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3話 あなたたちの強さを見せて!

「着いたぞ。ここで部屋を借りて話そう」

 プレシオが建物の扉を開けた。


 ここって冒険者ギルドだわ。


 私はさっきとは別の理由で下を向く。


 ルートリアと1階のフロアで待っていると、プレシオが部屋を借りてきたようで奥の会議室に連れていかれた。


「ごめんねレイナ。君の意見を聞かないで冒険者ギルドの会議室を選んじゃったよ。他に話ができるような適当な場所が思いつかなくてさ」

 ここに連れてきた理由をプレシオが説明してくれた。


 急に彼らの宿に連れていかれても部屋に入るのはためらうし、道端で話せるような内容じゃないのは彼らも分かってるようで、私が気にせず話せる場所を選んでくれたようだ。


「ありがとう。ここで大丈夫だわ」


 でも、本当にこの人たちに話してもいいんだろうか。

 この人たちに裏切られたりしないだろうか。


 神器【尾根ギア】の力を使えば絶対に裏切られなくなると分かっている。

 悲しい思いをしたくなければ人を信じるのは止めて神器を使えばいいんだ。


 でも、さっきの神器開放で魔力を全て使ってしまった。

 また数日の間は魔力を溜めないと<起動>できない。


「話せない事は無理しなくていい」

 私が話を切り出せずうつむいていると、ルートリアが気遣ってくれた。


「あのさ、さっきの不思議な現象はレイナの持っている魔道具の効果か?」

 今度は私が話しやすい様にプレシオが軽い感じで質問した。


「ええ。さっきのは私にしか使えない魔道具なの。効果は……ごめんなさい、まだ言えない」

 さすがに神様からの借り物だとは言えず、私専用の魔道具だという事だけ話した。


「見たところレイナは浮浪者のフリをしている。何か訳があるのか?」

 ルートリアが違う質問をしてくれた。


「浮浪者のフリだと思うの?」

「さっき君の手を引いて隣を歩いたから清潔にしているのが分かった。髪もきれいだ」


 いや、マジで毎日体を拭いていてよかった。

 こんな金髪碧眼のイケメンに「見た目通り臭い」と言われたら自殺していたと思う。


「私ね、一生懸命やってたんだけど人に裏切られちゃって……。追われてるから身元がばれると困るの」


 裏切られた話をする私を見てプレシオが頷いてくれる。

「そうかあ、それで浮浪者の恰好をしているんだね」

「宿に泊まると居場所を突き止められるかもしれないし、私って凄く弱いから森で1人で生きていく事もできなくて、それで路地裏で目立たないようにしてたわ」


 今までの行動を聞いて本当に心配しているのか、ルートリアが少し前のめりになった。

「誰か、よその土地に頼れる人はいなかったのか?」

「異国にも知り合いはいるから、この国から逃げようかとも考えたんだけど、もう頑張るのが嫌になっちゃって。それで毎日毎日あの路地裏でじっとしてた」

 思い出したら涙が出てきた。


「あ、ルートリア泣かしたな」

「すまない。嫌な気持ちにさせてしまった」

「ううん、大丈夫だから」


 私が落ち着くのを待ってから、プレシオが真剣な表情で私を見つめた。


「なあ、レイナ。さっき俺たちを助けてくれた、あの不思議な力はさ、まだ使えたりするのか?」

「? ええ、数日経てばまた使えるわ」


 その答えを聞いたプレシオはルートリアの表情を確認してからまた私の事を見た。


「実は俺たちもさ、以前いろいろあって裏切られたんだ。ただ失ったものは絶対に取り返したいと考えている。レイナの力を借りられたら助かるんだけどな」

「レイナが簡単に人を信じられないのは分かる。でも信じて仲間になってくれないか?」




 人を信じる……。




 誰かに私の話を聞いて欲しくてさっきは彼らを呼び止めたけど、やっぱりまだ人を信じるのは嫌だ。


 どうせいい様に利用されて終わる。


「レイナの事は我々が守る。そのかわり、プレシオと私の事を裏切った奴らを排除するときに、レイナのあの不思議な力を貸してくれないか」

「俺とルートリアはこう見えて結構強い方だよ。だからさ、もう追手におびえてそんな恰好しなくて大丈夫になる。どうかな?」


 正直、もう裏切られて悲しい気持ちになるくらいならずっと1人でいいと思っている。

 でも、この人たちの話が本当なら同じ裏切られ仲間な訳で、境遇が同じだけでも少し共感が持てる。


 仲間になると裏切られたときに悲しくて嫌だけど、契約ならビジネスだから何かあっても割り切れるかな。




「契約なら……いいよ」

「契約?」




 ルートリアに聞き返されたけど、なぜ契約なのか説明せずに黙り込んでいるとプレシオが笑顔を向けてくれた。


「レイナの魔道具の不思議な力は見せてもらったけどさ、まだ俺たちの実力は見せてないんだよな。それじゃレイナを守れるか不安になるか?」

「そんな、べ、別に強さを疑ってる訳じゃ……」

「どうする? 魔物でも倒して見せるか?」


 ルートリアが魔物退治を提案するとプレシオも乗り気になった。

「それがいいかもな! 少しだけ付き合ってくれればさ、実力を見せられるんだけど付いて来てもらえないか?」


 ちょっと彼らに興味が湧いてきた。


 強い冒険者なら転生してからいくらでも見ている。

 それこそあの勇者なんかは強さだけならピカ一だった、人間としてはクズだったけど。


 彼らの強さに興味が湧いたんじゃない。


 興味が湧いたのは、人のよさそうな彼らが私と同じように裏切られたと言うのを知ったから。


 でも彼らと私が決定的に違うのは、彼らが諦めていないという事。

 裏切った奴らから失ったものを取り戻そうとしている。


 もし、彼らに協力して失ったものを取り戻したとき、私も何か変われるかもしれない、何かを取り戻せるかもしれない、そんな風に思える。


「何処に行くのか知らないけど一緒に行くわ。私にあなたたちの強さを見せて!」


「じゃあ決まりだね!」

「ああ、行こう」


 私は2人の後に続き会議室を出た。


 閉塞した今までの私から変化できるかもしれないという希望を持って……。


※誤字脱字などがありましたら、ご連絡いただけますと大変助かります。

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[一言] 尾根ギアで絶対に裏切らないでって頼めば?
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