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5話 身バレしてもいいかな

 翌朝、私たちは冒険者ギルドに来ていた。


 昨日、実力を見せるならやはり魔物退治だろうとルートリアが言い出したのだ。


 それを聞いたプレシオも乗り気になって、それなら冒険者ギルドの依頼を受注してみようと提案したのだ。


 冒険者ギルドの依頼はそんな遊び半分でやれるものじゃないと思うのだけど。

 舐めて掛かったら命の危険があるんじゃないかしら。


 私は結構心配しているのだけど、彼らは余裕しゃくしゃくなのか気楽なものだ。


 いくつかある仕事の中から彼らが選んだのは『鉱山に住み着いたオーガの討伐』で、数は確認されているだけで6匹だそうだ。


 オーガって1匹でもかなり強いんじゃないの? 

 しかも6匹で全部とは限らないんだよね。

 もっと沢山いる可能性もあるんだよね?


 私、一緒に行くのやめようかな。


「2人で受注したいんですか!? あまりにフザケ過ぎです!」


 プレシオがオーガ討伐の依頼を受注しようして、受付嬢に指摘されている。


 受付嬢さん、もっと言ってお願い!


 このままじゃ、お金持ちの無謀に巻き込まれて死んじゃうわ。


 本当は逃げ出したいくらいだけど、それが難しい状況になっている。


 あんな高い服や貴金属まで買って貰って「やっぱり契約しません。さようなら」なんて言い出しにくいよ。


 そうだ! 実力を見なくてもいいって私が言えばいいのか。


「あの、ルートリア?」

「なんだ?」

「私ね、実力を見なくても2人は強いと思うの。だから、魔物退治なんてしなくていいんじゃないかな……」


「どうしたんだ急に?」

「いや、私、魔物と戦ったことが無くて何かあったらと思うと……」


 昔は、交渉のために魔族とよく会ったが、魔族は人族と同じ人型タイプで、魔物や魔獣とは全然違う。


 私が魔物を怖がっているのが上手く伝わったのか、ルートリアの表情が優しくなった。


 彼は私に正面から向き合うと真っすぐに私の目を見つめた。


 え、どうして正面から見つめるの?

 凄い緊張するんだけど。


 さらに彼は私の両肩に優しく手を掛ける。


 か、顔が近い……。


「心配するなレイナ。私が守る」


 金髪碧眼のイケメンはそう言って軽く微笑んだ。

 整った顔立ちで微笑む姿が眩しく見える。


 彼に見つめられて自分の顔が一瞬で紅潮するのが分かった。


 え、あ、ちょっと……、わ、私に言ってるんだよね!?


 2回の人生を合わせてもそんな事を言われたのが初めてで、もうどう反応していいか分からなくなった。


 あ、あの、何で急にそんな攻撃してくるの?

 破壊力が強すぎて気を失いそうだ。


 赤くなった顔を必死に両手で隠して下を向いた。

 く~、慣れていないのよ、こういうの。

 って言うか慣れている人なんているの?


 何でルートリアはさらっとこんな事を言えるの?

 彼にとってこの程度は当たり前なの?

 それとも私をからかっているの?

 バカなの?


 いや、凄く嬉しい一言だけど、かなり胸キュンだけど……、でも強さを見せなくてもいいって言っているのに趣旨が変わってない?


 何で?

 どうして魔物を退治しようとするの?


 ルートリアのせいで頭の中がごちゃごちゃになり、ふらふらと談笑用の椅子に移動するとルートリアから顔を逸らして座った。


 落ち着くまで彼の顔は見ないようにしよう。


 私が気持ちを整理している間、受付ではプレシオがオーガ退治の依頼について説明を受けている。


「あなた方の実力は知っていますが、最低でも10人で受注するように依頼書にも書いてあるでしょう? 人数が足らない場合は、他のパーティと合同でも構わないんですよ?」

「合同前提でさ、先に受注申請しているパーティっているのか?」

「いえ、今のところはまだですね」


 話しているプレシオと受付嬢の横に男性が割り込んできた。

 体格はなかなかよく年齢は30歳ぐらいか、荒々しい感じの戦士の風貌だ。


「俺たちもその依頼には興味があってよ。あんたはそこの2人との3人パーティだろ?」

「ああ、そうだな」

「ちょうどいいじゃねぇか。俺たちは7人なんだ。これで受注できるぜ」


 プレシオと戦士の男性が受付嬢の顔を見る。


「それならちょうど10人になりますね。でも一緒にいる彼女は冒険者登録していないでしょ?」


 受付嬢は私の事を昨日来た浮浪者の女だと気付いているようだ。

 ギルドを利用する冒険者の顔をだいたい覚えているのだろう。


 プレシオが椅子に座る私の前までやって来た。

「と言う訳なんだ。レイナもさ、冒険者登録をしようか」

「何がと言う訳なの? 登録って虚偽を見破る魔道具を使って本名でするんでしょ? 昨日私の事情を話したじゃない!」

「そこはさ、ちゃんと俺たちが守るから。話に聞いたオーガ討伐をやってみたいんだよ」


 まるで子供みたいな理由を言うプレシオにルートリアが割って入る。


「はっきり言うと異種族闘争が間近に迫っている。対人訓練ばかりでは本番で困るんだ」


 それが魔物退治をしたい理由なのね。




 異種族闘争。




 この事態にならないように、2年前までは平和を目指して必死に頑張っていたのだ。


 それなのに勇者が魔族の外交長官を殺してしまい、人族と魔族は再び対立する事になってしまった。


 身勝手な勇者は自分が魔族と戦えればよくて、他の獣人族や妖精族とは仲良くやりたいと思っていたようだけど、もちろん勇者の力では魔族以外の異種族との関係を維持する事はできなかった。


 そりゃそうよね。


 言葉や考え方が根本から違う異種族と友好を実現出来たのは、神様さえ従わせる事が出来る神器『尾根ギア』を使ったからだもの。


 魔族以外の異種族との交渉で困った勇者は、私の事を追放しておきながら今度は私を交渉に利用しようとして、きな臭い連中を使って何回か拉致しようとしたわ。


 今までは奴らに利用されるのが嫌で、逃げるために我慢して浮浪者をやっていたけどそれも終わり。

 だって、護衛になってくれる人を見つけたから。


 しかも奇跡のイケメン!


 もう、私は私で楽しくやることに決めたわ。


 2年もの間、人を信じることができずに浮浪者になって勇者を避けていたけど、今は契約で私の事を守ってくれる人がいる。


 もし私の前に勇者が現れたら絶対言ってやりたい事があるわ。


「全ての異種族と関係が悪化したからって頼って来ても、もう知らん!」と。

 頼るなら魔族の外交長官を殺す前だったわね。





 私はゆっくりと談笑用の椅子から立ち上がると、目の前にいるプレシオとルートリアに向き合って今度は私の方から微笑んだ。


「ちゃんと守ってくれるなら、冒険者登録して身バレしてもいいかな」


 相手は勇者よ。

 2人とも、ちゃんと責任とって守ってね!


※誤字脱字などがありましたら、ご連絡いただけますと大変助かります。

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