く。
(ガロン。今なら戦いを楽しんだあなたの気持ちが少しはわかる。この完全に相手を乗っ取る感覚……これは結構楽しい!)
イヴンは今のトビを見て、昨日のメイビスの話を心から理解できた。
いくら完全に同調しているからと言って、タイミングをちょっとでも間違えれば大けがを負っている。自分なら、相手の動きを予知できても、頭に恐怖が遮りタイミングをずらしてしまう。
トビが圧倒しているように見えるが、実際は紙一重なのだ。生と死の狭間を行き来しているのだ。あの状況で、平静を保ち、的確に因果応報を繰り出すことは到底できっこない。
イヴンはトビに凄味よりも恐怖を感じた。普通じゃない……常人の精神じゃ真似できない神業であり、愚行だ。
「因果応報」
トビはV・ドラゴンの引っ掻きを籠手で弾く。その時、パリン!! とガラスを割ったような音が頭に響いた。
「耐性が壊れたな」
メイビスが言う。
「これで詰みだ。V・ドラゴンは死耐性があったから肉体ダメージ無視の無茶苦茶な攻撃ができていたが、もう無理はできなくなった」
トビの最初の戦い、打撃耐性を持つマルクとの戦いと同じ展開だ。耐性を失ったことでV・ドラゴンは攻撃力・防御力共にダウン。攻撃の速度も威力も先ほどまでと比べて遥かにレベルダウンした。
雷を吐こうとすれば耐性がないため口で暴発し、竜巻はなんとか起こせたものの因果応報で弾き返されダメージを受ける。物理攻撃は衝撃がそのまま自分に返ってくる。そして破壊された体は修復しない。
ただトビは相手の攻撃を弾いているだけ。自分からは攻撃していない。にもかかわらず、ものの数分でV・ドラゴンは瀕死まで追い込まれた。
因果応報で相手の攻撃を弾き続ければ、籠手の能力で耐性は壊される。勇者の籠手と因果応報の相性は凶悪だ。トビは防御に回っているだけで相手を追い詰めることが、殺すことができるのだから。
翼が折れ、地面に跪くV・ドラゴン。トビは右拳を握りしめる。
「これでおしまいだ」
トビは勢いよく飛び上がり、V・ドラゴンの頭を右拳で叩き、地面に打ち落とした。V・ドラゴンは絶命する。
「……」
「……」
圧巻。
女子二人は言葉を失っていた。
「倒しましたよ。メイビスさん」
トビがメイビスの方へ歩み寄り、メイビスを見る。だが、メイビスはトビに目を合わせなかった。
「?」
トビはメイビスが自分の背後を見ていることに気づく。トビはメイビスの視線で、違和感に気づいた。
(そういえば、V・タイタンは絶命した時、黒い塵になって消えた。なのにV・ドラゴンは――!)
振り返る。
V・ドラゴンは、体を再生させていた。
「そんな……! 耐性は壊したはず!!」
「違う。この治癒はV・ドラゴンの力じゃねぇ……!!」
焦りの混じったメイビスの声。
V・ドラゴンの腹の当たりから、緑の光、治癒術の光が見える。
メイビスは銀の檻を壊し、すぐさまトビの前に出て、銀槍を二本作り構える。
「あ~あ、ダメだね。もういくら治しても無駄だ。魂が朽ちてる」
V・ドラゴンの腹から男の声が反響して聞こえた、と思ったら、V・ドラゴンの腹が破られた。
黒い血を浴びながら、V・ドラゴンの腹を破って現れたのは……ピンクの髪、浅黒い肌、目は黒く、上裸の男だった。身長は180中盤ほどで、見た目の年齢は二十代半ばほど。纏うオーラは忌々しく、どす黒い。
メイビスは男の名を口にする。
「クリシュ=ペルシャン……!」
「あれぇ? メイビスさんじゃん。おひさ~」
【読者の皆様へ】
この小説を読んで、わずかでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっと頑張ってほしい!」
と思われましたらブックマークとページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです! ポイント一つ一つが執筆モチベーションに繋がります!
よろしくお願いしますっ!!




