第32話 決死の修行
トビは冷静に、目の前の情報を処理する。
(V・ドラゴンの息が上がっている。おかげで、攻撃のリズムが読みやすい)
V・ドラゴンは雷のブレスを吐く。さっきに比べ大分と遅いが……。
「違うな」
トビはギリギリまで因果応報の構えをしていたが、直前で失敗すると察し、ブレスを回避した。
「そうだ。頭の中に相手のリズムが入るまでは無理をするな。異形な存在ほどリズムは独特且つ速い。まずは相手を良く観察し、リズムを探れ」
因果応報はタイミング勝負だ。相手の攻撃の速度などを完全に予知しないと成功しない。
トビはV・ドラゴンを観察しつつ、V・ドラゴンの攻撃を回避していく。
ブレスや竜巻を回避し、接近すると、V・ドラゴンが尻尾を振ってきた。
「因果応報」
トビは尻尾を因果応報で弾く。
(今ならわかる。これは完璧なタイミングじゃない。僅か、本当に僅かだけズレている。完璧なタイミングなら相手は大きく隙を作り、こっちの反動も少ない。メイビスさんの因果応報を見たからわかる。僕のはまだ未熟だ)
「それでいい。第一段階の因果応報なら相手の動きを完璧に入れてなくても使える。物理攻撃に対しては曖昧なタイミングでも因果応報を使ってもいい」
V・ドラゴンはトビの籠手に嫌な感触を覚えたのか、空を飛び、トビから距離を取り遠距離攻撃を繰り返す。トビは攻撃のリズムを測りながら躱し続ける。
10分経過。
トビは未だ、V・ドラゴンのリズムを掴めずにいた。
「……クソ! 難しい!」
「おいおい。逃げてばっかじゃ一生習得できないぞ~」
25分経過。
結局、トビは因果応報の第二段階に至らぬまま、ただ体力をすり減らしていた。
「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」
トビが一瞬、気を抜いた時だった。
「馬鹿が……!」
「しまっ!?」
トビは一瞬の隙をつかれ、V・ドラゴンの腕に岩壁まで弾き飛ばされた。
「がはっ!?」
背中を打ち、血を吐くトビ。
V・ドラゴンは雷を口に溜める。これまでと違い、多く多く溜める。トドメの一撃、確実にトビを消し去る一撃だ。
「ちっ」
メイビスは銀の檻を解除し、飛び込もうとするが、
「邪魔をするな!!」
「……!?」
トビがメイビスを止める。
トビは立ちあがり、左手で右手を、籠手を握っていた。
「すぅー、ふぅ~……」
トビは左瞼を下ろし、体の魔核を停止。心臓の裏にある熱い魔核を起動させる。
「開け、龍王核」
龍王核を開き、龍氣を取り出す。
「あの野郎……龍王核を開けたのか!? だが、それで一体」
何をする気だ……? とメイビスはトビの行動を理解できなかった。
トビは龍氣を右眼に灯し、そして残った龍氣を右腕に溜める。
(龍氣で視力と右腕を強化。ガロンにも使った因果応報特化のスタイルだ!!)
まさに、すべてを掛けた賭け。
失敗すれば死、あるのみ。
本来なら止めるべき愚行――だがメイビスは足を止めた。目を奪われていた。トビのその覚悟に……。
「たかが修行……それに命を懸けられるか否か。それが、凡夫と天賦の分かれ道……! やってみろ、小僧」
V・ドラゴンが雷を吐いて、それが自身に着弾するまでの0.2秒を、トビは永遠のように感じた。
感情の高ぶりも、感情の落ち込みも、どちらもいらない。因果応報に必要なのは+-0の感情。トビの頭の中は目の前の情報の処理にすべて使われる。
これまでに得た情報、今のV・ドラゴンの調子、V・ドラゴンの呼吸、眼球の動き、大気の震え、すべてを総合し、着弾までの時間を計算。
ブレスが吐かれ、目の前にくる。トビは籠手を振るい、手首を捻って手の甲から螺旋の衝撃を加える。
「因果応報!!!」
キュイン。と甲高い音が鳴り、一瞬、目の前の空間が螺旋状に歪んだ。
(あ)
実体のない雷を、叩いた感触が入った。
まるでフライパンを殴ったような感触があった。
雷が、地面に垂直に落としたゴムボールのように、V・ドラゴンの口元に戻っていく。
「ガア!?」
V・ドラゴンは口に雷を受けるも、耐性のせいで無傷だ。
「OKだ。因果応報の第二段階、成功だな」
「……今のが、第二段階……本当に、雷を弾き返せた……!」
「今日はここまでだ」
メイビスはV・ドラゴンを囲むように銀の籠を作り、V・ドラゴンを閉じ込めた。
「ガアアアアアアアッッ!!!」
「またなV・ドラゴン。明日もコイツと遊んでくれ」
「え? 明日も……!?」
「さ、早く村に帰るぞ」
「えーっと、メイビスさん……村に帰る前に寄る場所ありますよね?」
トビが頬を掻きながら聞くと、メイビスはとある少女たちを思い出し、冷や汗をかいた。
「やべっ」
---
「……」
岩場に戻ってきた二人は、目の前の光景に言葉を失った。
「いい加減にしなさいド貧乳エルフ! 乳無し!」
「その減らず口が治るまでずっとそのままですからねっ!」
イヴンはスカートどころか服まで風でたくし上げられていた。服で顔は見えず、さらに高そうな黒ブラジャーも胸の谷間も露わになっており、スカートも捲りあがっているため上下の下着どちらも晒していた。銀糸で拘束されているのに風で器用に服を動かして糸をかいくぐり、この状態にしたのだろう。メイビスはソフィアの魔法技術を心の内で称賛した。
ソフィアはなぜか怒り心頭の面持ち。頬がMaxまで膨らみ、軽く涙目だ。
トビはソフィアに背後から近づく。
「なにやってるのソフィア……」
「え!? トビさん!! 後ろにいるのですか!?」
「ちょ、マジで!?」
「いや、放っておいた俺の責任もあるけどよ……仲よくしろよお前ら……」
「ぎゃーっ! 見るなケダモノ共! 理性が飛ぶわよ理性が!!」
「飛ぶかアホ」
「ソフィア……はしたないよ……」
「違います! 先に喧嘩を仕掛けたのはイヴンさんなんですっ……信じてくださぁい!!」
さっきの死闘との落差にトビはため息をついた。
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