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3話 だって気になるんだもん

 もういろんな人の本当の立場が次々と明らかになり過ぎた。

 皆、既に食事が終わっていたものの席に座ったままで、告白内容を確認しているようだった。


 ファルだけが告白内容への興味を隠そうともせず、身を乗り出してガッツリ聞き入っている。

 悪魔なんて人族の家柄など興味ないだろうに、一体どこらへんに興味が湧いたのだろうか。


「ごめんなさいスモーク。わたくし、プレシオ様のお役に立ちたくて、つい婚約破棄の事まで言ってしまいました……」


 申し訳なさそうにしたサラミが、スモークに対してまで丁寧な口調で謝った。


「まあ……、いいんじゃないでしょうか。ずっと気にしてた事をご自分から話せたんですし、多少は気にしないですむようになった、という事ですよ」


 スモークまで丁寧な口調に変化している。

 淡々と答えてはいるけど、何処か優しさを感じた。


「あ、ファル様! 俺はお嬢様の実家でお世話になっている執事の次男なんですよ。いろいろあってお嬢様のサポートをしてるだけなんです。別に恋人って訳じゃないですよ」

「聞いてないわよ、そんな事。それより、あなたはもう私の信徒なんだから私だけ見なさいよ! これでもあなたを特別扱いしてるんだからねっ」


「と、特別扱い! ファ、ファル様っ!!」

 ファルにぶっきらぼうな言い方をされたのに、スモークが顔を赤らめて震えている。


 もう今のスモークならファルのどんな命令にも盲目的に従いそうだ。

 まさに悪魔教の狂信者が誕生する瞬間を見てしまった。




 そんなスモークとファルのやり取りを笑って見ていたプレシオは、サラミの近くまで移動すると軽く頭を下げた。


「それじゃ第四王子婚約パーティで計画が上手くいくようにさ、俺と一緒に出席を頼むよ。よろしくねサラミ嬢……、いやサラミって愛称だよね?」

「は、はい! よろしくお願いしますわ! わたくしはサラーメ・ディ・ファブリアーノと申します」


 急いで席から立ち上がったサラミは、両手でスカートの裾を軽く持ち上げて淑女の礼をとった。


「そうか、ファブリアーノ男爵のご令嬢だったんだね。俺はプレシオス・ド・エンツォだ。俺、社交界はあまり得意じゃなくてさ、分からなくてごめんな、サラーメ嬢」

「わ、わたくしも13歳で婚約を破棄されてすぐに家を出ましたので、あまり社交が出来ておらずプレシオス様を公爵家の方と認識できずにすみません」


 最初にサラミと会ったときは、少し苦労してそうな雰囲気があったけど、13歳で婚約破棄されて自ら家を出ているなんて、貴族のご令嬢としてはかなり大変な人生よね……。


「ま、そうは言ってもさ、俺の事は今まで通りプレシオでいいからね、様付けもいらないよ。皆もね!」

「は、はい。わたくしも、どうぞいつも通りのサラミとお呼びいただければ」


 顔を赤らめたサラミは、今まで一緒に過ごした中で一番幸せそうな顔をしていた。




 うーん。


 サラミって女性にしては言葉遣いが乱暴な印象だったんだけど……。

 それもこれも婚約破棄で受けた不名誉で男爵家を汚す事が無いよう、貴族令嬢という出自しゅつじを隠すための偽りだったのか……。


 いくら実家の男爵家を守るためとはいえ、言葉遣いまで変えて自分を偽るなんて、彼女もずいぶんと大変な思いをして生きてきたのね。


 それがプレシオという心惹かれる男性が現れた事で、自分を蔑ろにする生き方を変える決意をしたんだわ。


 私は16歳で勇者に裏切られて人間不信になり、18歳までの2年間を浮浪者として暮らした。

 プレシオとルートリアに会って生き方を変える決意をしたので、サラミに強い親近感を覚えた。


 でも、急にお嬢様言葉を使われると違和感が凄いよ。


 それと彼女には悪いけど婚約破棄には凄く興味が湧くわ。




 だって、貴族令嬢の婚約破棄(・・・・・・・・・)なのよ! 




 何がどうなったら貴族同士の婚約が破棄される事態になるのかしら……。


 こんなに気になる理由は、サラミって少し強めの目鼻立ちでよく目立つロングの赤い髪、自己主張もしっかりするタイプだという事。

 つまり、どちらかといえば清楚系お嬢様ではなく悪役令嬢風なのよね。


 とすると、やっぱり断罪イベントとかあったのかしら……。


 う~ん……。




「何を唸っている?」

「!!!!」




 またもやルートリアに顔を覗き込まれてしまった。

 今のは驚いた! 心臓に悪いからやめて欲しい。




 食事の後に皆でお茶をしてから今日はお開きになった。


 外はもうすっかり暗くなっている。


 プレシオは自分の屋敷へ帰ってしまったけど、サラミがドレスを取りに屋敷へ戻るのは明日の午前にするそうだ。


 明日は私のドレス直しを午前中にして、午後は全員でヘラルド王に謁見する事になっている。

 いろいろと忙しくなるので、今日は早々に各自の部屋に戻り就寝する事した。







「予想外の展開だったわ!」


 ファルと2人で就寝用の部屋に戻ると、彼女が興奮した様子で話しかけてきた。


「ええ、ルートリアがまさか第三王子だなんてね。プレシオも公爵家の三男よ。知らなかったとはいえ偉い人に随分な言葉遣いをしてたわ……」

「それは本人たちも気にしてないからいいんじゃない? むしろ今まで通りの口調をやめて敬語に変えたら嫌がるわよ」


「大丈夫かなぁ。2人ともとんでもなく偉い身分なのよ? 今まで通りじゃ失礼になるんじゃないかなぁ……。私もサラミみたいな口調で話した方がいいのかしら……」

「今まで通りで平気だって! あの2人はレイナにかなり親し気でしょ?」


「それはちょっと感じているわ。出会ってから日が浅いのに何でかしら?」

「きっとあの2人が昔からレイナを知ってるからじゃない? これまで見てた感じだとそう思うのよねぇ」


 ええっ! そうなの!?

 本当に!?


 でもそれってマズくない!?


 私は昔に彼らと会った覚えなんてないんだけど……。

 彼らが覚えていて私が忘れているんじゃ、それって凄く失礼だわ。

 

 私が困った顔をしているとファルが笑った。


「罪な女ねぇ」


 勘弁してよ、ファル。

 相手は王家と公爵家なのよ。

 城に出入りしていたときも、貴族には相当気を使っていたんだから……。


 ヘラルド王は「子供なのに凄い」ってかなり気に入ってくれたから、結構ざっくばらんに接していたんだけど、それを妬む貴族が多くて苦労したのよ。


 まったく、相手は平民の子供なのに多くの貴族がなりふり構わず私に嫌がらせしてきて、本当に大変だったんだから……。


 心配になる私の気持ちなんてまるで無視のファルが、ベッドの上に仰向けでダイブした。


「それよりもサラミでしょっ!!」


 ファルが、起き上がると興奮しながらベッドでぴょんぴょん跳ねた。


「そうね! 確かにあれはヤバイわよね!!」


 私も隣のベッドに腰かけるとちょっと食い気味で反応してしまった。


 だって気になるんだもん。


 悪役令嬢サラーメに発生した断罪イベント!

 かぁらのぉ……婚約破棄!!


 ……ごめんねサラミ。

 あなたは悪役令嬢じゃないと思うけど、そういう設定の空想で盛り上がるのを許してね。


「あの婚約破棄の話! あれは私が思うに……」


 ファルが妄想大爆発で嬉しそうに語り始めた。







 慣れない王城での滞在にも関わらず夜中まで女子トークをしてしまい、翌朝は少し寝不足になってしまった。


 朝食は昨日夕食を食べた部屋に、プレシオとルートリアを除いたメンバーで集まって食べる。




「それでは皆様、わたくしは屋敷にドレスを取りに戻りますので失礼しますわ」


 もうサラミは地を出してお嬢様言葉で話すらしい。

 お嬢様が地で喋ると粗野ってパターンはありそうだけど、乱暴な口調の人が地で話すとお嬢様言葉って事もあるのね……。


「俺もサラミお嬢様をお屋敷まで送りますんで。ついでに実家にも寄ろうかな」

 スモークもサラミに付いて行くらしい。

 今までずっと一緒に行動してきたんだろうし、帰省も兼ねて戻るらしい。


 私が育った孤児院は取り潰されて今はない。

 帰省ができるって羨ましいな……。




 それにしても、彼女のお嬢様言葉を聞くと婚約破棄の事が頭をよぎる。

 いつかどこかのタイミングで、その話を聞けるチャンスがないかしら。


 例えば、皆でいるときにバッタリとサラミに婚約破棄した男と出くわすとか……。


 まあ、流石にそんな機会なんてある訳無いわよねぇ……。


※誤字脱字などがありましたら、ご連絡いただけますと大変助かります。

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