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第26話 モンキーマジック

 金髪の少女イヴンと猿の召喚獣ヨタマル。

 トビとソフィアはヨタマルの方に視線を移す。


「……今更ですけど、お猿さんが喋ってますね」

「……まさか初めて見る猿が喋る猿だとは思わなかったよ」


「奴ら、ワイのあまりの美貌に恐れおののいとるわ」

「ただ物珍しいだけでしょ」


 トビは戦いの構えを解き、対話を試みる。


「君の言うことを信じるなら、これは本当に本物の勇者様の籠手ってことだよね」

「そうよ」

「それで、勇者様はこれを探していると」

「う~ん……探しているのはどちらかと言うとお師匠、勇者パーティの魔法使いなんだけど、まぁその認識でいいわ」

「いいよ。返すよ。この籠手」

「は? え? いいの?」

「うん。勇者様の物なんだから当然でしょ。ただ一つ、条件がある」


 金銭か、なにか代わりになる物品か。なにを要求されるか思索するイヴン。しかしトビはイヴンが考えたどれとも違うモノを要求する。


「僕を勇者様に会わせてほしい」

「はぁ?」

「君が言っていることが全部本当だとは限らないしね。実際勇者様に会って確認しなくちゃ、籠手は渡せない」

「ふーん。言ってることは間違ってないわね。でもこれから勇者パーティを追うにあたってかなり険しい道を行くのよねぇ。足手まといは連れていけないのよ」

「足手まといじゃないと証明できればいいわけだ」


 トビとイヴンの視線が鋭くなる。


「君を倒して証明しよう」

「いいわねアンタ。話が早いわ」


 互いの魔力が猛々しく燃え上がっていく。


「簡単じゃないですよトビさん。あの子、耐性が無いとはいえすべての魔術が使えますから」

「そ。私は全ての魔術を使えるこの世に10人といない四術の使い手(ナチュラルマスター)。稀代の天才よ」

「才能があってもあの歳で全ての魔術を使えるなんて……生半可な努力では不可能です」

「努力家なんだね」

「はい。努力家です」

「……ちょっと。その芋臭い呼び方やめてくれる? て・ん・さ・い! 天才と呼びなさい!!」


 ヨタマルが「グズン」と鼻をすする。


「お嬢は勇者の妹として期待されていたのになぁ、耐性がなくてなぁ、みんなから白い目で見られてなぁ、それでもめげず、それはそれは苦労して魔術を覚えたんやで……ホンマ努力の人やで」

「ちょっ! ヨタ! 余計なことを……! ――あーっ! コラ! そこの二人! 同情の視線を向けるな!!」


 イヴンはワーワーと喚いた後、「もう怒った……!」と右手をヨタマルに向ける。


「ヨタ! 猿真似(モンキーマジック)よ! ターゲットは女の方!」

「はいな!」


 ヨタマルは右眼の眼帯を外し、鏡のような眼球を晒す。


(なんだあの眼……鏡? 眼に、ソフィアが映っている)

「魔眼……!?」


 ヨタマルの鏡のような眼。その眼に映るソフィアがぐにゃっと消え、代わりに“風”という字がヨタマルの右眼に浮かんだ。


「変化!」


 ヨタマルはボン! と体から白煙をまき散らすと共に消えた。そして煙が晴れると、そこにいたのは猿ではなく、“風”という字が表に書いてある巨大な盾だった。イヴンは自分の首下まである巨大な盾を右手一本で掴みあげる。


「なんだ!?」

「おそらく、お猿さんがあの盾に変化しました。聞いたことがあります……召喚獣の中には、魔眼で相手の耐性を読み取り、その耐性をコピーし武具などに化ける魔猿(まえん)がいると。名は確か……マネザル」

(そのまんまだ……)

「どうや! 驚いたやろ!」


 盾からヨタマルの声がする。

 ソフィアは風を右手に纏う。


風の斬撃(ウィンド・ブレード)!」


 ソフィアはイヴンに向けて風を飛ばす。以前、トビの体を斬り裂いた風の刃だ。

 しかし、風の刃は盾にぶつかると四散した。


「やはり、私の風耐性をコピーしましたか……!」

「なるほど……耐性と魔法は表裏一体。相手の耐性をコピーすれば、同時に相手の魔法を防ぐ体を手に入れられる」

「さらに召喚士を守る盾に変化するとは……やはり、厄介な相手です」

 

「お嬢。あの子、風耐性と睡眠耐性を持ってたわ。耳当てで耳隠してるけど……」

「エルフか。体の脂肪少ないしね。おっぱいも小さいし」


 イヴンのセリフにソフィアは不機嫌な面持ちになる。


「あ、あなたも似たようなモノでしょう!」

「私は脱いだら凄いのよ」


 言い合う女子二人。確かにエルフは基本的に胸が小さかったな~、とトビは思い出す。

 その思考を見透かされたのか、ソフィアがジトーっとトビの顔を見る。


「トビさん……」

「えーっと、そろそろはじめてもいいかな?」


 トビは強引に話を打ち切った。

 ソフィアは不服な顔をしながらも武器を構える。


「お好きにどうぞ」

「じゃあお言葉に甘えて……と!!」


 トビは強化術で体を強化し、勢いよく飛び出す。そのあまりの速度にイヴンは一瞬怯むが、すぐに立て直し盾を前にして突進する。

 トビの籠手と、イヴンの盾がぶつかり合い、鍔迫り合う。


「手応え、アリだ!」

「あかん! あかんわお嬢! あんま攻撃されると風耐性ごとやられるわ! ワイのこの変化能力は耐性ありきやから、耐性壊されると多分変化解けて貫かれてドボンや!」

「それならそうでやり方はあるわ!」


 イヴンは盾の底を蹴り上げ、盾をひっくり返すようにしてトビの顎を下から突き上げる。


「~~~っ!」


 天を見上げ、イヴンを見失ったトビ。

 イヴンは盾の突撃でトビの体を突き飛ばす。トビは吹っ飛んだ先にあった木を足場に跳躍し、またイヴンの盾に籠手を突きつけるが、


「この感触は……」


 盾に見えない壁――結界を纏っている。結界は貫けたものの、結界で攻撃の勢いを殺され、盾に簡単に弾かれる。態勢が崩れたトビに追撃を繰り出そうとするイヴンにソフィアがブーメランを投げつける。ブーメランは盾に弾かれるも、


「ちっ!」


 ソフィアは風魔法でブーメランを操り、何度弾かれようがすぐさまブーメランをイヴンの方へ送り戻す。


「鬱陶しいわね!」


 ソフィアが時間を稼いだ内に体勢を立て直したトビは、右手を二度振った後、イヴンに向けて走り出した。


「どっちもしつこいって!!」


 イヴンは結界を纏いトビに向け突進する。だが、


風の(ウィンド・)圧力(プレッシャー)!!」


 ソフィアが風魔法で四方八方よりイヴンの結界に圧を掛け、ヒビを付けた後、ブーメランの一撃で結界を割った。


「しまっ!!」

「今です! トビさん!!」

「大丈夫やお嬢! あと一撃、二撃なら耐えられる!!」


 ヨタマルの言葉を信じ、イヴンは構わずトビに突進する。

 トビの籠手と、イヴンの盾がまたぶつかり合う――その寸前で、トビは籠手の向きを変え、籠手の甲を盾に向けて手首を捻り、螺旋の衝撃をもって盾を打った。


因果応報(ブレイク)!!」

「なっ!!?」


 相手の攻撃の衝撃を返す技、因果応報(ブレイク)が成功する。

 轟音を立て、イヴンが突進に使った全エネルギーが反転する。エネルギー、衝撃は、盾を伝い、イヴンの盾を持つ手、右手首に直撃する。


「つぅ……!?」


 イヴンは自分の突進の衝撃を右手に受け、盾を手放した。

【読者の皆様へ】


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