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第30話 銀魔法

 瞬間、トビたちの視界に銀色の光の線が走った


銀蜘蛛(ガネグモ)


 トビとイヴン、ソフィアは一斉に動きを止めた。否、止められた。

 彼らの体には糸が巻き付いている。太陽光で煌めき、トビはその糸の正体を知る。


 銀。


 それが彼らを止めている物体。

 銀は展延性に優れ、たった1gで2200mもの線に伸ばすことができる。メイビスは魔法で銀を作り、銀を糸のようにして、さらに魔力で強化し操る。メイビスが作ったこの銀糸は隕石すら受け止められる強度を誇る。

 トビとイヴンの攻撃は止められたが、ソフィアのブーメランはまだ止められていない。が、無意味だ。メイビスはソフィアの銀のブーメランを噛んで止めた。メイビスは銀を生成し、操る魔法を使う。そして、魔法と耐性は表裏一体。つまり彼は銀耐性を持っているので銀のブーメランは避けるまでもないのだ。

 メイビスはガムを吐き捨てるようにブーメランを吐き捨てる。


「銀耐性の銀魔法使い、それが俺だ」

「知ってるわよ! てっきり使わないで戦ってくれると思ったのに!」

「誰がいつそんなこと言った?」

「イヴンさん……耐性を知っていたなら教えてください」

「だから使うと思ってなかったって言ってるでしょ!」

「魔法を使わずとも、銀耐性があるなら私のブーメランが効かないですよね?」

「あーもう、うっさいわねネチネチと!」

「ネチネチって……私は……!」


 イヴンはソフィアを無視し、メイビスの方を見る。


「てかじっちゃん! 体のライン出るからあんま縛り付けないでよっ!」

「そんなガキくせぇ体でなにいっちょ前のこと言ってやがる」


 ミシ……と、メイビスの耳に肉が軋む音が届いた。メイビスは恐る恐る彼を見る。

 すでに敗北を認めたイヴンとソフィアに反して、彼だけはまだ諦めていなかった。


「おいおい……」


 トビは、体のダメージを気にせず、銀の糸を力づくで解こうと体に力を込めていた。

 銀の糸が肌に食い込み、肉を裂く。トビは籠手で銀糸を掴み、剥がす。こんなにもキツく縛られた状態で体を無理やり動かせば絶叫するほどの痛みが体に走る。なのに、トビは構わず動く。


 銀の糸を無理やり解いたトビは一メートル先のメイビスに立ち向かう。その血みどろの体で、なぜか勝ち誇ったようにトビは笑う。


「体力、使わせないんじゃなかったんですか?」

「あ~、お前のようなクソガキは久々だ」


 メイビスは右腕に、籠手のように銀を纏い、トビの勇者の籠手と己の銀の籠手を衝突させる。


「昔のアイツにそっくりだ。籠手を受け継いだだけはあるな」

「別に、受け継いだわけじゃないんですけどね。ただ拾っただけです」


 生身に触れなければ耐性破壊は生じない。銀を挟むことで、メイビスは己の耐性を守っているのだ。


「そうかい。そんじゃま、戦いは一旦お預けだ」


 メイビスはトビの腹に左拳でグーパンを入れる。


「かはっ!」

「ありゃ?」


 意識を絶てるだけのダメージを与えたつもりだったが、トビは意識を繋いだ。メイビスは仕方なく首筋にも一撃入れてトビの意識を絶ち、トビの体を肩に抱える。


「じっちゃん! そいつをどうするつもり!」

「あ~、V・ドラゴンの討伐はこの小僧にやらせる。お前らはここで待ってろ」


 メイビスはトビを抱えてその場を去った。

 縛られた状態で残されたイヴンとソフィア。


「はぁ!? ちょっと! 解きなさいよバカぁ!!!」

「……これでは一歩も動けませんね……」


 拘束された年若き娘二人。

 そこに悪漢の手が迫る。


「ぐへへへへ……!」


 眼帯のエロザル、ヨタマルである。


「ソフィーはん、そんなきつきつに縛られてかわいそうやなぁ。待っててな。ワイがやさし~くほどいてやるさかい」


 ヨタマルは大きく跳躍し、ソフィアの胸にダイブしようとするが、


「むぎゃああああああっ!!?」


 ヨタマルはソフィアが発した風魔法によって遥か彼方に飛ばされた。


「ほんっと馬鹿ねアイツ」

「はぁ。一体どれだけの時間このままなのでしょう」

「さぁね。つーかアンタ……」


 ソフィアの縛り付けられくっきりとなった体のラインを見て、イヴンは笑う。


「……貧相な体つきね」


 イヴンはぶかぶかのパーカーを着ているため分かりづらいが、こうして縛り付けられると胸の部分がクッキリと浮かび上がっている。

 一方、ソフィアは……残念ながら、縛り付けられてもちょっとの凹みしか浮かばなかった。エルフは脂肪が少ないという特徴を持つゆえ、仕方のないことなのだが。


「……もう怒りました」


 イヴンがコケにした笑いをすると、ソフィアは頬を膨らませ、風魔術でイヴンのスカートを上にあげた。


「ちょっ! 馬鹿! なにやってんの!?」


 身動きが取れない中、イヴンの大人ぶった黒のレースの下着が露わになる。


「ちょっとぉ! なにすんの!!」

「そんなにご自慢の体なら、もっと良く見てもらったらいいじゃないですか」

「ふざけんな貧乳エルフ!」

「ひ、貧乳……!? あ、あのですね! これでもエルフの中では大きい方で――!」


 二人は他にすることもないので、ひたすらに口喧嘩を繰り返すのだった。



 --- 



 トビが目を覚ましたのは山の中だった。

 村があった山とは違う山だ。あそこから3キロメートル離れた場所にある山。周囲は岩壁で、藁が下に敷き詰めてあり、天井は吹き抜け……。

 背後に洞窟、恐らくここに来るときに使ったであろう洞穴にメイビスは座っており、銀の柵で洞窟の穴を塞いでいる。


「メイビスさん……これは一体どういう状況ですか?」

「ここはある生物の巣だ」

「……いやいや、まさかまさか……」

「退路はこの洞穴か、100メートル上にある穴しかない。だがこの穴は俺が檻で塞いでいて、上の穴はまず到達するのは不可能。そんで、この巣の主は上の穴から入ってくる」


 翼の音が、上空から聞こえてくる。


「その足元に散らばっている骨は、あの村の人間のモノだ」


 空から、真っ黒の翼竜が現れた。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

「冗談でしょ」


――V・ドラゴンだ。


 トビは単身、V・ドラゴンと向かい合う。

 ここは闘技場。剣闘士は勝つか死ぬか、もしくはオーナーの気まぐれでしかフィールドから出ることは許されない。


「さぁラウンド1、スタートだ」


 闘技場のオーナーがそう告げた。

【読者の皆様へ】


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