第一話
(工事中)
この校、再度校正し直す予定。
それは、さびしい週末の朝だった――。
ベッドから起き上がったぼくは、眠気まなこをこすりながら、けだるそうに、建てつけの悪い部屋の窓ガラスをガラガラと音を立てて開いた。
欠伸を一つ噛みつぶし、開いた窓から、ひょいと首を挙げて、しょぼい視線を天に投げる。
見ると、墨汁を流したような、ドス黒い雲が、低く、不気味に、頭上を覆っているのが目に入る。
イヤな空だなあ……。
つぶやいた瞬間、ぼくの頬を、ふわっと風が撫でていった。
チェッ、なんだよ――思わず、ぼくは舌を打つ。
湿った風。頬を撫でていったその風に、ぼくは雨の臭いを嗅いだ。
いそがしさにかまけて、愛車ルノートゥインゴの洗車を、この二ヶ月あまり、サボってしまった。
ーー週末には必ずおやり。
週のはじめに、ぼくを、もう一人のぼくがそう鼓舞していた。
けれども、よりによって、これから雨になるらしい。
天気予報士のお姉さんの嘘つき……うらめしそうに、ぼくは、ドス黒い雲をねめつける。
すると、そのとき――。
ん? な、なんだ!!
ぼくがねめつけた、ちょうど、そのあたり。そこが、急に、モゾモゾとうごめいた、ような気がした。
はは、気のせいだよねぇ……いくらなんでも、それはね、そう思いながらも、ぼくは躍起になって眠気まなこをゴシゴシとこする。
それから、改めて、恐る恐る、そこに目をやる。
う、うっそ⁈
や、やっぱり、モゾモゾとーーふいの事態に、ぼくは思わず、不安な気持ちに襲われる。
野放図な自分を棚に上げて、これみよがしに、舌を打った。その上、イヤな空だなあ、とうらめしそうにねめつけてしまった……ひょっとして、それが天の不興を買った??
い、いや、ちがう、ちがうんです。
あくまでもぼくは、天気予報士のお姉さんに対して、舌を打っただけで、て、天に対してだなんて、そ、そんなぁ、めっそうもない。
だ、だって、聞いてくださいよ。きのうの夜、ニッコリ微笑んで言ったんですよ。
「あすは、絶好のお洗濯日和になりますよ」って、天気予報士のお姉さんが……。
だ、だったら、洗車は大丈夫だろうなって、ぼくもお姉さん同様にニッコリ微笑んだんです。
そ、それなのに、それなのに今、湿った風がぼくの頬を、ふ、ふわっと……だ、だから、それはないじゃんって感じで、ぼくは、お姉さんに、し、した、したを……。
天に向かって、ぼくは懸命に弁明する。可笑しいほど、しどろもどろになりながら。
が、それにもかかわらず、そんないいわけなぞ通用せん、と言わんばかりに、事態はもっとややこしくなったのだったーー。
つづく