第12話 龍王核
十日が経った。
毎日ソフィアの付き添い5時間、それ以外の時間はほとんど修行にあてる。そんな生活が十日続いた。
エルフの里での暮らしも慣れ始めたトビだったが、唯一慣れない物があった。
「はい。鬼丸カブトの薬膳スープです」
エルフの里唯一の料亭で、拳サイズのカブトムシが入ったスープが運ばれてくる。
エルフ達は虫を食べることに拒否感はないらしく、平然と食う。むしろ好んで食べる。
虫は栄養豊富らしくて、トビはマロマロンより虫食を基本とするように言われており、仕方なく虫を食べていた。
(スラムでも虫を食べることはあったから食べられないことはないけど……やっぱり気持ち悪い)
食事を終えたら訓練場へ。
トビが空けた訓練場の穴はすでに修復している。
「魔力の調整も慣れてきたようじゃな」
トビの体を流れる魔力はとても滑らかだ。魔力から荒々しさが消え、落ち着きが見える。
「そうですね。魔力操作はだいぶ慣れました」
「うむ。ではそろそろ手合わせするか」
マロマロンは胸と腰部分だけを隠した格好になり、拳にグローブを嵌める。
「里長とですか?」
「なにか問題があるかのう」
「いえ、格闘術が得意なタイプには見えないので……」
「この見た目から勘違いされがちじゃが、ワシはモンクタイプじゃよ」
その言葉を証明するように、マロマロンは一瞬でトビの目の前に移動し、左手でトビの服を引っ張り地面に跪かせて、トビの目前に右拳を寸止めさせた。
(速い!?)
「全力で来い。手を抜いたら殺すぞ」
「!!」
トビは籠手を装備した右手でマロマロンの手を振り払う。マロマロンはバク転し、トビの右手による攻撃を躱す。
トビとマロマロンの組手が本格的に始まる。
トビがスラムロックで磨かれた喧嘩殺法を使うのに反して、マロマロンは洗練された武術で対抗する。身体能力、技術共にマロマロンが上。トビは足を蹴られ、腹を殴られ、顔面を打たれる。
それでもトビは一切怯まない。ダメージをもろともせず、前に出ようとするが、
「!?」
ガクン。とトビの膝が落ちた。
「おぬしの耐性の弱点じゃな。激痛がないから体のダメージを正しく把握できておらん。その歪みは真剣勝負で致命傷になるぞ」
「……激痛はなくとも小さな痛みならある。痛みの種類、度合いからダメージを読み取って把握します」
言いたいことを全部言われたマロマロンは唇を尖らせる。
「優秀過ぎて寂しいのう。筋肉痛、脱臼、肉離れ、骨折、内臓破壊、あらゆるダメージをこの組手では与えていく。その都度ダメージを分析し、体のダメージを把握せよ」
「はい!」
「ちなみにいまおぬしの両足は肉離れを起こし、右肩は外れておる。いま治療しよう」
マロマロンは治癒術でトビのダメージを癒していく。
治療を終えた後、また二人は構える。
「では第二ラウンドじゃ。ゆくぞ!」
「はい!!」
---
さらに十日が過ぎた。
この十日間で強化術と武術のレベルアップ、さらに自らの体のダメージ把握、三つの課題に取り組み続けたトビ。
マロマロンの指導の力もあり、トビは全ての課題をクリアしつつあった。
「ふむ。トビ、一度手を止めよ」
訓練場の上、マロマロンが修行中のトビを止める。
「はい。どうしました?」
「そろそろ頃合いかのう……」
「?」
「おぬしに、必殺技を教えよう」
――必・殺・技……!?
「ぜひ教えてください!」
「わかったわかった。そう慌てるでない」
マロマロンは右手に青色のオーラ、魔力を纏って見せる。
「魔力を発生させる器官を魔核と呼び、魔核と魔核を結ぶ線を魔路と呼ぶ。魔核を塞ぐ蓋を魔栓と呼ぶ。魔核、魔路、魔栓。これが魔力に関する三つの器官の名じゃ」
「はい。それは以前にも聞きました」
「しかし、実はもう三つ魔力器官がある」
「そんなに!?」
「ああ。しかし、その三つの魔力器官はどれも才ある者にしか扱えない。今日はその内の一つ、龍王核の使い方を教えてやろう。龍王核は魔核の一種じゃが、その中に秘めているのは魔力ではなく、龍氣と呼ばれるモノ」
マロマロンは右手に青いオーラを纏ったまま、左手を掲げ、
「開け、龍王核……!」
マロマロンの左手に、琥珀色のオーラが纏わりつく。その量はかなり微量だ。薄く、今にも消えそうなほど小さな灯り。しかしトビはその琥珀色のオーラから、とてつもない迫力を感じていた。
「これは一体……魔力とは段違いの密度だ!!」
「見てわかるか、さすがじゃな。その通り、この龍氣は強化術以外には使えないエネルギー。魔力に比べ汎用性は劣る。だが、その代わりに、このオーラを纏った部位はとてつもない防御力と攻撃力を持つ。拳に灯せばパンチの威力を何十、何百倍と増加させ、瞳に灯せば動体視力・観察眼を強化でき、腹筋に灯せば鋼鉄を凌ぐ強固な鎧となる」
マロマロンは両手のオーラを消す。
「龍王核は基本の三器官と違い、誰の体内にでもあるわけじゃない。ごく一部の人間の体内にしかない。さらに龍王核を開ける者はごくごく一部。さらにさらに、龍王核を開き龍氣を実用レベルまで操れるのはごくごくごく一部」
「多分、僕の中には龍王核はないですね。そんなすごいパワーを秘めたモノがあったらとっくにわかっているはずだ」
「諦めるのは早い。おぬしは体内の魔核が多いゆえ、龍王核が魔核の影に隠れている可能性が高い。一度すべての魔核を塞ぎ、龍王核の気配を探れ」
トビは言う通りにする。
全身の魔核を魔栓で塞ぎ、体内から一時的に魔力と言う名の霧を消す。
(ある……)
心臓部分にある巨大な魔核の裏、そこに強いエネルギーを感じた。
ほぼ間違いなく龍王核だ。
(だけど、この龍王核の栓、外そうとしても外せない……! 魔核の魔栓とは段違いの固さだ!!)
「龍王核を見つけたら全身の魔核を開き、すべての魔力を龍王核に集中させよ」
「はい!!」
トビは204の魔核を開き、魔力を全て解放。魔力を全て龍王核の蓋を外すために注力させる。
蓋がピキピキと音を立てた時、集中させていた魔力が僅かな気のゆるみから四散し、全身の魔力が飛び散った。
「ぐっ!?」
体中の力が抜け、トビは膝から崩れ落ちる。
「センスはある。いずれは龍王核を開けるじゃろう。だが、あと十日では無理じゃな」
「もう一度やらせてください!」
「ならん。というかできん。いま魔力は空っぽじゃろうが。魔力の回復には約半日かかる」
「じゃあ、また魔力が回復したら挑戦させてください」
「ダメじゃ。龍王核の修行は魔力の消費が激しすぎて他の修行がすべて滞る。いまは基礎を伸ばすことに集中しよう。とりあえず、おぬしの中に龍王核があるということがわかっただけで十分じゃ」
トビは悔しい気持ちはあるものの、一度龍王核の未練は断ち切ることに決める。
「里長」
訓練場に若い女性エルフが訪れる。
「なんじゃ?」
「ソフィアが起きました。まだ朦朧としておりますが……」
「なんだって!」
里に来てから二十日後、ついにソフィアが目を覚ました。
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