第27話 リッカ村
イヴンの手を離れた盾を、トビはもう一度ぶん殴る。パリン! と耐性が割れる。同時に盾は形を変え、猿――ヨタマルに戻った。
トビはヨタマルの首を籠手で掴み無力化。ソフィアがブーメランをイヴンの喉元に添え無力化する。
「勝負あったね」
「すまんなお嬢……」
「ここまでです」
「わかったからブーメラン向けんな! 私の柔肌に傷がついたらどうすんのよ!」
トビとソフィアは武器を収める。
イヴンは威張るように胸を張り、
「合格よ! 私についてくることを許可するわ!」
「負けた癖にどうして偉そうなのでしょう」
イヴンとヨタマルがパーティに加入した。
眼帯を付け直したヨタマルはソフィアの頭に飛び乗る。
「なぁなぁエルフの嬢ちゃん、どうしてこの男と旅してるんや?」
「話すと長くとなるのですが……」
「私は籠手を拾ってからここまでの経緯を知りたいわね」
「いいよ。休憩がてら話そうか」
トビは二年前、籠手を拾ってから今に至るまでの経緯を全て話す。
自分に激痛耐性があること。籠手を使ってスラムロックの王を倒したこと。ソフィアとの出会い、エルフの里で起きたこと。その全てを話す。
「激痛耐性……そんな抜け穴があったとはね。たしかにそれなら勇者の籠手を使えるわ」
「イヴンはどういう経緯でこの籠手を探す旅に出たの?」
「お師匠の命令よ。私のお師匠は勇者パーティの魔法使いで、私は小さい時から弟子入りしてたの。そのお師匠から『勇者の籠手を取ってきたら一人前と認めてやる』って言われてね。めんどくさいけど仕方なく籠手探しの旅に出たの」
「勇者様はいまどこにいるのですか?」
「さぁね。どこにいるのかしら。スピカの王都に行けば足取りを掴めると思うけど、勇者パーティは世界中動き回ってるからね~。追いつくのも一苦労よ」
「勇者探し。旅の目的としてちょうどいいんじゃないでしょうか?」
ソフィアはトビの眼を見て言う。
「そうだね。勇者様には個人的にも会ってみたいし。ねぇイヴン、勇者様ってどんな人?」
イヴンは腕を組み、どこか呆れたように、
「最強よ」
どんな人か、という問いに対して、強さで答えるのはズレている。そうわかっていてもイヴンは兄のことをまず最強と説明した。
勇者という人間の性格、人柄、それらを説明する前に、まず彼の強さについて語った方が良いと判断したのだ。
「世界最強。歴史上にもお兄ちゃん以上に強い人はいないんじゃない? 魔王ですら、きっとお兄ちゃんの本気を引き出せなかったわ。お兄ちゃんは一人だけ手こずる人間がいるって言ってたけど、どうかしらね。私はお兄ちゃんが負ける姿が想像できない。その強さに起因するお気楽さ、楽観的な性格。ほんっとうに色々適当で、よくお師匠に怒られていた」
イヴンの話を聞き、トビは笑う。
「ぜひ会ってみたいな。最強の人か……!」
話を聞き終えたトビは勢い良く立ち上がる。
「さっ! 休憩は十分でしょ! 行こ!」
「なに急にテンション上げてんのよ」
底の見えない笑み。
どこか飄々とした感じ。
イヴンはトビの後ろ姿に、どこか兄を感じていた。
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山を登り始めた三人と一匹。
曲がりくねった坂道、つづら折りを上がっていく。
「この山の山頂には村があります。今日はそこで休みましょう」
「あー、そういえばあったわね。無視したけど。なーんか、辛気臭い感じだったわよ」
「そうなのですか? 以前に行った時は活気あふれる村だったのですが……」
トビの肩にヨタマルが飛び乗り、耳元で小声で喋り出す。
「……なぁなぁ。あのエルフの嬢ちゃん、トビはんの彼女なんか?」
「まさか。ただの仲間だよ」
「……そっかぁ。じゃ! ワイが狙ってもええやんな! 代わりにトビはんにはお嬢をあげるから堪忍してな~」
「そんな勝手なこと言って大丈夫?」
ヨタマルの顔面にイヴンの右ひじがめり込む。
「聞こえてるわよバカザル!」
「ぽぎゃあっ!?」
ヨタマルはトビの肩より落下するが、ソフィアが両手でキャッチする。
「大丈夫ですか?」
「ありがとなソフィーはん。やっぱ短気な女子はあかんわ……お嬢、そんなんじゃ一生彼氏できへんで」
「作ろうとすればいつでも作れるわよ。私に見合う男がいないから作らないだけでね」
山を登り切り、一行は村にたどり着く。
「ここがリッカ村……のはずですが」
山の巨大な空洞部分に岩や木で作った建物が多くある。リッカ村、山の内側に存在する村だ。実に物珍しい作りの村である。村の屋根が山の頂上になっている。
なぜか村人の表情は暗かった。
狩猟道具を持って立ち尽くす者。ひたすら神に祈る者。
怒声に近い声色で話し合う老人たち。
明らかに何かが起こっている感じだった。
「話を聞いてみようか」
「ちょっと、面倒ごとはごめんよ」
「放ってはおけません」
トビとソフィアが責めるようにイヴンを見る。
イヴンは観念したように肩を竦める。
「あー、もうっ! 勝手にしなさい!」
事情聴取開始。
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