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2話 倒し方がむちゃくちゃだわ

 冒険者10人全員が倒れたオーガの近くに集まる。


 デュクシが前に出ると予定通り鉱山の坑道入り口へ突入の合図をした。


 皆で揃って入り口を目指す。


 女性シーフも言っていたけど、こんな大きなオーガが本当に坑道を住み家にするのかしら。


 入り口に近づいてみると分かるけど、入り口だけ3メートルくらいの高さで、奥ほど低く高さは2メートルくらいのようね。


 どう考えてもオーガが利用するのには不便過ぎる。


「ねえデュクシ。オーガはここを守っていたわよね?」

 私は歩きながらデュクシに疑問を口にした。


「そうだな。だが、この坑道じゃオーガが住み家にするには狭すぎるだろう。となるとオーガを使役して見張りをさせる化け物が、坑道の奥にいる可能性があるってことだ」


「冒険者ギルドの依頼はどうなってたっけ?」

「依頼の達成条件は鉱山を占拠した全オーガの討伐だ」

「それって坑道の中にオーガがいないことを確認しなきゃダメなんじゃない?」

「できれば避けたいな。オーガの強さは分かったはずだ。こいつらを使役する存在ってことはそれだけでヤバイ。このまま進むのはドラゴンの巣に食われに行くようなもんだ」


 デュクシはなかなか素晴らしいリーダーのようね。


 仲間を危険な目に会わせないため、ときには依頼失敗も受け入れて撤退を判断する。

 簡単にできることじゃないわ。


 デュクシのくせにっ。


「私たちはどうする?」

 プレシオとルートリアに確認する。


「退避を前提にしてさ、探索すればいいんじゃないかな」

「そうだな。大勢で坑道の調査をするには狭すぎる。『とにかく荒稼ぎ』のメンバーには、俺たちの退路となる坑道入り口の安全を確保してもらおう」


「ねぇデュクシ。私たちが退避優先で坑道の中にオーガがいないか確認するわ。デュクシたちに坑道入り口の守りをお願いしてもいいかしら。確か坑道の外に出ているオーガがいるのよね? 私たちの退路を確保しておいて欲しいの」

「分かった。お前らがオーガに挟撃されないように坑道入り口は守る。命大事にだぞ。決して無理するなよ?」


 早速、坑道の内部へ入るため準備を整える。


 プレシオがさっきと同じよう槍尻をトンと地面に突くと5メートルを超える長さの蜻蛉切とんぼきりはいつも背負っている普通の槍に変化した。


 一体どうなっているのかしら。

 多分この形態が変化する槍も魔道具なんだと思うんだけど。


 空間収納のバッグから出したランタンに火を灯して、坑道の奥を照らしながらルートリアが先頭を歩いて内部の探索を開始する。


 プレシオもルートリアも少しワクワクしているのか、楽しそうな表情をしている。

 あれだけ退避優先でと話していたのに彼らは戦う気満々みたいね。

 

 坑道の中は狭い通路がかなり入り組んでいて、分岐が多い。 

 いろんな通路同士が分岐したり繋がったりしているので迷子になりそうだ。


 私たちは耳を澄ませ、目を凝らしてオーガが潜んでいないか確認していく。


 つい最近まで労働者が採掘や鉱石の運搬をしていたのだろう、人の足跡や台車の車輪跡が新しい。

 というかそれ以外の痕跡は見当たらない。





 とうとう最深部まで到達したが何もいなかった。


 どんな強敵がいるかとビクビクしながら進んでいたので、拍子抜けして緊張が緩んだとたんどっと疲れが出た。


「ねぇ、中にオーガがいないということは、依頼書の6匹の内、4匹はどこにいるの?」

「もしかしてさ、6匹とも初めから坑道の外に出ていたのかもしれないぞ」

「それはまずい。急いで坑道入り口で待機する彼らに知らせなければ」


 探索に1時間程掛けてしまった。

 急いで戻っても10分はかかるわ。

「無事でいてデュクシたち!」





 こういう場面での予感は的中するらしい。


 慌てて坑道入り口まで戻ると、デュクシたち男性戦士5人が入り口を守る様に複数のオーガを相手にしていた。

 オーガの数は4匹。

 かなり離れた所で女性シーフ2人がオーガ1匹を相手にしている。


 デュクシは私たちの姿を確認すると指笛を吹いて女性シーフたちに何か合図してからこちらを向いた。

「おい! 中に敵は居たか?」

「居ないわ」


 私の返事を聞くや戦士たちに合図して皆で坑道の中に退避する。

 オーガたちも追ってくるけど、すぐに坑道が狭くなっていて1匹ずつ屈みながら歩くのでスピードが遅くなった。


「彼女たちはどうするの?」

 逃げながらデュクシに聞く。

「逃げるように合図した。1匹引き付けてもらってたが、俺たちと合流するよりは遠くに逃げてもらう方が安全だ」


 ルートリアが最初の分岐の手前で振り向く。

「これ以上奥に入ると通路を裏から回り込まれて挟撃されるかもしれない。ここで迎え撃つ」


「ケガをした奴はいるか? オーガはルートリアに任せてさ、今の内にポーションで回復しておいてくれ」

 プレシオが空間収納のバッグからポーションを5本出した。


「ありがてえ」

 5人ともポーションを受け取ると腕や足に傷を負った戦士3人がポーションを一気飲みする。

 ケガをしていない2人も、プレシオに「念のため持っていてくれ」と言われて背中のバッグにしまう。


 坑道は高さ2メートル、幅が2メートルのアーチ型で荷物を持った大人がすれ違えるくらいの幅しかない。

 武器を振って戦うとなると必然的にルートリアとオーガが1対1で戦う構図となる。


「さっきレイナにプレシオの槍裁きを見てもらったから、今度は私の実力をレイナに見てもらおう」

 ショートソードを鞘から抜き放ったルートリアは私に微笑んだ。


「おい、ここは槍のあんちゃんの方がいいんじゃねぇか?」

 デュクシが心配して助言する。


 ここのようなとても狭い所では剣などの振り回す武器より、槍などの突く武器の方が使いやすいみたいね。

 

「平気平気。ルートリアにはそんな心配はいらないから」

 プレシオが笑って答えた。


「ルートリア! 頑張って!」

 私の応援にルートリアはこちらに振り向くと、軽く微笑んで左手で応えてからオーガに向かって歩いていく。

 戦いやすい様にと、明かりを持ったプレシオがルートリアの後ろからオーガを照らす。


 彼が構えたショートソードの刀身は青白かった。

「あんな色の武器見たことないわ」

 勇者のパーティメンバーは立派な武器を装備していたし、魔族の連中が好んで使う魔剣もいくらか見たけど、刀身が青白い剣は初めて見る。


「ルートリアの剣は魔力を伝導するんだ」

「もしかして宝剣とか?」

「いや、出入りの鍛冶師にミスリルとセラミックの合金で作らせたんだ。銘はない、強いて呼ぶなら魔法剣かな」


 屈みながら歩くオーガがやっとこちらまでやって来た。

 ルートリアを見ると咆哮を上げて襲い掛かってくるが、腰に下げるバスターソードを使わずに素手で殴りかかってくる。


 狭い坑道でバスターソードを使わずに最初から格闘を選択する辺り、それなりに知能は高いようね。


 何かルートリアの助けになる支援は無いか、頭を回転させるが私に魔法が使える訳でもなく妙案も思いつかない。


 互いに近接距離まで接近したところで、リーチの長いオーガが屈んだ状態で鋭い右突きを放つ。

 巨体から放たれる右ストレートのリーチは人間の倍ほどか。


 ルートリアはオーガの早く強力なストレートを左手で触りながら、横を向きつつ体を斜め後ろにスライドさせる。

 同時に彼の右手が動いて青白いショートソードが小さく上下した。


 一瞬だけ刀身が青く光ったのが見えた。


 それだけだった。


 一見して剣には力が乗っておらずスッと動いたようにしか見えなかった。


 ただそれだけで、オーガの腕が地面に切り落とされた。


「ウゴォオオオー!」


 突然の事に驚いたのかオーガが咆哮を上げて動きが止まったが、すぐに左手でフックブローを放つ。


 オーガの反撃をかいくぐり瞬時に近距離まで接近したルートリアが、さっきと同じように青白いショートソードを左から右へ小さく振った。


 次の瞬間、オーガの首は切断され右側に落ちた。

 遅れて首の無い胴体が右側へ崩れ落ちる。


 何なのよこれ!


 あの攻撃を躱す動き、反撃のときの動作の小ささ、とても戦闘とは思えない無駄のない流れるような体捌たいさばき。


 目の前の青年はまるで、長年の修行を経て到達するがごとき武術の達人のように見えた。


 後ろのオーガは前で何が起こったか分からないようで、姿を現したルートリアに臆することなく続けて襲い掛かる。

 両手には1本ずつショートソードを持っている。

 二刀流だわ。

 

 槍のように突き出された1本目の刀身をさっきと同じように横から左手で触りながら、体を斜め後ろにスライドさせる。


 下から振り上げられる2本目のショートソードへ青白い刀身を当てる。


 刀身同士が当たる瞬間にまた彼のショートソードが青く光った。


 オーガの2本目のショートソードはルートリアの胴を切り裂く軌道だったがそうはならない。

 横の壁に奴のショートソードの折れた刀身が当たって派手な音を立てた。


 刀身を折られた事に気付いたオーガが、2本目のショートソードの根本と落ちた刀身を交互に見ている。


 何が起こったか分からず混乱したのだろう。


 ほとんど衝撃らしい衝撃も無く、派手な音も無く急に刀身が折れたのだもの。


 オーガがルートリアの方へ向き直ったときに、あの青白い刀身が今度は右から左へ小さく動いた。


 さっきと逆に左側へオーガの頭部が落下した。首の無い胴体が崩れ落ちる。


「こんな身動きがろくにできない場所でルートリアに戦いを挑むなんさ、自殺しているのと変わらないよ、可哀そうに」

 プレシオが魔物であるオーガを憐れむような眼をして言った。


 それからはもう同じような事が繰り返された。


 後に続くオーガは身動きのままならない坑道でどうにか戦おうとするのだけど、どんな攻撃も躱されるか武器ごと破壊されて首が切り落とされた。


 4匹まで続けて倒したところで、前方の仲間が手も足も出ずに殺されていることに気付いたのか、最後のオーガが一目散に逃げだした。

 さっき女性シーフたちを襲っていた1匹みたいだ。


 ルートリアが走って追い掛けるので、皆で後に続く。


 走りながら倒されたオーガを見たプレシオは「あーあ」とつぶやき、デュクシたちは「マジかよ……」とか「ありえねぇ……」とつぶやいている。


 私はというと、自分の護衛をしてくれる事になったルートリアの強さに感嘆していた。


 ……あまりにもむちゃくちゃな倒し方だわ。


 プレシオに続きルートリアまでこの強さ!


 これなら勇者の使い走りなんて敵じゃないわ!

 勇者本人が乗り込んで来たらどうなるか分からないけど。


 プレシオの後に続くデュクシたち『とにかく荒稼ぎ』の男性5人の表情は悲壮だった。


 自分たちとのあまりの実力差に、衝撃を通り越して恐怖を感じているように見える。


 彼らにはルートリアがオーガ以上の化け物に見えているわね。


※誤字脱字などがありましたら、ご連絡いただけますと大変助かります。

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