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第13話 ありがとう

 診療所で目を覚ましたソフィアは、自分の現在の状況にまったく頭がついてこなかった。


――頭がスッキリしている。

――目の調子がすこぶるいい。

――魔力が活性化している。


 今までになく万全過ぎる体調に戸惑っていた。


「カリン。私は一体どうなっていたのですか?」

「ソフィア、あなたは二十日ものを間、眠ってたんだよ」

「眠っていた……? なにを馬鹿なことを。私が眠るはず――」


 ソフィアは最後の記憶を手繰り寄せる。


「そうだ。私、トビとかいう奴と戦って……それで、アイツに触れた瞬間、急に景色が真っ暗になって……」

「ソフィア!」


 診療所にやってきたトビは、ソフィアの手を握りしめる。


「よかった! 目が覚めたんだね!」

「あなたは……」


 ソフィアは握りしめられた自分の手を、トビの手を見る。


(なんだろう……凄く落ち着く。馴染みのある感触……)


 ソフィアはハッと我に戻り、手を振り払う。


「というか、人間! なぜこの里に!!」


 ソフィアが戦闘の構えをすると、


「やめい!!」

「いたっ!」


 里長が怒声とチョップでソフィアを止める。


「さ、里長……」

「そやつはおぬしの恩人じゃぞ。無礼な真似は控えよ」

「恩人?」

「ゆっくり説明するね。君が眠った後、なにがあったのかを……」


 なぜトビがここまでエルフ達に馴染んでいるのか、疑問に思いながらもソフィアはトビの話に耳を傾ける。

 トビの説明を終始ソフィアは冷静な顔つきで聞いた。


「なるほど。状況は把握しました」


 淡々とソフィアは言う。だが、口では整然としていても胸中には感謝が溢れていた。


「トビさん」


 ソフィアは深々と頭を下げる。


「ありがとうございました」

「え!? いやいや! そんなお礼なんていいよ!」

「いえ、本当に……感謝しております。これほどまでに体が軽いのは耐性に目覚める前、五歳の時以来です。睡眠とは、これほどまでに気持ちのいいものなのですね」


 ソフィアの感情をソフィア以外の者が理解することはできないだろう。

 眠れない日々。どれだけ脳が疲労しても、仲間たちが寝静まっても、眠ることができない日々は気が狂うほどに耐えがたい日々だった。常に頭にモヤがあり、眩暈なんてものは珍しくなかった。風邪などひいた時、寝て治すということができないため、ずっと気だるさと戦い続けなければいけなかった。


 そんな日々に一時的にとはいえ終止符を打ってくれたトビに、ソフィアは感謝してもしきれなかった。


「すまんが、話を進めるぞ」

「V・タイタンの件ですね」

「そうじゃ。おぬしの睡眠魔法の力を借りたい。勘を取り戻すまでにどれくらいの時間が必要じゃ?」

「一日あれば。体調や魔力に関しては今までで一番調子が良いです。これまで三分の一しか開けなかった魔核(コア)が全部開ける……」


 トビと戦った時より、ソフィアの魔力は漲っている。トビはそれを肌で感じていた。


(この二十日間で僕はかなり成長した。けれど、今のソフィアはその僕以上に魔力を持っている。僕と戦った時は本調子とは程遠かったんだな……)

「了解じゃ。エンヴァー」


 マロマロンは従者の女性、エンヴァーに声を掛ける。


「明朝、里の精鋭を集めよ。作戦会議を開く」

「人数は?」

「七人。わしら三人を含め、合計十人でV・タイタンを倒す」

「了解しました」

「そんなに急ぐ必要があるのですか?」


 トビが聞く。


「ある。この前の冒険者による大規模な森の探索、アレが失敗に終わったいま、奴らギルドは次にどう出ると思う?」

「もっと大人数での捜索、ですかね」

「そうじゃ。さらにいま、おぬしとソフィアがエルフの里にいる。となると、おぬしとソフィアが攫われたと考える可能性が高い。おぬしらを奪還するため、ギルドは素早く部隊を編成しているはずじゃ。いまエルフ達が森の監視をしておるが……偵察と思われる人間の影をここ三日でよく見るらしい」

「攻め込んでくるのも時間の問題、ですか」

「そうじゃ。いち早くV・タイタンを討伐し、この場を離れる。おぬしも今日はもう休んでおけ。早ければ明日にでもV・タイタンを討伐するぞ」

「了解です」


 マロマロンは会議の準備のため、診療所を出た。

 ソフィアは浮かない顔をしている。ソフィアがなぜ暗い顔をしているか、トビにはわかっていた。


「ねぇソフィア。この前里長に聞いたんだけど、この国の周辺諸国はエルフを一人の人間として扱うらしいね」

「はい。そう聞いてますが……」

「それなら、エルフを攫ったとしても他国へ売ることはできないわけだ」


 ソフィアは、トビの瞳をじっと見つめる。

 トビは淀みのない瞳で、


「この国の富裕層は王都に集中している。高額なエルフを買えるだけの財力を持っている人間はほとんど王都にしかいない。だから多分、これまで攫われたエルフは全員、王都にいるんじゃないかな?」

「トビさん……あなたはまさか、救うつもりですか……? 攫われたエルフ達を……」

「頼まれたからね。ママを返せって」


 少年は当然のような口調でそう言って笑う。


「だからそんな暗い顔をしないでよ」

「――あなたのような人間もいるのですね……」


 ソフィアは、くすりと笑う。


「……ありがとう」


 睡眠を奪われてから十年間、ずっと固まっていた表情が――ようやく溶けた瞬間だった。

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