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第33話 決戦前夜

 村に帰ったメイビスたちは村長にV・ドラゴンは無力化したことを伝えた。村長は「明日は宴だな」と笑い、メイビスたちに宿を無償で用意してくれた。


「はぁ!? アイツに修行をつけてるですって!?」

「そうだ」


 夜。里の宿屋の一室にて、イヴンとメイビスは二人で話していた。


因果応報ブレイクの指南をちょっとな」

「なんでそんなこと……じっちゃん弟子とか取るのめんどくさいって言ってたじゃん!」

「老い先が短いからかなぁ、俺の技を後世に残したくなったんだよ」

「だったら私に因果応報ブレイクを教えてよ!」

「無理だな。お前に因果応報ブレイクは使えない」


 ベッドに寝転びながらメイビスは言う。


「どうしてよ。まさか才能がないとか?」

「才能とはちょっと違うな。性格だな。お前さ、死ぬの怖いか?」

「そりゃ当然怖いわよ」

「そうだろそうだろ。当たり前に人間は死ぬのを恐れる。だが、だからこそお前に究極の因果応報ブレイクは使えない。因果応報ブレイクを極めるのに必要なこと、それは命知らずなことだ」

 

 メイビスは目を細める。


「この攻撃を喰らったら死ぬ。そんな状況でも一切怯えない人間にしか第二段階以降はいけない。俺やロイ、そしてアイツ……トビのようにな」

「死ぬのが怖くないって、本気で言ってるの?」

「俺の場合は30超えてからその境地に至った。もうこんだけ生きたからいつ死んでもいい、ってそう思えてから因果応報ブレイクが進化した。ロイの場合、アイツはちょっと特別だ。死ぬのが怖くないというより、()()()()()()()()()()()。どんな攻撃を喰らっても、どうせ自分は生きるというわけのわからない自信を持ってる。だからアイツも第二段階以降にいける。そして、トビ……アイツは自分の命に価値を感じていない。自分の命に興味が無いから極められる」


 十分に人生を楽しみ、満足したゆえに死ぬことが怖くなくなったメイビス。

 何が起きても自分が死ぬことなどないと確信しているロイ。

 自分の生命に価値を見出せないトビ。

 三者三様の理由で彼らは絶体絶命でも恐怖を感じない。命を惜しまない精神こそ、因果応報ブレイクを極める必須条件である。

 イヴンは目を細め、


「なにそれ。そんな人間存在するの?」


 気色悪そうな顔をするイヴン。

 ロイとメイビスについては納得できたイヴンだが、トビに関してだけは納得がいかなかった。

 まだ若い歳で、自分の生死に頓着が無いなど……イヴンには信じられなかった。


「ああ、俺も驚いた。アイツは恐らく、いま自分が死んだらあのエルフの嬢ちゃんやお前が困るから最低限生きようとしている。だが自分の命そのものには一切価値を感じていない。だから極限状態でも平静を保てる。それに激痛耐性もあるしな。痛みで集中が乱されることもない。まさに因果応報ブレイクの申し子さ」


 そしてトビの真逆に位置にいる自分大好きなイヴンは、どうあがいてもその精神性ゆえに因果応報ブレイクを極めることはできない。


「う~……でも納得できない! アイツだけ修行つけてもらうとかせこい~! 第二段階以降は無理でも、第一段階なら私でもできるでしょ?」

「まぁな。因果応報ブレイクの第一段階は誰でも到達できる可能性はある。努力さえすりゃな」

「じゃあ私に教えてよじっちゃん!」

「わかったわかった。また明日な」

「よーし! 明日は私がV・ドラゴンを倒してやるわ!」

「あ~、悪いが、V・ドラゴンを倒すのはお前じゃない」

「ん? どうして? 私じゃ倒せないって言うの!?」

「いやまぁそれもあるが、お前が出るまでもないっつーかな」


 メイビスは口角を上げる。


「……もう勝負はついてんだ」

「?」


 メイビスは大きく欠伸をし、眠りについた。



 --- 



 トビとソフィアはイヴンたちの隣の部屋で今日の出来事を振り返っていた。


「一人でV・ドラゴンと戦うなんて無謀すぎます!!」

「まったくもってその通り」

「メイビスさんのやり方は絶対間違ってます!」

「うんうん」


 トビとメイビスが行った修行の内容を聞き、ソフィアは顔を真っ赤にして怒っていた。


「でもさ、確かにやり方はめちゃくちゃなんだけど、成長したのは確かなんだよね。僕の戦闘スタイルみたいなモノが今日で固まった気がするんだ」

「話を聞く限り、いまトビさんが生きているのはたまたまですよ。いくら成長するためとはいえ、リスクが大きすぎます。――今のうちに逃げましょう。ここにいたら明日も同じ修行をやらされますよ」

「……そうだね。またV・ドラゴンと一対一で戦うことになるだろうね。けど、逃げないよ僕は。逃げる必要がない」

「必要がない?」

「なんでだろうね……あれだけ力の差があったV・ドラゴンが、今はまったく怖くないんだ」


 トビが薄く笑うと、ソフィアはゾクっと背筋に悪寒を感じた。

 底知れぬ何かを、歪さを、トビに感じた。


「……よくわかりませんが」


 ソフィアは立ち上がり、扉の方へ足を向ける。


「明日は私もついていきます。危なかったらメイビスさんの髪を全部風魔法で剃ってでも、止めさせますから!」


 ソフィアは扉に手を掛ける。


「今日は一緒に寝なくて大丈夫なの?」

「睡眠は三日に一度で十分です!」


 ソフィアは部屋から出る。トビはイライラを隠せないソフィアの背中を申し訳なさそうに見送った。

【読者の皆様へ】


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