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1話 なんて物を召喚したのよ!

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます。


このお話より第2章 冒険者入門編 になります。


 冒険者登録をして後悔した。


 自分のしょぼさを再認識させられたからだ。


 登録の条件は最低ランクの依頼を達成できることだそうだ。


 そのために基本能力の確認があった訳で……。

 

 体力や足腰はずっと神器を背負って生きてきたので相当自信があるわ。

 神器は何かの金属で創られているみたいで、とんでもなく重いのよ。


 でも私にはスキルが何にも無い。


 そりゃずっと神器頼みだったんだもの。

 何の技術も磨いていないわ。


 魔法も何にも使えない。

 魔力はかなりあると思うんだけど、ずっと神器に溜めているだけだから何の魔法も覚えていない。

 何の魔法も使えないから、魔力がどれだけあるのかも分からない。


 私って本当に神器が無いと何にもできないのね……。


 物頼みで生きる女。

 ちょっとは成長する努力をした方がいいかも。


 それでも最低ランクの依頼はこなせると判断されて冒険者登録はできた。


 最低ランクの依頼は常時依頼の薬草採取とか小動物の狩りとかだから、健康な体があればできる範囲ね。


「じゃあさ、早速俺たち3人のパーティ名を決めようか」

「2人のときのパーティ名は何て言うの?」

「いや今までパーティ名は無かったんだ。プレシオさんたちとか呼ばれてたな」


「プレシオにいいアイデアはある?」

「そうだな、俺たちは自由気ままに行動したいから、『フリーター』はどうだ?」


「フ、フリーター……うーん発想は悪くはないけどその言葉はちょっと……、他には無いかな」


「なら、皆に必要とされるってことで、ニーデッド、略して『ニート』は?」


 余計ひどくなった。


 せっかく浮浪者を止めてニートを卒業したのにその名前はあんまりだ。


「じゃ、じゃあ、ルートリアは?」

「国のために全てを切り裂くつるぎ、『王国の剣』とか」


 急に王国直属っぽくなったよ。


「異種族の土地に行くときもあるかもだし、他国では相手が身構えるかも」


「そう言うレイナはどうしたいんだい?」

「そうねぇ、プレシオの自由なスタイルを大切にしたい部分とルートリアの全てを切り裂くつるぎを合わせて、『自由のつるぎ』はどうかしら?」


「カッコいいねぇ、賛成だよ」

「ああ、悪くない」


 よかった。2人とも納得してくれた。


「あの、さっきの7人パーティの人たちが揃ったんで連れて来ました」

 受付嬢が男性5人女性2人の冒険者パーティを連れて来てくれた。


「あとはお互いのパーティでバランスを検討して、合同でやるかやめるかを教えてくださいね」

 そう言って受付嬢は戻って行った。


 相手パーティからさっきの体格のいい男性が前に出る。


「7人パーティの『とにかく荒稼ぎ』だ。俺はリーダーのデュクシ。パーティ構成は前衛5人、シーフ2人だ」


「デュ、デュクシ……。い、いい名前ね……」

「だろう? 聖なる攻撃っていう意味なんだ」

 デュクシは胸を張った。


 これは、名前を呼ぶたびにツボに入って笑いださないように注意が必要だわ。


 『とにかく荒稼ぎ』の男性たちは全員屈強な戦士風、女性2人は盗賊みたいに身軽な格好だ。

 なんだか全員盗賊みたいに見える。


「ほらレイナ、挨拶よろしくな」

「頼む」

「なんで私なのよ!」


「レイナがリーダーだからだよ」

「私も賛成だ」

「おかしいでしょ!」


 こいつら面倒なことをしたくないだけだな?

 相手のパーティ『とにかく荒稼ぎ』の面々が怪訝な顔をしている。


 仕方ない、異種族会議議長の経験を生かしてパーティリーダーくらい引き受けるか。

 財力も武力も無いんだ、それくらい貢献しよう。


「私たちのパーティは『自由のつるぎ』、3人よ。前衛2人、後衛1人?」

「男2人が前衛だろ? 役割も大体分かるが、お前さんはどんなタイプだ?」


 私のタイプ? 私の役割ってなんだろ。

 私の役割は……足手まとい?

 困ったな……。


「ああ、彼女の役割は魔道具士さ、なあ?」

「え? ……ええ」

 プレシオが助けてくれた。


 魔道具士か。

 まあそう言われればそうかもしれない。


「つまり魔道具で活躍するんだな? なるほどなるほど」

 デュクシがにやにやしている。

 見かけが盗賊っぽいので魔道具を狙っているように感じる。


 この人たち大丈夫かなあ。


「じゃあ出発するぞ!」

 デュクシの掛け声のもと冒険者ギルドを出発する。


 依頼受注の手続きをするとき、受付嬢にメンバーバランスを心配された。

 特に魔導士による支援魔法や回復魔法が無い点だ。


 まあ、ベテランの皆が気にしてないから平気かな……。平気よね?





 道中で1回野営をした。


 目的地までのルートは、向こうのパーティ『とにかく荒稼ぎ』のシーフの女性が受付嬢から貰った地図を見て案内してくれた。


 こういうのって全部人任せにせず自分たちでも確認すべきなのだろうけど、私たちのパーティに細かい仕事をするタイプはいない。


 何かあったときはそのときだ。


 私たちの荷物は複数回の野営を前提としていると思えない程少なくて道中で心配になったが、プレシオが背負っているバッグが空間収納になっていて大きくて重いものが驚くくらい入っていた。


 あのバッグは魔道具よね。


 空間収納の魔道具はかなり高価なはずだけど、このお金持ちたちなら持っていても驚かないわ。


 『とにかく荒稼ぎ』の面々が空間収納のバッグに凄く反応していた。

 普通に珍しいから驚いただけよね。


 見た目が盗賊っぽい人たちだから結構心配。





 翌日の午前中に無事鉱山に到着した。


 鉱山前には鉱山労働者向けの小屋があるけど前情報通り破壊されている。


 労働者の死体が山にして積み上げられていた。

 オーガたちが「入って来るな」と主張するためにやったのかもしれない。

 酷いことをするものね。


「今日中に討伐を完了させてから野営に入る。シーフの2人が鉱山入り口の偵察に出るから様子が分かるまで待機でどうだ?」

「わかったわ」

 デュクシから提案を受け入れる。


 破壊された小屋の脇の繁みで、シーフの女性2人が戻るのを待つ。

「ねぇプレシオ」

「なんだい?」

「プレシオは槍、ルートリアは剣で戦う前衛なのよね?」

「ああ、そうだよ」


「私は何をしたらいいの?」

「そうだなあ、やっぱりさ、レイナには魔道具を使って貰えれば頼りになるけど、もう使えるのか?」

「それがまだ魔力が溜まってないの。だから今は何もできないわ」

「あとどれくらいで溜まりそう?」

「頑張れば夕暮れ前には何とかかなあ」

「じゃあ、レイナは魔力を溜めていて欲しい。もしピンチになったら助けてくれよな。頼りにしてるからさ」


 やることは今までと同じか。


 全力で魔力を溜めればあと3時間くらいで神器を開放できるだろう。





 しばらくして、戻ってきたシーフの女性から状況を聞くと、オーガたちは鉱山を奪って根城にしているようで、入り口には見張りが2人いるそうだ。


 ただ、気になるのはオーガのあの巨体でどうやって坑道に入っているのか。


 出入りを見ていないので不明だそうだが、坑道は人間サイズで掘られているのでかなり窮屈なはずだそうだ。


 周囲へ探索に出ている個体もいるようで、入り口から離れた場所にかなりの足跡を見つけたそうだ。


 坑道に突入した場合、外に出ている個体に後ろから挟撃されるのを警戒する必要があるとのこと。


「今から3チームに分けて入り口の見張りを挟撃するけど、そちらは前衛が2人で平気なの?」

 女性シーフの1人がプレシオとルートリアを品定めしながら私に問いかけた。


「たぶん平気よ」


 相手を心配させないために平気と答えたが、私も彼らの実力を見ていないのだ。

 平気かどうかはこれから分かる。


「ところであなたは魔道具で何をするの?」


 魔力が溜まるまでは何にもできない。

 でも正直にそのまま言うと皆の不満を招くかな。


「限界まで魔道具に魔力を溜めて、状況が悪くなったら奇跡を起こすわ。それまでは魔力を温存させて」


 嘘は言っていない。


「へぇ、奇跡ねぇ」

 今度は私を品定めするように見ながら言った。





 合図とともに見張りへの攻撃が開始された。


 女性シーフ2人だけが正面から見張りへ近づいていく。

 オーガは人間並みに賢いので、相手が女性2人で大した驚異ではないことが分かったみたい。最初は警戒していた見張りも余裕の笑みを浮かべている。


 見張りの1匹が女性シーフたちに近づいていく。

 入り口から少し離れたところで戦闘が始まったわね。


 魔族領でもオーガは見たがやはり大きい。

 身長は3メートル近く、皮の胸当てや簡単な装備をしている。

 比較的軽装なのは強さゆえの自信と聞いたことがある。


 手にはバスターソードを持っているけど、まるでショートソードみたいに見えるわ。


 2対1の戦いだけど、彼女たちが押されて防戦一方に見える。

 これは彼女たちが怪我をしないように回避に専念しているからそう見えるのね。

 事前に聞いていなければ慌てたわ。


 オーガが片方のシーフへ攻撃したときに、もう片方のシーフがナイフを投擲とうてきする。

 オーガの頬に直撃して血しぶきが飛び散った。


「グォォオオォー!」


 顔から血を流したオーガが激高して雄たけびを上げる。


 当然この程度では倒せる訳ないのだけど、腕力で戦うタイプのオーガには彼女ら2人の戦い方が冷静さを失わせているみたいで、攻撃が余計に大振りになっている。


 当たれば驚異の攻撃だが、シーフの2人で挟んでちょっかい出しながら軽々とかわしていく。

 作戦は命大事にで、回避優先なのだからむしろ彼女らの土俵なのだろう。

 

 いくら振っても攻撃が当たらずオーガの怒りが頂点に達したのか、もう1匹の見張りの方に向いて何か大声で怒鳴っている。


 そのスキを見逃さず、もう1本投擲されたナイフが右耳を切り裂いた。

 耳が半分ほど切れて血が噴き出す。


 もう1匹のオーガがやれやれという感じで助けに動いた。

 奴がある程度、坑道の入り口から離れたところで私たち2チームが両脇から入り口に向かって走り込む。


 入り口近くまで来てから、今度は見張りのオーガ2匹へ突撃する。女性シーフの2人は急いで逃走した。


 上手くいったわ。


 見張りの2匹が坑道内へ逃げ込むのを防げた。

 坑道に逃げ込まれたら数の利を活かせないから、できる限り広いところで囲みたかったけど上手くいったわね。

 

 向こうのチームは5人、こちらは3人で1匹ずつ相手にする。


 向こうでは1匹を5人で取り囲んで5方から攻撃している。

 こうなっては脅威と言われるオーガもどうしようもないようだ。


 こちらは数の利を活かさないのか、私たちから少し離れた所にいるオーガに対してプレシオ1人が前に出る。


「だ、大丈夫なの?」

「大丈夫だ」

 プレシオを信頼しているのか、ルートリアは全く心配していないみたいだ。


 槍を手に持ったプレシオは「トン」と槍尻を小さく地面に突いた。


 急に槍が輝くと柄の部分が伸びる。


 今まで2メートルくらいだったが、倍以上の5メートルくらいになった。


 ナイフくらいだった槍先は倍くらいに大きく長くなり、中央に彫られた文字が見えた。


「あ、あれって……まさか、そんなはずは……」


 この世界にあるはずの無い物が目にうつっている。

 私の反応にルートリアが意外そうな顔をする。


「知っているのか? いや知るはずはない。この世界には存在しない変わった形の槍だ」



 知っているわ。



 というか本物を見たことがある。


 武将ブームが来たときにわざわざ公開展示を見に行ったもの。

 槍先だけの展示で柄の部分は無かったけど、吸い込まれるような美しさだった。

 

「多大な魔力を使ったウエポン召喚で異界より取り寄せた槍がプレシオの武器だ。敵将からも称賛されるほどの武勲を上げたその槍の名は『魔槍トンボキリ』」



 蜻蛉切とんぼきり

 


 幾多の戦に参戦して無傷を誇る徳川の名将、本田忠勝が使った天下三名槍……。


 一体なんて物を召喚したのよ!


 5メートルの槍は振り回すだけでも並の腕力ではかなわないはず。

 それをプレシオは軽々と振り回して構える。


 こちらに突っ込むオーガに対して、蜻蛉切が真上から一気に振り下ろされた。

 

 刃の部分がオーガの脳天に直撃したあと、遅れてブオンと凄い音がした。

 槍の刃はそのまま頭をカチ割り、胴体まで到達して止まった。


 オーガの巨体が地面に崩れ落ちる。


 信じられない。


 3メートル近いオーガをたったの一撃で倒してしまった。


「す、すごい……、凄いわ!」

「その通り! 彼は本当に凄い!」


 手を叩いてプレシオを称賛するルートリアは自分の事のように嬉しそうだ。


 体を張っておとり役をしてくれた女性シーフ2人がプレシオの一閃に驚きで固まっていた。


 どうやら私を護衛してくれるプレシオはかなりの強さのようだわ。


 ……となるとルートリアも相応に強いのかしら。


 私は自分のパーティメンバーの強さに驚きつつも、とても嬉しくなった。

 

 一方、盗賊……じゃなかった『とにかく荒稼ぎ』の戦士たちもそれなりに強くてきっちりオーガを仕留めていたが、致命傷を負わせるのに時間が掛かっていた。


 歴然とした鍛錬の違いのようなものを感じる。


 プレシオはどこでこの実力を身に付けたんだろう。


 単なるお金持ちがこんなに強いなんてあるはずがないわ。


※誤字脱字などがありましたら、ご連絡いただけますと大変助かります。

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