第0話 加齢臭が凄いからもういらない
「あーあ、落としちゃった」
飛空艇から遥か下にある大地を見下ろし、金髪の男――勇者は呟く。
「おい、どうした」
勇者の仲間の一人、堅物そうなメガネの男――魔法使いが聞く。
「いやさ、籠手落としたんだよね。右手のやつ。右手が蒸れてたからさ、ちょっと外したらポロリと」
お気楽にそう言い放つ勇者に対し、魔法使いは眉間に皺を寄せ、「あぁん!?」と声を荒げる。
「愚か者! アレがどれだけ価値のあるモノかわかっているのか!」
「なんだっけ?」
「伝説の鉱物“アダマント”に伝説の勇者が天χ術式を込めた超特A級の籠手だ!! 代々勇者が受け継いできたモンだ!! アレ一つでどれだけの力を持つか……悪人の手に渡ったらどうする!」
「大丈夫じゃない? だって、あの籠手を装備できるの俺しかいないでしょ。俺以外のやつが使ったら激痛よ? マグマに手を突っ込むようなもんよ? それにあれもう加齢臭が凄くて……この前匂い嗅いだら死ぬかと思った。もういらないよ」
「ちぃ! 飛空艇を降ろす時間はない……後で使いを送るか」
「ほっといていいのに」
勇者は落下防止用の柵に肘をつき、籠手が落ちていったゴミ山を上空5000mから見つめる。
「な~んか、面白くなる予感」
勇者の視線の先には一人の少年がいた。
13歳ほどの真っすぐな瞳の少年が。
0話だけ短めです!