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2話 本当の仲間に憧れているかも

「おい! そこで何してるんだ?」

「……彼女を放すんだ」


 白馬の王子様が2人も現る! って昔の私なら思ったんだろうな。

 結構イケメンで長身の男性2人組が助けに入ってくれた。

 最初に話した男性は濃紺色の髪に濃紺の眼で槍を背負っている、2人目の男性は金髪碧眼で剣士ね。


「プ、プレシオとルートリア……」

「ま、まだ何もしてねぇよ」

「テメェらには関係ねぇだろ」

「向こう行けよ!」


 へぇ、面白い事になったわ。

 こいつら4人もいるのに、あの2人に敵わないみたいね。

 おびえてビクビクしている。


「相手がどんな格好でも、ひどい事をしていい理由にはならねぇよ」

 たぶんプレシオって方が、ビシって音がするくらいの勢いで右手の人差し指を奴らに向けた。

 でも、その腰に当てている左手はやりすぎね。


「彼女は俺の知り合いなんだ。それでも絡むなら俺が話を聞くぞ?」

 うん、プレシオが私を知り合いという事にして助けてくれるのね。


「ちっ、それなら仕方がねぇ、行くぞ」

「お、おい、そんな訳ねぇだろ」

「いいから黙っておけ。もめても得にならねぇ」

「そうだな。こんな気味悪い女くれてやらぁ」


 態度の悪い冒険者4人組がやっとどっかに行ってくれた。

 で、今度の相手はこのイケメン2人になったのか。


「お嬢さん、ここにいると奴らがさ、またやってくるかもよ? しばらく俺たちと一緒にいないか?」

 濃紺色の髪のプレシオが私を親切心からナンパしてくれる。


 もう18歳の私をお嬢さんと呼ぶのは、15歳で成人扱いするこの国では無理があるわよ。まあ悪い気はしないけど。


「お気遣いありがとう。でも、自分の事は自分で何とかできるんで平気です。それにこんな汚い女と一緒にいたら迷惑を掛けるわ」

「別にそんな事は気にしないさ。なあ?」

「あ! ああ……勿論だ!」


 私の顔を見たルートリアは一瞬だけ驚きの表情をしたが、すぐプレシオに同意した。

 ルートリアも嫌なら断ってくれていいのに。


 ありがたい申し出だけど私が気にするのよね。


 知り合いを作ると面倒な事が増えるし、自由に動けなくなる。

 あとはイケメンといると目立つし、町の女性たちが敵になりそうでそれも困る。


「こ、こっちです」

「こいつか? あやしい女というのは」


 さっきの冒険者4人のうち、私を蹴った奴が町の衛兵を連れてきた。

「そ、それで盗みをした女を保護しているのがこの冒険者2人です」

 実力で敵わないから衛兵をそそのかして仕返しする気ね。

 いい根性しているじゃない?


「貴様たち! なぜ盗人の女なんかをかばう! 貴様らも何か隠してそうだな? ちょっと詰所まで来てもらおうか」

「まてまて! このお嬢さんは盗みなんかしてないぜ? ……してないよな?」


 プレシオが少し不安げに私の顔を見た。

「してません」

 私の明確な否定に、プレシオとルートリアがほっとしている。


「こ、この女は背中に盗んだ物を隠してるんです」

「何? おい、女! コートを脱いで背中を見せるんだ」


 なんでそうなるの?

 人が何か持っているだけでそれを盗品扱いするなんて……この汚らしい身なりのせいみたいね。

 目立たない恰好だと思ったけど失敗だったわ。


「泥棒なんてしてないわよ」

「それなら、その背中に隠しているもんを出すんだ! 盗んでないなら出せるはずだ」


「何を騒いでおる?」


 衛兵の後ろから声を掛けた男性がいる。

 衛兵とは違う装備をした兵士を4人連れて、高そうな服を身に着けている、貴族かな?


「りょっ、領主様!」

 衛兵が直立の姿勢になった。

「いったい何があったのだ?」

「盗みを働いた浮浪者の女と、それをかくまう冒険者がいると通報を受けて駆け付けたところであります」


 衛兵の報告を受けた領主は苦々しい表情をして吐き捨てるように言った。

「この浮浪者の女を捕まえて処刑しておけ」

「ちょっと待ってくださいよ領主様! ろくに調べもしないでそりゃあんまりでしょう」

 私が思った事をプレシオが代弁してくれた。


「だまれ冒険者風情が! 国の指示を受けて浮浪者を減らす事の何が悪い?」

「それは内政を改善せよという意味で、殺せという意味ではないと思うが?」

 今度はルートリアが領主に突っ込みを入れた。


 ねぇ、やめた方がいいよ、あなたたちまで投獄されちゃうよ。


「貴様! 平民の分際でこの私に逆らうか! おい、こいつらを捕縛しろ!」

「は!」


 さすがに2人が巻き込まれては申し訳ない。

「この2人は関係ないです。善良な人を捕らえるなんてご無体はおやめください。捕らえるならどうか私だけを……」


 私のこの言葉に領主が激昂げきこうした。

「こ、こ、こんな浮浪者までが我を愚弄ぐろうするか! ええい、お前などここで手討ちにしてくれる」

 兵士に掴まれて領主の前に突き出されてしまった。

 ひざまずく私に向かって領主が剣を構える。


 このままでは殺されてしまう。

 出し惜しみしても仕方ない、ここは神器を開放して……。


「君を殺させはしない!」

 ルートリアが私の前に出ると、跪く私を包む様にして覆いかぶさった。


「ま、待て! アルト! 早まるな!」

 プレシオも止めに入るが、既に領主の剣は高々と振り上げられている。


「き、貴様らーッ! 望み通りまとめて殺してくれるわ!」




 私は神器の力を開放した。




 私の背中を中心に虹色のまばゆい光が周囲に放たれた。


 この場にいる全員があまりの出来事にその場で固まっている。

 領主が呆気に取られている間に急いで『宛先』と『件名』の宣言をしなければ!


 私は立ち上がると、助けてくれたルートリアに微笑んでからコートを脱いだ。

 背中に背負った赤茶色の大きな歯車を下すと、背負い紐を外して胸の前に掲げる。


 中央部が白く光る錆びた歯車は、私の胸の前で宙に浮いた。

 その歯車の外側に直径2メートルの黄金色に輝く細い円形枠が出現する。

 細い円形枠の内向きには、沢山の歯がぐるりと1周並んでいる。


 中心の赤茶色の歯車と外側の細い円形枠の間に、大小沢山の透明な歯車が出現した。

 それら全ての歯車はそれぞれの歯が嚙み合っていて、どれかが動けば互いに動きが伝わる状態だ。


 私は外側にある黄金色の円形枠を掴んで少し回した。


 円形枠の内側の歯が、噛み合わされた透明の歯車に回転を伝えて全ての歯車が動きだした。


 透明の歯車と噛み合う中心の赤茶色の歯車が、くるりと1回転するとカチリと音が鳴った。


「『宛先』は目の前の領主。『件名』は、この場にいる領主と兵士を除く者たちに今後一切の処分をしない事」


 一区切りさせてから付け加えた。


「以上、尾根ギアします」


 小さく頭を下げた。


 その瞬間、領主の足元から眩しく輝く巨大な白い光の柱が立ち上り空まで伸びた。


 領主は急に虚ろな目になり、剣を手に持ったまま棒立ちになると一言つぶやいた。


「わかりました」


 領主は剣を鞘に納めると、その場から去って行く。

「りょ、領主様この者たちへの処分はどうしますか?」

 取り巻きの兵士4人が戸惑っている。


「……一切なんの処分もしない。今後もな。行くぞ」


「え? いや、こいつらはあろう事か領主様に逆らった重罪人です」

「お任せいただければ直ちに処分いたします」


 職務に忠実に進言した兵士たちに向かって領主が激しく怒鳴りつけた。

「貴様らッ! 私の指示が聞こえなかったのか! 私は処分をしないと言ったんだ! 2度も言わせるな!」


 兵士たち4人は私を気味悪そうに見ながら、領主の後をついて行った。


 衛兵も領主の「処分をしない」という言葉を聞いて、首を捻りながらもこの場を立ち去った。


 具現していた黄金色の円形枠も沢山あった透明の歯車も既に消えていて、ただぽつんと目の前に浮かぶ赤茶色に錆びた歯車を手に取ると背負い紐を引っ掛けて背負った。


「な、何だよ、今のは! 何のインチキをしやがった!」

「まあ、お前に知る権利は無いかなあ。それともさ、俺たちと続きをやるか?」

「私が相手になろう」

「ひ、ひぃー」


 衛兵を呼んできた冒険者は、プレシオとルートリアの威圧を受けて慌てて逃げて行った。


「本当はいろいろ気になるけどさ、聞かない方がいいんだよな。俺たちも行くか?」

「ああ、行こう。彼はプレシオ、私はルートリアだ。何か困ったら頼って欲しい」

 2人は私に背を向けて歩き出した。


 裏切られ続けた私の人生に、命がけで守ろうしてくれた人や、身なりで判断せずに親身になってくれた人なんていなかった。


 このまま命の恩人たちを帰してはいけない。




「ちょっと待って!」




 本当は私の抱える問題に他人を巻き込んではいけないのだろうけど、この人たちならば助けてくれるかもしれない。


 もう一度だけ、人を信じてみてもいいのかもしれない……。




「私の名前はレイナ! 話を、話を聞いて欲しいの!」




 まったく人を信じられなくなっていた私が、話を聞いてもらいたい一心で呼び止めてしまった。


 きっと2年もの間、悲しい思いを誰にも話せずに自分1人で抱え続けて限界が来たんだと思う。


 声は掛けたものの、その後どうしていいかわからず黙り込んでいると、いつの間にか周囲に人が集まってきた。さっきの神器開放で強い光が出たため町中でかなり目立ってしまったようだ。


「行こう! ここにいてまた問題が起きたら面倒だ」

 ルートリアが私の左手を握って野次馬たちの輪の外に連れ出してくれた。そのまま私の手を引いて何処かへ向かっている。




 いや、あの……、そんなあっさりと手、握るんだ。




 前世で会社員をしていたときから、今の今まで男の人と手を握るなんてなかった。


 転生してからも、ただただ自分に与えられた役割をこなそうと、神器を持つ自分にしか出来ない事を一生懸命やってきた。


 そんな私なのに、男の人と手を握るなんて心の準備が全然できてないよ。


 意識し始めると急に恥ずかしくなって、顔が熱くなった。


 絶対に顔が赤くなっている。

 今見られたらヤバい。


 急ぎ足で歩くルートリアに顔を見られないように下を向いて付いて行く。

※誤字脱字などがありましたら、ご連絡いただけますと大変助かります。

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