6話 もう知らないっ!!
もごもごと口ごもる勇者デグラスに対して、ルートリアが一歩前に歩み出る。
「勇者殿、私は第三王子のアルトランだ。今日より異種族外交は父上から私の責務となった。今まで勇者殿が務めた異種族外交で、魔族、獣人族、妖精族、昆虫人族、魚人族の主要異種族との関係がどうなったか現在の状況を報告して欲しい」
「な、なんだ? 第三王子? 初めまして、だよな?」
「よろしく頼む。で、これまでの勇者殿の務めで現在の状況はどうなっている?」
王様と第三王子の度重なる追求で困り切った勇者がすがる様に王太子を見るが……、勇者が異種族外交をことごとく失敗して、責任追及を免れない事は当然カストラルも分かっている。
「これまでの異種族外交は全て父上の管轄だが、王太子として結果は気になる。勇者デグラスよ、2年間務めた結果を報告せよ」
どうやら国軍に関わる事柄は、カストラルの責任で勇者を面倒みる気があるようだけど、それ以外の失態で尻拭いをするつもりはないらしい。
そりゃそうよね。
さっき、王様と王太子の間で本件が責任問題である事を確認したんだから。
如何に体育会系で脳筋のカストラルでも王族として育っている。
予め本件が責任問題だと前振りされれば、流石に危機回避能力が機能して立ち位置をずらすくらいはするわね。
「ま、魔族に関しちゃ、あいつらが先に裏切ったんだから当然うまくいく訳ないぜ? ありゃ俺の責任じゃねぇ」
嘘つけ!
お前と戦士が一緒になって、魔族の外交長官ヴィラハリアーを滅多打ちにしたんじゃないのよ!
「……うむ。で、他の種族はどうか?」
そこら辺の経緯はルートリアにも説明してあるので、奴が嘘を吐いているのは分かっているハズだけど、淡々と先を報告するように促す。
「ほ、他の種族は上手くいかなかった……」
「つまり他の種族と我々の関係はどういう状況だ?」
「しょ、しょうがねえだろ! 虫人間とか魚人間だぜ? あんなの会話になる訳ね―じゃねぇか!」
「で、我々との関係はどうなったのか?」
「だからぁ、奴らとは会話が成立しないの! 昆虫語だぞ!? あんな虫と会話するなんて無理だって分かんだろ、おい!」
「経緯は後で良い。関係がどうなったか聞いている」
「ちっ、めんどくせえなあ、もうっ! どの種族とも関係は全滅だよ。ぜ・ん・め・つ! くっそう、これも全て雲隠れしやがったレイナ! てめえの所為だぞ!」
「なんで私の所為なのよ!」
「てめえが大人しく俺様の手紙で行動すりゃ、そっこー解決してんだよ! その後も逃げまくりやがって! 王様! この不始末はレイナが自分の責任を果たさず、この国がどうなってもいいという愚かな考えが招いた結果だ。レイナを罰してくれ」
「何言ってのよ! あんたが先に、私の事を不要だって追放したんじゃない! しかも魔族2人を殺した後、魔族領に私を置き去りにして転移で逃げるし」
私の反論直後に間髪入れず王様が棒読みの大根演技で反応した。
「なんと! レイナよ、それはまことか!?」
「はい、真実です」
「て、てめえ~、余計なこと言ってんじゃねぇっ!」
「そもそも勇者デグラスよ、なぜレイナが無事だと早々に判明したのに儂に報告しなかった?」
勇者の手紙の話に対して、王様がすかさず勇者の報告漏れを指摘した。
するとルートリアがヘラルド王の指摘に上乗せして追求する。
「ま、まさか、勇者殿はレイナを口封じしてからでないと魔族領での出来事をバラされると考えたのか!?」
王様もルートリアも親子揃って大根役者だなあ……。
「う、うぐぐぐぐ……」
勇者が顔を真っ赤にして震えている。
「勇者デグラスよ。儂はそなたが魔族の反抗にいち早く気付いて、国家の危機を伝えるべく命がけで魔族領から生還したとして褒美に宝剣を与えた。しかも魔族との戦争でそなたの先導がスムーズに進むよう、準男爵の爵位まで与えようとして準備しておったが、それは間違いであったようじゃの」
「父上、それどころか我が国はもともと多数の異種族と友好関係を築けていたのです。その我が国の外交財産を勇者殿は無に帰しました。これは国家予算規模の損失と言えます」
「ふむ。では勇者には国家予算規模の負債を負わせるか?」
「な、な、な、なんだってぇぇぇぇ!?」
とうとう勇者の声が明後日の方向へ裏返った。
「あーはっはっはっげほげほっ、わ、笑い過ぎて、く、苦しい! は、腹がよじれる。俺を笑い死にさせる気かっ」
王太子のカストラルが遠慮なく笑い転げている。
後ろではファルとベクタードレインが必死の形相で笑いを堪えている。
左右に並ぶ王国騎士団の面々も鉄仮面で顔は見えないけど、小刻みに震えているので笑いを堪えているのが丸わかりだわ。
「た、頼む王様! 国家予算規模の借金は勘弁してくれ!」
「ならば、異種族との外交を元通りにする他あるまい」
「いや、だから言っただろ! 会話が成立しないんだから無理なんだって!」
勇者も少々切れ気味だ。
その様子を見たルートリアがニヤリと笑った。
「勇者殿、異種族外交の担当が貴殿に代わる前までは、友好が実現できていたのだ。手段はあるのではないか?」
そう言って私の方を見てきたんだけど……。
「い、今更、レイナに頼れって言うのか? でもこいつは俺の手紙を突き返してきやがったんだぜ?」
「そのとき手紙には異種族外交で手助けをして欲しいと書いたのか?」
「い、いや、そもそもあの手紙はパシリに書かせたんで内容はよく覚えてないんだよ。確か、また俺の仲間になれって書かせたような……」
「という事は、ちゃんと異種族外交を助けて欲しいと伝えていないのだな?」
「そ、そうか! そういえばちゃんと言ってなかったな? おいレイナ! 俺様のために異種族外交を手伝え!」
「貴殿もつくづく礼儀がなっていないな。見てみるがいい、彼女の冷たい眼を!」
ルートリアに思いっきり振られた……。
うん、ちゃんと冷たい眼で勇者を見てあげようね。
「ぐ、ぐぎぎ……。この俺様が、こんな雑魚に頭を下げるなんて……」
混乱と屈辱でどうにかなりそうな顔をしている。
もはや冷静に考える事も出来なくなったようで、目は血走り私の事を睨んだまま固まってしまっている。
少しの沈黙の後、とうとう諦めたのか勇者はゆっくりと口を開いた。
「な、なあ、頼むわ。おめえが俺の代わりに働けば俺の借金が無くなるんだよ」
この残念勇者が人に頼み事をする姿なんて初めて見るかしら。
でも高すぎるプライドが邪魔して、頑張ってもこの程度の頼み方が限界みたい。
「そんなんじゃ、どんなタフな交渉も必ず成功させる、プロの交渉人にはなれないわよ?」
「お、俺は勇者だ! 誰がちんけな交渉人になんてなるかよ」
この期に及んで人の役割をちんけ呼ばわりとは……。
「あなたはそのちんけな人に自分が出来ない事を頼んでいるのよね?」
「ぐっ、うぐぅ……」
「ねえ、私が断ったらどうなるか分かってるの?」
「断れやしねえだろ? こりゃ国の問題でもあるんだ。ここには王族もいるしよ」
そう言うと王様たちをちらりと見た。
やっぱり勇者の頼みは引き受けざるを得ないのかしら。
正直こいつを助けるのは嫌なので、困ってルートリアの事を見ると彼がウインクした。
「これはあくまで、勇者デグラスの頼みだ」
それって王家からの要請ではないという事だわね。
横で黙って様子を見ていたプレシオが私に声を掛けた。
「レイナの気持ちに正直にさ、答えていいんだよ」
なるほど。
念のため王様を見ると少し笑いながら頷いている。
「どうもあなたの頼みを断っても平気みたいよ? つまり、私の気持ち次第な訳ね」
胸を張って少し顔を上げてから、見下ろすように目線を下げて奴の事を眺めた。
私の方が背は低いけどね。
「何だよてめえ! ちゃんと頼んだだろ!」
「ちゃんと? あなただって人から頼み事をされた経験はあるでしょ? 頼み事をする人たちにどんな態度をとらせてるの?」
「そりゃあ、ちょっと頭を下げられたくらいじゃ、頼みなんて聞いてやる気になれねぇ。何度も頭を下げさせて誠意が伝わってからじゃねぇとな」
「奇遇ね。私も全くの同意見だわ」
珍しく意見に同意した私の顔を不思議そうに眺めた勇者は、ようやく自分に何を要求されているのか気付いたようだ。
彼は歯ぐきを剥き出しにしてギリギリと歯ぎしりしながらも、申し訳程度に私に向かって頭を下げた。
「お願いしますよ、レイナさん。どうか俺を助けてくださいよ?」
精一杯頑張ってこのチンピラみたいな喋り方な訳ね……。
「……」
何も返事をせずに黙って奴を眺めてやった。
私が冷ややかに対応した事でついに勇者も観念したのか、今度はしっかり頭を下げてから顔を引きつらせながら愛想笑いをした。
「異種族外交が上手くいかずに困っています。どうかレイナさん、俺を助けてください」
へー、この人もここまで追い込まれれば、少しはまともにしゃべることができるのね。
まあ、意思に反して口調を変えているせいか抑揚はかなり変だけど。
それにしても困ったわ。
こんな奴にこんな態度をとられても、私の気持ちはこれっぽっちも変わらないんだけど。
私が眉を寄せて困り顔でもう一度王族たちを見ると、脳筋のカストラルが含み笑いをしながら早く引導を渡せと顎を2、3回しゃくって催促してきた。
わかったわ。
もうはっきり言ってあげる事にするね。
私は覚悟を決め、勇者デグラスの正面に向き直ると口を開く。
ゆっくりと、だけど少し大きい声で伝える。
「異種族外交から私を追放し! その場で魔族の重鎮を殺して友好関係を破壊した上! 私を魔族領に置き去りにして転移で逃げておいて!」
そこで一旦区切り、大きく息を吸い込んでから声を張って言ってやった。
「全ての異種族との関係が悪化してから今更頼って来たって……、もう知らないっ!!」
「な、な、な、なんだってぇぇぇぇ!?」
「頼るなら魔族の外交長官を殺す前だったわね!!」
てっきり私に助けて貰えると思っていたのか、混乱を超えて錯乱状態に陥ったようで、勇者の唇は紫色になり身体はプルプルと震えていた。
レイナはようやく勇者デグラスに「もう知らないっ!!」できました。
一応の一区切りです。
でもこれからが大変なのです。(書くのも)
今回の勇者との対決は口喧嘩でしたが、次はこんなもんじゃ済まなくなります。
そして、合間には告白とかいろいろな事が急ピッチで押し寄せます。
サラミの婚約破棄の事も!!
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