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4話 弱っちい女なのよ!

 私に対する皆の疑心暗鬼は相当なものだろうな。


 皆への説明は時間が掛かりそうなので、後回しにしてルビカンテに向き合う。


「あなた、腕が切り落とされたけど治せるの?」

「拾ってくっつければすぐ治るのです。拾っていいんですか? そうですか?」

「……許可するわ」


 私の返事を聞いたルビカンテはニタァと気持ち悪い笑みを浮かべて歩き出すと、ルートリアに切り落とされた右腕を見付けてサッカーボールのように蹴り上げた。

 右腕を空中で口に咥えると切断面同士を合わせる。


 すぐに指がワキワキと動いた。

 気持ち悪い~。


 プレシオに切り落とされた左腕も取りに行ってくっ付けていた。

 悪魔ってこれが普通なのかしら。


「さあ、野営しましょ。労働者の弔いやオーガの死体確認は帰ってギルドに丸投げでいいよね?」

 あれ? 皆が返事をしない。

「どうしたの? 野営に問題があるなら言ってよ?」


 私の問いを聞いた皆は、輪に加わって一緒に話を聞いているルビカンテを見た後、互いに顔を見合わせてから一斉に口を開いた。


「悪魔も一緒なのかよ!」


 声を揃えて突っ込まれてしまった。


 新しい仲間(下僕)になったルビカンテくんとも仲良くしてあげて欲しいな。





 野営は坑道の入り口に少し入った場所ですることして、皆で食事をしながらこれからの事を話した。


 『とにかく荒稼ぎ』のリーダー、デュクシが仕切ってくれている。

「じゃあ、明日は早朝から出発して急いで町へ帰る。夕方までに頑張って冒険者ギルドへ戻るぞ」


 労働者の遺体は数が多く、身元の確認や遺品の回収もあるので、私たちで埋葬せずに冒険者ギルドに相談する事にした。


 それよりも皆が気にしている事がある。

「お、おい、お前は何で俺たちを襲ってきたんだ?」


 デュクシが地べたに座って食事をしながら、恐る恐るルビカンテに話しかける。


 全員がルビカンテの事を気にしていたが、どう接していいか分からず今初めてデュクシが話しかけたのだ。


 私の横に座るルビカンテは食事をしないで遠くの方を見ていたが、デュクシに話しかけられて赤い眉を八の字にした後、顔をくしゃくしゃにした。

 話しかけられたのが嫌なようだ。


「何だてめぇえはぁ? クソ雑魚人間が俺と話そうなんて殺すかぁ? 殺すよねぇ?」


 黙っていれば顔はいいのに態度も言葉遣いも最悪だ。

 悪魔だから仕方ないのか。


「ルビカンテ、言い方ッ! 命令よ、今後人間へは友好的な態度で接しなさいね」

「で、でもさぁあご主人? 人間は滅ぼしていいよねぇ? 滅ぼすよねぇ?」


 ルビカンテの態度に驚いた皆が、ルビカンテと私から離れるように座ったまま後退りする。

「何で私からも距離を取るのよ! デュクシ! プレシオ! ルートリアも!」


「い、いやねぇ、もう少しちゃんと説明してもらわねぇとなあ、さっぱり分からねぇからよお……」

「そうだよ、俺だってさ、異界の魔槍を出して倒せない敵なんて初めてだったんだぜ?」

「ああ、我々はこれでも腕にかなり自信があったんだが、こいつを倒すに至らなかった。そんな奴を下僕にするレイナは悪魔の上位ということになる」


 あ、悪魔の上位……。


 皆から見ればそう見える訳なのね。

 少なくともルビカンテより上位であることは間違いないのよね……。




 この世界では天使も悪魔も実在する。


 転生前の世界、地球では天使も悪魔もその姿を見ることは叶わず、その存在は科学的に証明されていなかった。


 ただ、現実には触れる事の出来ないものの、人々の信心により存在するとされていた。


 だが、この世界では違う。


 天使も悪魔も、もっと言うと女神も邪神も実在するとされている。

 形ある存在として目にし、触れる事が出来るらしい。


 もちろん、何処にでもいる訳では無いので、出会う機会が無ければ目にすることも、触れる事も叶わないのだけど。


 女神は人族の守護神であり、女神の使いとして天使がいるのは日本での認識と同じですぐ理解できた。

 一方で邪神は魔族の守護神であり、邪神の使いとして悪魔がいる、という説明を仲良くなった魔族から聞いた事があるわ。


 日本ではしばしば魔王軍の配下に悪魔がいる設定でゲームやアニメが描かれる場合があったけど、この世界では違う。


 人族にとっての天使と、魔族にとっての悪魔は位置付けが同じなのだ。




 そんなこの世界でめったにお目に掛かれない悪魔がここにいて、その悪魔より私の方が上位の存在だと思われちゃ、この引かれっぷりも仕方がない話かもしれない。


 でも、いざ自分がそう扱われるとかなり悲しい。

 これは何としても普通の女性だと理解してもらわないと。

 

「わ、私はただの弱っちい女なの。お願いしたら下僕になってくれたというだけで……」

 私の言葉を聞いた『とにかく荒稼ぎ』の面々が仲間内で話を始める。


「よ、弱っちい? なんだ弱いのか」

「おい、そんな訳ないだろ。あの強さの悪魔を下僕にできるんだぞ?」

「そりゃ強大な支配力がないと下僕になんてならないだろ」

「でも、どうみてもレイナはそんな風に見えねぇぜ」

「レイナが女だからじゃねぇかな?」


 それを聞いた女性シーフの1人がルビカンテの方を向く。

「ね、ねえ、ルビカンテ。私がお願いしても下僕になってくれるの?」


 その言葉を聞いたルビカンテはこの世の者とは思えない悪相あくそうを顔に浮かべた。

「な、な、な、なる訳ねぇぇえだろがぁぁあああ!! ……です」

「ひ、ひぃいーッ」


「そ、そ、それならやっぱりレイナにはとんでもねぇ支配力があるんだ。俺には分からねぇが……」

「俺にもレイナは普通に見えんだけどよ。でも悪魔は自分より劣る者には従わなねぇっていうぜ?」

「お前、ルビカンテにレイナの支配力を聞いてみろよ」

「や、やだよ。こいつおっかねぇし」

「お、俺は……明日聞くよ」


 私の支配力の話に興味津々のプレシオが話に入ってきた。

「な、なぁ、ルビカンテ。レイナの支配力は凄いのか?」

「ああ? 邪神様もおっかねぇけどよぅ、ご主人はなぁあ、そんなもんじゃぁあねぇ! あの支配はぁあよお、ぜってぇえ無理だぁねぇえ……です」


「どういうことだ?」

「絶対に逆らえねぇえんだよぉ。邪神様どころじゃぁあねぇええ! この世界にはぁあよぅ? ご主人を超えるやつぁあ存在しねぇええ! ……です」




 ズザザザザザザ!!!!




 一瞬で皆にかなりの距離を取られた。


 ルビカンテから離れたのではない、明らかに私から皆が離れた。


 最悪だ。

 誤解を解くどころか完全に距離を置かれた。


 そりゃ悪魔に邪神よりも上だとお墨付きを貰っちゃえばねぇ。

 私が向こうに座っている側の人間なら走って逃げているわ。


「ち、違うのよ。ほ、ほら私って魔道具士だって言ったでしょ。だからちょっと凄い魔道具で奇跡を起こしただけなのよ」

「魔道具で悪魔を下僕にできるなんてさ、聞いた事ないんだけどなあ」


 こらプレシオ! 話に水を差すな!

 心底困ったように眉を下げて、助けを求めるような視線をプレシオに送ってみる。


「……い、いや、まあさ、そういう魔道具もある、かもしれないな。俺たちの武器やバッグだってさ、普通に考えたら異常かもしれないぜ。見慣れている魔道具は違和感がなくてもさ、初めて見た物に驚くのは仕方ないよな?」


 ようやく助け舟を出してくれたプレシオが、後で詳しく説明しろよと視線を送ってくる。

 小さく頷いておいた。


 プレシオの話に頷いたデュクシが『とにかく荒稼ぎ』のメンバーの方を向いた。

「そう言われると、魔道具なんて持っちゃいねぇ俺たちからすりゃあ、プレシオの使う魔槍も空間収納のバッグもかなり違和感あるよな。その延長の凄い魔道具って思えばいいっつうことか」


 さっきルビカンテを下僕にしようとした女性シーフが、何か思い当たる事があるのか私に質問してくる。

「あ、あのねレイナさん。昼間にレイナさんの役割を聞いたとき、魔力を温存してピンチで奇跡を起こすって言ってたけど、あのとき起きた虹色の光や沢山の歯車、白い光の柱が魔道具で起こした奇跡だったのよね? だからルビカンテが言う事を聞く様になったのね?」


 あれ? 私の事をさん付け呼びになった。

 この状況じゃそれくらい仕方ないか……。


「そうよ。私なんて武器はまともに使えないし、魔法も使えなくて、あなたみたいに体術もできないの。本来なら冒険者なんかとてもできない弱っちい女なのよ。でも、ピンチをチャンスに変えられる私専用の魔道具だけは使えるから魔道具士をやっているの」


 彼女の隣にいたもう一人の女性シーフも私の体を見て頷いた。

「そうね……そうよね。身のこなしも普通だし、とても何かの達人には見えないものね」


 女性シーフたちが納得したのを見て、デュクシも私のこれまでの行動を振り返る。

「この旅でもレイナさんが何かしたのって、この1回だけだよな。その1回のためだけに、全てを掛けてるって考えたらそんなに変じゃないかもな」


 デュクシまで私の事をさん付け呼びに変えた。

 ちょっと距離ができてしまったようだ。


「これを機に魔道具士は凄いって思ってもらえたら嬉しいな」

 うまく魔道具士は凄いジョブだという事で話を終わらせてしまおう。


 すると『とにかく荒稼ぎ』の男性たちがまた内輪で話し始めた。

 仲間っていいな。


「魔道具の効果っつうならそういう事も可能なのかも?」

「それにしたってちょっと凄すぎやしねぇか?」

「うーん、その辺の知識がねぇから分かんねぇや」

「俺も金をためて試しに魔道具を買ってみるか」


 完全に納得してくれたようじゃないけど、神器の事は誰彼構わず話せないので、嘘の無い範囲だとこれ以上の説明は難しいよ。


 プレシオの隣に座るルートリアは何か言いたそうにしているけど、これ以上話を引っ掻き回されたら困るわ。


 しっかり目線を合わせて見つめてから「黙ってなさい」という思いを込めてウィンクしておいた。


 彼はいつも自分がやっているような事を人にされたのは初めてのようで、急に慌てたようにドギマギしていた。


 どうだ!

 急にウインクされたらびっくりするでしょう?


 冒険者ギルドでドキドキさせられた、あのときのお返しだっ!


※誤字脱字などがありましたら、ご連絡いただけますと大変助かります。

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