第15話 奥義発動
「なんだ。ヒューマンもいたのか」
V・タイタンはまるで効いてない様子で体を起こす。
「その右手……いや、その防具か。我の耐性を一時的に消していたな」
トビは先ほどV・タイタンを殴った時の感触を分析する。
(思い切り殴ったのに、耐性を破壊することができなかった。本当に小さなヒビをつけたぐらいの手応え。ざっと後四発はぶん殴らないと耐性を破壊できないな)
問題はV・タイタンに籠手のことを見破られてしまったこと。
これにより、V・タイタンはトビを最警戒する。
「まずは貴様からだ。ヒューマン」
だがこれは好都合とも言える。
「すまんトビ、助かった」
トビの横にマロマロンが戦闘着(胸と腰だけを隠した格好)で現れる。
トビがV・タイタンを吹っ飛ばしたおかげで、エルフ達は精神的に立ち直る時間ができた。
トビとマロマロンが前衛、残り全員が後衛。これがこのチームの陣形だ。前衛の大切な役割の一つが後衛の守護、しかしもうトビが後衛に気を張る必要はなくなった。なぜならV・タイタンが自分に完全に集中しているからだ。自分が生きている限り、他に狙いを変えることはなくなった。ゆえに、好都合。
「……!」
暴威の一撃が迫る。
V・タイタンの左拳によるジャブ。トビとマロマロンは左右に散って避ける。左拳は地面を砕きめり込んでいく。
「なんとでたらめな……!」
「くらったら終わりだ……」
V・タイタンにとっては軽い一撃が、トビたちにとっては必死の一撃になりえる。
V・タイタンはトビに狙いを絞り、両拳の連打を繰り出す。トビはこれを空中に飛んで躱す。
空中に逃げたトビを見てV・タイタンはニヤリと笑った。
「愚かな!」
空中で人は動けない。
V・タイタンは大振りで、確実にトビを殺しえる力を持った右ストレートを放つ。それを見て、今度はトビがニヤリと笑った。
突風がトビを洞窟の壁まで飛ばした。
「なに!?」
ソフィアが風魔法を発動し、トビを移動させたのだ。
そのままトビは壁を足場に飛ぶ。その背に風の後押しを受けて。
大振りを繰り出した瞬間の隙をつかれたV・タイタンは、トビの籠手による一撃をこめかみに受ける。
「ふん!」
トビが一撃加えると同時に、マロマロンは力強く発声しV・タイタンの右足を蹴りで砕いた。死耐性が消えたタイミングを狙われたせいで再生がすぐに発動せず、足を砕かれたV・タイタンはうつ伏せに倒れ込む。
トビは空中で、また右拳を握りしめる。自分の下でうつ伏せに倒れたV・タイタン目がげて落下する。
トビがV・タイタンに触れる、そのタイミングを狙ってエルフ達も魔法の準備をする。今度はV・タイタンの顔、心臓を狙って。
V・タイタンは防御も攻撃もできる体勢じゃない。やれる……そう思った時だった。
「バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
洞窟の外、エルフの里にまで響く轟声がV・タイタンの口より発せられた。
奴は不死。喉が焼けてもすぐに復活する。肺が破裂してもすぐに回復する。自分の体の被害など無視した轟声に、エルフ達は一斉に、反射的に攻撃をやめ、自分たちの耳を守る動作をとった。鼓膜が破れるほどの声だ、己の身を守ろうとするのは当然である。
だが、ただ一人、攻撃の動作に入ったままの者がいた。
その者は己の身の危険を知らせる装置、痛覚が壊れている。ゆえに、鼓膜が破られているにもかかわらず、耳から血が流れているにもかかわらず、耳を一切守らなかった。
V・タイタンは天井を見上げ、目を剥いた。
「なぜ、止まらぬ!!?」
「あれ? なんだか音が聞こえないや。――まぁいいか」
トビの右拳がV・タイタンの脳天を捉え、地面に顔面を叩きつけた。
(あと二発)
エルフ達はまだ叫び声の余波で動けない。
V・タイタンは体を起こすと同時に、空中にいるトビに後頭部をぶつけ、弾き飛ばした。
「っ!?」
トビは目にも止まらぬ速度で壁に突っ込んだ。
ただの、起き上がりの一撃。なのにトビの肉体の被害は甚大だ。
「う、ぐ……」
衝撃で空いた壁穴の中、トビは自身の体のダメージを確認する。
(左腕は逝ってるね。内臓は無事。脳震盪を起こしているのか、視界が霞む。背中から腰にかけて打撲が数か所……良かった。足と右腕が無事なら戦える)
激痛耐性が無ければ今の一撃で気を失っていただろう。
もはや、V・タイタンはエルフ達に見向きもしなくなった。完全にエルフは無視し、トビの方を向く。いまV・タイタンはトビとエルフ達に挟み撃ちにされている形だ。己の体が壁となり、エルフとトビの連携を防げている。このエルフを無視するという決断は良い判断と言える。と言ってもV・タイタンは別にそこまで深いことを考えてトビに集中したわけじゃない。
ただ単に、V・タイタンは恐怖を抱いていた。鼓膜を貫かれても、左腕を折られても、笑っている少年に……。
「なぜ、笑っている」
戦いを止めてまで、V・タイタンは少年に聞いた。
「? なに言ってるかわからないよ」
「……そうか。残念だ」
V・タイタンの背中にエルフ達は風魔法を繰り出すが、死耐性のあるV・タイタンには一切傷をつけられない。
「トビ!」
マロマロンがトビのいる側に回ろうとするも、V・タイタンが手の甲でマロマロンを弾き飛ばした。
「邪魔をするなコバエ共。いま、楽しいところだ!!」
(孤立無援か。単独で戦える相手じゃない。しかもこんなボロボロな体だ。勝ち目ゼロだろうね……今の僕のままならば……!)
トビは覚悟を決める。
(やるしかない、あの技を……!)
トビは心臓に右拳を当てる。
「全魔核停止」
全身の魔核を停止させ、龍王核の気配を掴む。
「まさか! アレをやる気かトビ!!」
「馬鹿が! 隙だらけだ!」
V・タイタンが攻撃態勢に入ろうとした時、V・タイタンの視界を砂塵が塞いだ。
「ちっ!」
「どうです?」
ソフィアは岩を風で砕き作った砂を、これまた風で操りV・タイタンの目にあてがう。
「攻撃は通じなくとも、これなら効くでしょう」
「小癪な!! 目が見えずとも、奴の位置は把握できておるわ!!!」
V・タイタンがトビのいる壁穴に拳をぶち込もうとするが、天井を足場に飛来したマロマロンがV・タイタンの拳を叩き落した。
「ぬぅ!!」
「邪魔はさせん!」
「全魔核起動」
ソフィアとマロマロンが隙を作っている間に、
全魔核を起動させ、全霊の魔力を龍王核に注ぎ込む。
「開け」
蓋が揺れる。
「開け……」
蓋にヒビが入る。
「開け……!」
龍王核を塞ぐ蓋が、壊れる。
「開け、龍王核!!」
【読者の皆様へ】
明日は用事があるのでお休みですm(__)m