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5話 こ、こ、こ、口実よね?

 早朝に起床すると、簡単な携帯食を食べてすぐに町へ向けて出発した。


 骨折して当て木をしていたルートリアの右腕は、昨日の寝る前と今日の朝に飲んだポーションで無事完治してホッとしたわ。


 町へ帰るにあたりルビカンテの恰好をどうするかで悩んだ。

 上半身裸で黒い下半身ではマズいので、空間収納のバッグに入れていたプレシオの替えの服を貰って着せたのだけど、これが結構似合っている。

 

 赤い髪に切れ長の目でやんちゃな兄ちゃんみたいな雰囲気ね。


 尻尾の先が燃えているのはどうしようか困ったけど、ランタンを腰に下げてもらい、尻尾の燃えている部分を中に入れてもらって、常に明りの点いているランタンみたいにした。

 靴は予備が無いので町で買うことにする。


「なあ、頼むから前を歩いてくれないかな」

 街道を歩いている最中に、デュクシから私たち『自由のつるぎ』にクレームに近い要望を受けた。


 往路は『とにかく荒稼ぎ』が前、『自由の剣』が後ろを歩いていたが、今はルビカンテの威圧がひどくてたまに奇声を上げるので、前を歩くとストレスが酷いそうだ。


 昨日、悪魔であるルビカンテが登場したときに「魔族は役に立たない」とか、私たちに「仕事の邪魔をするな」と言っていた。


 となると、単にオーガが群れで暴れたんじゃなく悪魔の差し金かもしれない。

 神器を使うときにそこら辺を知りたいから、下僕にするという選択をした訳なのよね。


 でも、本当はルビカンテとの繋がりを主従関係にしたくないのよ。


 できれば主従関係なしで一緒にいたい。


 でも人間嫌いの悪魔だし、プレシオやルートリアの様には理屈が通じないから契約にすることもできない。

 聞くことが聞けたらルビカンテを解放しようかしら。


「ねぇ、ルビカンテ」

「はいぃぃー、ご主人」

「もしも、私があなたの主人を止めて、あなたが私の下僕じゃなくなるように命令したらどうなるの?」


 私の言葉を聞いた赤黒い顔の悪魔は、歯をむき出して気味の悪い笑顔を見せた。


「俺を下僕にィするという大罪はぁあ、その場でぇご主人にぃ死を持って償って貰ぁうのでありまぁす」

「ひ、ひぃいーッ」


 と、当分の間は今の主従関係のままでいいかな……。


 プレシオやルートリアは私がルビカンテからいろいろ聞き出すのに賛成のようで『とにかく荒稼ぎ』の面々がいる今は、事の真相を質問しないでくれた。


 『とにかく荒稼ぎ』の面々に事の真相を聞かれてしまうと、内容によっては冒険者ギルドを巻き込んだ大騒ぎになる恐れがある。


 そうなると困ってしまう。

 当然、悪魔のルビカンテを引き渡せみたいな話になって、私たちから引き離されてしまうから。


 それだと、魔族側の現状とか2年前の外交長官殺害の顛末てんまつを聞けなくなってしまう。


 一度だけデュクシに「今回の件はルビカンテが関係しているんじゃないか」と聞かれたが、私には分からないと返事した。


 彼らがルビカンテに質問しても昨日のやり取りみたいになって会話にならないので、真相は不明ということになった。


 『とにかく荒稼ぎ』の面々はいい人たちだけど、パーティスタイルが金稼ぎ重視で、金にならない事に首を突っ込んだりしない主義だから助かったわ。





 なんとか夕方には冒険者ギルドに到着できた。


 冒険者ギルドへの報告は、ただ鉱山を襲ったオーガを退治したという単純な話にした。

 予定通りに労働者の弔いや身元確認、オーガの討伐状況確認は冒険者ギルドの調査部隊に現場へ行ってもらう。


 報酬は調査部隊が帰ってきて依頼達成が確認されてから支払われるということなので、『とにかく荒稼ぎ』とは一時的に解散した。





 今日は一日歩き詰めで疲れたので早く休みたくてすぐに宿に入った。


 ルビカンテに事の真相を尋ねるために皆でプレシオたちの部屋に入る。

「で? 結局なんで鉱山をオーガに襲わせたんだい?」

 プレシオがルビカンテに質問した。


「あ? そんな事ッ、人間にィ言える訳ねぇえだろがぁぁああああ!……です」

「こうなると思ったよ。レイナ、頼むね」

「ねぇどうして鉱山をオーガに襲わせたの?」


「そりゃぁあ、人間を滅ぼすためぇですぜぇえええ、ご主人」

「悪魔が人間を滅ぼすの?」

「俺らは人間なんてどうでもいいけどぉよおお、魔族が邪神様にお願いするから俺がぁああ手伝いさせられたですわぁあ」


 魔族が人間と戦争する準備をするため、武器の材料目当てで鉱山を確保しようとしたらしい。


「じゃあ、オーガは依頼元の魔族なんだから燃やしちゃダメじゃない」

「そんなぁあ、1匹くらいは別にいいでしょぉぉお」


 うーん、魔族も悪魔や邪神を味方に付けるのは命がけなんだね。


 プレシオとルートリアが深刻な表情をしている。


「まずいよな。事態の悪化は進んでるみたいだけど、どうする?」

「今すぐ乗り込んで中枢を乗っ取るか? レイナに協力してもらえば何とかなりそうな気もするが……」


 なんだか物騒な話みたいだ。


「何を乗っ取るの?」

 協力するにしたって内容が分からないと協力しようが無い。


「国さ」


 プレシオが軽い調子で答えた。




 聞かなきゃよかったよ!!




「あの、悪事の片棒を担ぐのはちょっと……」


「悪事ではない。元々は我々がこの国の軍を率いていたが策謀さくぼうにより追放された。このままでは軍部が上手く機能しなくて魔王軍に対抗できない。人間は魔族に滅ぼされるぞ」


 右手を水平に動かしながら「人間が滅ぼされる」と強調するルートリアはなんだか演説慣れしているように感じる。


「元々はどういう計画で軍部を奪還しようとしていたの?」

「内部からの正攻法では策謀が張り巡らされていてどうにもならなかった。外部から働きかけようとしたんだが……」


「隣国はさ、軍事の実権がない我々に冷たくて非協力的だったんだよ。獣人族や妖精族などの異種族国家にも頼ったんだけどさ、今まで築き上げられたはずの友好がなぜか崩壊していてね、とても何か頼める状況ではなかったよ」


 それ、あの勇者のせいだわ。


「正直、プレシオと2人ではどうすることもできず手をこまねいていた。いつかチャンスが来ると信じて、実戦経験を積むために冒険者登録して魔物討伐を繰り返していた」


「そこにレイナが現れたって訳さ。レイナの魔道具で国の中枢を抑えられたら、俺たちがまた軍部を掌握できる。ルビカンテの話じゃ魔王軍も準備を始めたところだからまだ何とかなるんじゃないかな」


「我々は軍部を追放された身だが、国王や王太子とは問題なく会うことができる。王国軍を統括する王太子に会い、軍事の実権を任されるハリオス侯爵とその配下のレグハルツ大将を失脚させる必要がある」


 確か王太子はカストラルだったわね。


 神器でヘラルド王との人脈を構築したときに、異種族と友好関係を結ぼうとしたところで王太子が障害になったわ。

 異種族を敵視していて攻撃的な性格だったから、かなり邪魔されて大変だったのよね。


 でもあの王太子はお世辞にも頭が切れるとは言えないタイプだから、その下のハリオス侯爵が策謀をめぐらせた首謀者ね。


「その場合はカストラル王太子を私の魔道具で味方に付けてもダメなんじゃないかな」


 話に踏み込んだらルートリアに嬉しそうな顔をされた。


「今も変わらず能力が高いままなんだな」

「? どういうこと?」


 少しの沈黙の後、プレシオが早口で答える。

「レ、レイナは頭が切れるという話さ、なあルートリア?」

「……あ、ああ。王太子の名前を知っていて驚いただけだ……」


 この世界は情報伝達が遅く調査手段も乏しいので、城下町以外では一般人が王太子の名前を知っていることはほぼない。


「た、たまたま聞いたことがあっただけよ。それよりも魔道具の力で、ハリオス侯爵とレグハルツ将軍を辞めさせるように王太子を誘導できても、対外的には辞めさせる理由が無いとおかしくなるんじゃない?」


「そうなんだよ。結局さ、貴族の待遇を変える場合、根回しというか多数が承知する状況にしないと勢力図が狂うんだ」

「貴族同士って微妙な力関係の上で成り立っているわよね? バランスが崩れて強大な貴族派閥ができると、国王の統治が上手くいかなくなるんじゃないかしら?」


「そのとおりだ。だから国のためにならない貴族がいても国王は対外的な理由なしに処分できない」

「っていうかさ、レイナは貴族の事を詳しいよね? もしかしてどこかの貴族なの?」

 少し真剣な表情でプレシオに聞かれた。


「まっさかぁ、ちょっと昔、高貴な知り合いがいてね。王太子の名前もそこで知ったのよ」


 高貴な知り合いというのは、ヘラルド王よ。

 変に誤解されるかもしれないから言わないけど。


 対貴族相手の対策検討にルートリアの眼差しが真剣さを増す。


「ハリオス侯爵とレグハルツ将軍の悪事の証拠は揃っているが、やはりそれだけを理由に国王が2人を処分すると他の貴族に疑心が生まれるか?」

「その2人の派閥は大きいのよね? それだと国王が理由をでっちあげて、統治の為に2人を処分したっていう疑念が貴族の間で広がるかもしれないわね」


「うむ。ならば、やはり予定通りに10日後のパーティに出て、貴族の前で2人の悪事を公開しよう」

「それはいいわね。大勢の前で証拠を見せれば明白だもの。適当な理由の処分じゃないって分かるわ。2人とも頑張ってね」


「何言ってんのさ。レイナもパーティに行くんだよ」

 ちょっとプレシオこそ、何言い出してんのよ。


「証拠があるなら私なんて不要じゃない」

「いや王太子は理屈が通じないからレイナの力で味方に付ける必要がある」


 ルートリアが私の手を握ってくる。


 手を握って私を動揺させて出席させようとしても無駄なんだから!

 そんな大変なパーティに出るなんてお断りさせてもらうわ。

「でも貴族のパーティでしょ? 私、そんなのに着て行けるドレスを持ってないわ」

「だから間に合わせるように洋裁店で作ってもらっている。フフ」


 あっ、今フフって言ったわね!

 洋裁店のあれはそういうことだったのか……。

 やられた。悔しい。


「き、貴族の礼儀作法ができなくて粗相しちゃうかも」


「食事をするときのレイナの作法が貴族令嬢と変わらないのは見ていた」


「綺麗な令嬢たちの中に私が混ざったら、場違いで目立っちゃって作戦が失敗しちゃうかも」


「洋裁店で店のドレスを試着したときにレイナの事を美しいと思った」


 むう。


 魔道具の力を貸す場所がパーティ会場じゃ、行かないと契約違反になっちゃうし困ったなぁ。


「急に誰も知らない女性が登場したら驚かれるわ。一体なんて紹介するつもりなのよ?」


 私の問いに、少し真剣な表情をして私の正面でひざまずくと握った手の甲に軽くキスをしてからこう言った。


「私のフィアンセとしてだ」


 はあ?

 

 私の指先を握りながら正面で微笑むルートリアが何を言ったのか、理解するのに10秒程時間が掛かった。


「こ、こ、こ、口実よね? パーティ用の……」


「パーティの間だけでも構わない。私のフィアンセでいて欲しい」


 プ、プ、プ、プロポーズにも聞こえたけど違うわよね??


 どうやら、金髪碧眼のイケメンは私の理解の及ぶ相手ではないようだ……。


※誤字脱字などがありましたら、ご連絡いただけますと大変助かります。

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