第22話 次の目的地
エルフのいる地下牢に行く。
同じ牢に、エルフ達は三人揃っていた。それぞれ布一枚被せられているだけだ。奴隷はエルフの他はいない。どうやらバグマンはエルフという種に特別な興味を持っていたらしい。
目立つ外傷はない。ただ、牢に行くまでの道で……トビはおぞましい物を幾つか見た。拘束具、性器部分だけ露出させるような服や、男性の性器を模した物。所謂性玩具が地下牢の前の部屋に多く置いてあった。エルフ達がなにをされたか、想像に難くない。
ソフィアの話によると、残りのエルフは全員100歳を超えているそうだが、牢にいるエルフたちは20代、下手したら10代に見えるほど若く見える。トビに以前『ママを返して』と訴えてきた子供、あの子供に似たエルフもいる。
怯えるエルフ達にトビはニッコリと笑いかける。
「エルフの皆さんが里で待ってますよ。マロマロンさんや、ソフィアも」
知っている名が出たことでエルフ達の警戒が和らぐ。
「僕はエルフの里の使いです。いま、牢から出します」
トビはエルフ達を牢から出し、地下室にあった鍵で手錠も外す。
「よし、これで後は……」
ガクン、と視界が揺れた。
頭から顎にかけて、冷や汗が点ではなく線で流れてくる。
「あ、れ……?」
やばい。このままじゃ気絶する――そう思った時にはもう遅かった。トビは糸の切れた人形のように倒れた。エルフ達が心配そうな声を上げるが、トビはもう指一本動かせなくなっていた。
龍王核を開いた代償だ。体力も魔力も気力も全部持ってかれてしまった。
(まだまだ……僕の手には余る技って、こと……か)
トビはそのまま気を失った。
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奴隷は資産である。
奴隷を奪うことは窃盗罪に当たる。
さらに彼はガロンを殺した。
バグマンの衛兵たちもなぎ倒した。
つまり彼は大犯罪者であり、すぐさまバグマンと奴隷館主導の元、指名手配犯になったのである。
ただ、彼の名を誰も知らなかったので、下手な似顔絵と多額の懸賞金のみが載った指名手配書が配られた。指名手配書を見て、トビを見ても一致しないだろう……この手配書の効力は皆無に等しいが、お尋ね者となった今、トビはもはやアルバ王国に居られる身ではなくなった。
バグマンの館と奴隷館からエルフが脱走したことを知った金欲に満ちた汚い大人たちは血眼で王都中を探した。だがエルフはどこにもいなかったという。
バグマンの館にあった馬と馬車がなくなっていたことから、エルフ達は恐らく馬車を使って王都を出たと思われる。そして、彼も――
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エルフの里の診療所。
そこでトビは目を覚ました。
「おはようございます」
医者であるカリンがトビを笑顔で迎える。
トビは体を起こし、
「攫われたエルフの皆さんは!?」
「トビ様が気絶した後、バグマンの館から馬車を奪って脱走しました。全員、無事ですよ」
「そうですか……良かった」
トビはホッと胸を撫でおろす。
「あれ?」
トビの枕元。花瓶に、花が一輪挿してある。誰かの見舞い品のようだ。
「これ、ソフィアかな」
「いいえ、それはアイラ……あなたが解放したエルフ、その娘が持ってきたものです」
以前、トビに突っかかってきた子供だ。
「そっか」
トビは花びらをそっと撫でる。
「おう、ようやく目を覚ましたか」
「里長!」
診療所に入ってきたマロマロンが歯を見せて笑う。
「おぬしには感謝してもしきれんな」
「……どれも僕がやりたくてやったことです。それに里長には修行をつけてもらった恩がありますからね、その恩返しでもあります。里長に教わった技、役に立ちましたよ」
「そうかそうか、それは良かったのう。してトビよ、おぬし、これからどうする?」
「これから……ですか」
トビは「う~ん」と唸る。
「そういえば何も考えてなかったな。さすがにあれだけのことをしたからこの国には居られませんし、とりあえず隣国、アグナ聖国かスピカ王国に行きます」
「ワシらはアグナ聖国にゆくぞ。あそこはエルフを天使のようにもてなしてくれるからのう。おぬしも共に連れて行ってやろうか?」
「……聖国ってことは宗教国家ですよね。堅苦しいのは苦手なんですよ。ありがたい申し出ですが、僕はスピカ王国に行きます」
「そうか。そうじゃな……おぬしはそっちに行った方がいい。スピカ王国はこの地大陸最大の王国。七大ギルドもある。色々と勉強になるじゃろう」
マロマロンは残念そうな顔をする。
「もっとおぬしに叩き込みたい技術があったのじゃが、仕方あるまい。あーあ、せっかくできた弟子じゃったのに」
「弟子なんて他にもいるでしょう?」
「おらんおらん。エルフは基本魔法タイプじゃからな。もしくは剣士や弓兵じゃ。モンクタイプは1%もおらん」
トビは顎に手を添え、考察する。
(そうか、全員が風耐性を持ってるんだもんな。風魔法で戦うか、風魔法を活かせる武器を使うのが当然。風魔法と相性が悪いモンクになる人はいないか)
「話は変わるがトビよ、おぬしに頼みたいことがある」
「里長の頼みならなんだって聞きますよ」
「では安心して頼めるな」
マロマロンは一瞬、躊躇うような素振りを見せるが、すぐに自分に活を入れ言葉を紡ぐ。
「ソフィアのやつを、おぬしの旅に連れて行ってやってはくれんか」
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