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2 男子卓球部の仲間たち

「なぁ隆人」


「なんだよ」


「いつからこんなやりにくい部活になったんだ?」


「知らない」


男子卓球部二年生、山口山仁と森山隆人がしゃべっていた。山仁は床に強いてある絨毯にまろび、隆人はすぐ近くの小さな椅子に腰掛けている。隆人が口を開いた。


「前から、顧問があんなやつだからしょっちゅうグダついてたけど、あの【独裁者】が部長追い出してからはは一段とひどくなったな」


「・・・俺さ、思うんだけどさ、部長復帰させても変わんなくね?」


山仁がそう言った。隆人はすぐ横のカバンからお茶を取り出して一口飲んだあと返答した。


「いや、まだ今の独裁体制よりはマシじゃない?」


山仁は寝返りを打って転がったあとに上体をあげ、隆人に言った。


「まあ、でもさ、最悪、【独裁者】を含め三年が引退するまでの辛抱だよな・・・あ、そういえば、今日、悠仁は?」


隆人の兄で卓球部三年生の悠仁がいない。


「悠仁、歯医者行くから先帰った」


「マジか〜。俺ら、後二時間どうやってやり過ごせばいいんだよ」


「ここ図書館なんだから本でも読んどけ」


「俺、マンガがいい〜」


そう、彼ら二人は部室の卓球場ではなく図書館にいるのだ。理由は単純。サキトと顔を合わせたくない。サボりである。


 山仁が駄々をこねていると、向こうから卓球部の後輩の一年生男子三人がやって来た。部活に入りたての彼らの目は、これから部活で経験することに期待を寄せるようにキラキラと輝いていた。


「あ、森山先輩、山口先輩、こんにちは」


「こんにちは」


「こんにちは」


三人のうち一人がこちらを見て挨拶すると、ほかの二人も一緒に挨拶をする。今の二年生はこんなことをしなくなった。そんな純粋な一年生に押されるように、隆人と山仁はバラバラに挨拶をした。


「お、おぅ。こんにちは」


「おー、うぃっす」


「先輩方は、部活、行かないんですか?」


いきなり鋭い質問をする後輩達。


「僕らはね、普段の授業と部活での激務で溜まった疲れを癒すためにこの図書館と言う本の森で休息をとっているのだよ」


ふざけて、まるで売れない詩人のような表現をした隆人。


(なんだよその表現)山仁は思った。


「サボりですね」


もちろんのこと、事実を言われた。すると、いきなり山仁がこういう事を言った。


「なあ、三人は、半沢サキトのことどう思う?」


少し間が空いたあと、一人が答えた。


「いいですか?ここだけの話。・・・あの人やかましいんですよね。正直」


続けて、ほかの二人も口を開いた。


「大体命令口調だし」


「すぐキレて若山先輩や中本先輩と喧嘩したり泣かせたりしますし」


「そうだよな」


隆人と山仁はうなづいた


 その後、一年生三人は部室へと向かった。


 半沢サキト。彼が副部長を務めているこの男子卓球部。あまり良い成績を収めておらず、しょっちゅう喧嘩が勃発している。


 まあ、当然の事である。


 副部長が部長を追い出して自分の都合の良いように部活を動かしているような場所なのだから。


 そのような副部長・半沢サキトは、実際のところ頭はあまり良くない。どちらかというと組織運営みたいな仕事を、「人前に出るの恥ずかしい」などと言った理由で嫌がる小心者だ。ただ、妙に場を仕切りたがるクセがあり、反対に人の意見に流されやすいので、何もかもがずれている男である。


 部長を追い出したのもスクールカースト上位の陽キャグループの圧力を利用していた。つまり、まさしく

【虎の威を借る狐】

の言葉がふさわしい人間だ。現代語でイキリ陽キャとも。


「おーい、蒼太」


「おお、どうしたサキト」


 休憩時間、サキトは部員の同級生で1番背の小さい男、内藤ナイトウソウタに話しかけた。彼は普段からおとなしいが、内面が厨二な所がある。しかし、どんな人とも話せるやつだ。人脈が広いゆえに、ソウタの本性を知った時に離れて行く友達も多い。サキトの支援者の陽キャグループには入っていない。


「ジョウヘンとチクショウとタッキューゴはどんな感じだ?」


サキトはいきなりこんな事を聞いた。蒼太は、


「いや、なんともないぞ」


と言った。


 ジョウヘン・チクショウ・タッキューゴ。これらの名称はサキトが部員のなかで、最も敵視している人物たちの蔑称だ。


 ジョウヘン・チクショウはそれぞれ3年生でサキトの同級生の、中本コウタと若山コウタロウのこと。彼らはもともと部長と仲が良く、部長を追い出したサキトの指示には従わなかったため、サキトより敵視されていたのだ。


 蔑称の由来は、コウタのジョウヘンについては、コウタ【定規】に【変】な物をカスタマイズするためという。例えば、定規同士にジョイントを付けて、組み合わせたり、定規にメモ帳を取り付けたりして、ただのプラスチックの板だった定規に、自身の唯一無二のセンスと最高の腕前を大いに活用し無限の可能性を創造し続けているのだ!。


 コウタロウのチクショウの由来は、彼自身、あんまり人の話を聞かない癖があった。そして、

「お前話聞いてんのか?」と言われた時に、

「ちくしょー!!」と、コ○メ太夫のモノマネをしだして誤魔化そうとする、正直意味不明な行動をとっているからであった。これは、コウタロウ自身、自分の情けなさに気づいているからであり、周りに対して少しでも笑って欲しいという匠の粋な計らいといえ、彼なりの優しさであるのかもしれない。


 ま、恐ろしいほど滑っているけどね。


「コウタロウってさ、恐ろしいほどのキノコ頭だよな」


「初見の人が必ず引く頭」


隆人と山仁はまだしゃべっていた。


 タッキューゴ。彼は、サキト最大の敵かもしれない。男子卓球部顧問、久後ノリヒコ。苗字をキューゴと読む。苗字と卓球と言う言葉を合成して、タッキューゴである。彼もまた、部長を追い出したサキトを危険視している訳ではないが、サキトの意見が大きくなりすぎないように、サキトの意見に反対した姿勢を取ることが多い。


 この事実だけ見るといい人物に見えるが、彼も彼である。彼は、51歳にして早くもおじいちゃんで、全く部員の名前、特に、新しく入ってきた一年生の名前を覚えていない。さらに、いっつも椅子に座って爆睡している。そのため、三年寝太郎というあだ名で呼ばれているくらいだ。そして、タイマーの音で起き、


「しっかり練習しろよー」


と、ひと言言ってまた睡眠。


 仕事してくれ。


 サキトは彼らを無視して行動を進めていく。


「ほんと、ジョウヘンとかチクショウとか、変なあだ名つけるねえ」


「そうだよな。・・・ヨシ、山仁、部室行くか」


そう言って隆人は重たい腰を上げた。


「え〜マジかよ」


「独裁者から後輩を守らなきゃならないだろ」


その後、二人は図書館を後にした。

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