第28話 殺し屋メイビス
「すみません」
トビは目についた中年男性に声を掛ける。
「なんだ、よそ者か。悪いが今は構っている暇はない」
「なにかあったのですか? もし僕らで手伝えたら手伝いますので、お話、聞かせてもらえませんか?」
村人の男はトビたちを見る。
体つきはいいが、まだ子供の男。
軟弱そうな女子二人。顔の緩い猿。
うん。戦力外。と男は判断する。
「帰れ! 忙しいんだ!」
「こっちだって忙しいっての」
イヴンは男の右手を掴みあげる。
「て、テメェ! なにしやがる!」
男はイヴンの手を振りほどこうとするが、
「……!?」
成人男性が思い切り力を入れても、掴まれた腕は一切動かなかった。
「ちょ、イヴン! 手荒なことは……」
「この村、ロクな治癒師がいないようね」
男性の腕に巻かれた包帯を見てイヴンは言う。イヴンは腕を掴んだまま治癒術を発動する。男性は腕に違和感を抱き、包帯を解く。
「こりゃ……!」
包帯の下は無傷になっていた。
「あ、アンタ……治癒術を使えるのか」
「そうよ。治してやったんだから事情教えろ」
口は悪いが、イヴンのおかげで男性の信頼……こちらの実力に対する信頼は得られたようだ。イヴンのパワーと治癒術がパーティの力を証明した。
男性は縋るような表情で語り始める。
「ドラゴンだ……ついこないだから、近くの山岳にドラゴンが住みつきやがった」
「はぁ? この辺りって魔よけの結界張ってるんでしょ。なんでドラゴンが寄りつくのよ」
「アイツは別なんだ! 真っ黒で禍々しくて……しかも、いくら攻撃してもすぐに回復しやがる! 翼を折っても、首を落としても再生しやがるんだ!!」
「「「!?」」」
トビとソフィアは目を合わせる。
「まさか……エルフの里にいた巨人と同じ」
「はい。ヴァンパイアの一種の可能性が高いですね。V・ドラゴン、とでも呼びましょうか」
「討伐するわよ!」
意外にも、そう提案したのは村に寄るのをめんどくさがっていたイヴンだった。
トビとソフィアはイヴンを見直すが、
「ヴァンパイアの討伐! お師匠への良い土産話になるわ!」
イヴンの中に村人のためという想いはなく、ただひたすらに私利私欲しかなかった。トビとソフィアは改めてイヴンに幻滅する。
「待ったお嬢! ヴァンパイアは並大抵の相手じゃないで! 危険や!」
「でもアンタ、ヴァンパイアとは相性良いじゃない。不滅の盾になれるんだから」
「せやけどなぁ……」
「やることは決まったね」
「はい。倒しましょう。V・ドラゴン」
「え? もしかして、手伝ってくれるのか?」
村人の問いにトビが頷く。
「はい。対ヴァンパイアについては経験があるので役に立つと思いますよ。とりあえず、この村の戦力を教えてくれませんか」
「村の戦力は……ほぼゼロだ。この前、ドラゴンに挑んで全員怪我しちまった」
「そうですか……」
「もしもV・ドラゴンがV・タイタンと同等レベルだと仮定しても、三人で討伐するのは無理があります。トビさん、ここは一度山を下り、里に戻って援軍を呼びましょう。いま急いで戻ればギリギリ引っ越し前に間に合います」
「はぁ? 冗談でしょ。また山下るとか絶対イヤ! 山を下りるぐらいなら無視して進むわよ」
「い、いや! 待ってくれ! 村の戦力はゼロだが、ちょうどアンタらと同じように協力してくれるって言ってくれている旅人が一人いるんだ!」
「その方はどちらに?」
「こっちだ! いま村長と話している!」
男性の案内で村長の家に足を運ぶ。
煌びやかな装飾の成された木造の家、その中に村長と思われる老婆と、もう一人。
「村長、メイビスさん。ドラゴン退治に協力してくれる若者を連れてまいりました」
メイビスと紹介された男性は、かなり歳がいっていた。おそらく50代後半から60代前半ほど。しかし体格は大きく、その大きな背中からは歴戦の戦士の如きオーラを感じる。真っ赤な髪は座った姿勢とはいえ床に届くほど長い。
灰色の長いコートを羽織っており、そのコートの背には銀色の二本の釘がバツ印を作っているエンブレムがあった。
「嘘、でしょ……なんでここにいるの!」
イヴンが嬉しそうに声を上ずらせた。
「メイビスじっちゃん!」
「あ~、イヴンか」
イヴンはメイビスの背中に抱き着く。
「うわ! うわ! 十年ぶりぐらい? ずっとどこ行ってたの!?」
「なーに、ヴァンパイア狩りながら老後のために世界中を散歩してただけよ。あと、まぁちょいと旧友探しもな」
「えっと……イヴンさん、お知り合いですか?」
「ええ! メイビス=ハイター。って言えばわかるかしら?」
トビとソフィアは首を傾げる。
「はぁ? アンタら学校行ってないの?」
「俺もまだまだってわけだな」
呆れるイヴンと笑うメイビス。仕方なく村長が口を開き、メイビスの説明をする。
「メイビス=ハイター。魔王城に突入した六人の内の一人にして、七大ギルド『銀十字の滅殺者』のギルドマスター……吸血鬼専門の殺し屋だよ」
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