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9 サキトの冒険者仲間

 異世界での再出発を控えたサキトは、前日の疲労と筋肉痛で昼まで起き上がれなかった。彼は昨日の晴れやかな気持ちさえ忘れ、ぶつぶつ文句をたれながらギルドの宿舎からホールへ向かった。


「あーあ、やっぱ異世界クソだわ」


体のダルさを世界のせいにするサキト。やり場のない気持ちだけが頭を巡る。


 ホールにて、式典などではないが、ギルドの上級職員から説明を受ける予定だ。その職員は、


「二等冒険者で副所長のドミトリーだ。よろしくな、兄弟!」


と名乗り、以下の項目とその他諸注意を説明した。


・宿舎に泊まるためには一日三つ以上の依頼をこなさなくてはならない。


・危険な依頼は仲間を募って行動することが好ましい。


・貸し出し武器は早めに返すこと。


・功績によって冒険者階級の昇進がある。


(一日三個のクエストか・・。宿舎の為だけど、ちょっとキツイかな・・・)


こなす依頼の大小は関係ないそうだが、かなり困難を極めそうである。


 サキトはその後、彼から階級章をもらった。現在のサキトの階級は一番下の『徒弟冒険者』。


「これって功績で昇進するんですね?」


「ああ、昇進すればもっと綺麗で大きな物に替えてもらえる。君も頑張り次第で『勇者』にだってなることが可能だ」


サキトは階級章をじっと見つめていた。ドミトリーは続けて、


「何かあれば私に言いなさい。訓練所の教官もやっているから、身につけたい技術があるなら訓練してやろう」


と、笑いながら言っていた。


 ユーカから貸してもらった防具一式と剣を携え、サキトはついに冒険者としての仕事を開業した。


「まずは仲間を集めないとな」


ひとまず依頼掲示板の前に来てみるも、今は昼の真っ只中。他の冒険者は全員依頼に出ている。


 すると、サキトの隣に一人の若い男がやってきた。背が高く、メガネをかけていて、服装はそこまで綺麗ではないものの、どこか貴く、上品な雰囲気を醸し出していた。これはちょうどいいと思い、サキトは勇気を振り絞って話しかけた。


「あの、僕最近冒険者始めたばかりで一人なんですけど、よかったら仲間にしてくれませんか?」


少しの沈黙が流れたあと、


「いいですよ。ちょうど仲間を探していました。お名前は?」


サキトの小さな努力は実った。


「半沢サキトです。ポジションは隠密と予備戦力。階級は徒弟冒険者です」


サキトの威勢の良い自己紹介の後、青年は口を開いた。


「私の名前はリュボムィール・ドブロホーストヴィチ・イクコウォフと言います。六等冒険者及び二等魔術師でポジションは付与術士。リュボムィールでもイクコウォフでもなんでも良いので、気軽に読んでください」


二等魔術師といういかにも異世界という単語を発した彼。


「じゃあ、どれも長い名前だから、あだ名で呼んでもいい?」


サキトはさっそく距離を詰めていった。するとイクコウォフはとても嬉しそうに


「お願いします。どんなふうに呼んでくれますか?」


と言った。


「うーん。苗字がイクコウォフだから、イクコウってのはどう?」


イクコウは笑顔で


「イクコウか・・・いいですね。サキト君、これから冒険者業、頑張っていきましょう!!」


と二人のこの先を祝福した。


「おう!!!」


サキトは元気よく言った。



「とは言ったものの、付与術士と隠密では、力がいる仕事が成り立ちませんね・・・」


「たしかに」


掲示板の前で立ち尽くす二人。


「やはり地道に小さな依頼をこなす方がいいですね」


「じゃあさ、これとかどう?」


サキトは三枚の依頼用紙を見せた。


「花の採集と農作業の手伝いと荷物運びですか。いいですね。さっそく行きましょう!」


 サキトとイクコウはギルドを飛び出し、現場へ向かって走った。・・が、すぐにばてた。二人は話し合いの結果、これから運送屋から馬を借りたあと、荷物を取りに行って採集しながら農家の元へ向かうことになった。



「イクコウはさ、なんで冒険者になろうと思ったんだ?」


荷物運びの途中、サキトはイクコウに聞いた。


「もっと社会にたいする見識を広げたいから、ですかね。でも、うちは厳しい家庭でして、父は家で本を読んでろとしか言ってくれないんですよ。実は自分が今冒険者をしてることも話せていませんし。サキト君は?」


「あ、俺は金がないからさ、とりあえず稼げる仕事が冒険者だと聞いて。・・・へぇ。マジか。お父さん厳しい人なんだ・・」


「ええ。父は国の機関で働いていて、母がいない分、私をここまで育ててくれましたが、何せ硬い人なんですよ」


(イクコウ、お母さんいないのか・・・)


父が国の機関で働いているということは、イクコウはある程度裕福な家の生まれなのかもしれない。そんなことより、イクコウは笑っていたが、サキトはまずい話をしてしまったかもしれないと思い、話を切り替えた。


「ところでさ、イクコウは今何歳?」


「今年で二十二歳です。サキト君は?」


「十五歳。・・・そういえばさ、なんか初めて会ったとき、二等魔術師?みたいなこと言ってたけどあれなんなの?」


「あれは魔術学会に所属していると与えられる階級ですね。魔法学者や一般人でも所属しているもので、そこに入れば魔術師の称号を名乗れて、情報交換もできます。ギルドのようなものではないので、月に一度会合があるくらいですね。」


「じゃあさ、その階級はどんな感じなんだ?」


「一等から六等、あと徒弟魔術師がいて、大体、一等二等が国の教育機関の高官や王室の諮問機関のメンバーで三等四等が大きな学校などの校長で、残りは冒険者になる者や先生などですね。昇進については功績、ついている役職、王立学院での合格成績によって決められていますね。私は合格成績によりこれを得ました。そして、最高位の位は『賢者』。稀にその称号を贈られる人もいますが、そういないです」


「え、イクコウって二等だから、めちゃくちゃ上の階級じゃねぇか!しかも王立学院?の成績だから・・」


「そう。だから周りがコネで名乗ってるおじさんだらけで若い人が私だけなんですよね。そしてその中で唯一の冒険者と行動を共にする冒険魔術師の職に就いている人間でもある」


イクコウは笑いながら話した。彼はかなりのエリートかも知れない。


 そして日が完全に沈むころ。


「おかえりなさい、サキトさん、イクコウォフさん!」


受付嬢は藁まみれの二人を元気よく迎えた。サキトは


「あ、あの、・・・この、三個の依頼、・・・完了しましたぁ〜」


とゼェハァ言いながら依頼主の完了サイン入りの紙を受付嬢に渡した。


「これで、今日も宿泊できますよね・・・」


「はい!確かに。お疲れ様でした!」


すると、彼女は書類をみて、


「お疲れのところ申し訳ありませんが、報酬はどちらの名義で受け取られる予定で?」


と聞いた。サキトたちは共同で依頼をこなしたが、正式にギルドに共同での活動を届け出た訳ではないので、報酬の請求権の所在が不明瞭なのだ。すると、


「報酬は全てサキト君側に払われるようにお願いできますか?」


イクコウがいきなりそう言った。


「え、いいのかよ・・・」


「大丈夫、今日のお礼ですよ。それに、金がないって言ってたではありませんか。・・・それじゃ、また明日」


イクコウは大きな贈り物をしてすぐに去っていった。


(仲間って、こんなにいい存在だったのかな)


サキトはベッドの上で前世のことを思い出しながら今日を振り返り、そのまま夜を明かした。


 この異世界がゲームなら、ドラゴン退治の方がかっこよくて難しく、今日サキトたちがやったことは見向きもされないことかも知れない。しかし、荷物運びで見た景色、農作業で藁まみれになった苦労は、ゲームなんかよりもっと素晴らしいものだった。そしてそこに、仲間がいたこと。


 次の日、起きたサキトがホールへ向かうと、


「おはよう御座います、サキト君」


イクコウは来てくれていた。


「今日はどんな依頼があるかな?」


サキトはそう言って近寄った。それから毎日、サキトはイクコウと組んで力仕事にならない依頼を解決していった。


 そして一週間が経った日。


「救貧院で人材が不足しているようです。今日一日働くだけで報酬は昨日の倍ですよ!」


「よし、じゃあ今日はそこへ行こう!!・・・・・救貧院か・・・」


救貧院と聞いてサキトはユーカのことを思い出した。その依頼用紙の文字は手書きの、綺麗でかつ芯のしっかりした字で書いてあった。

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