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夏、おにぎり職人の君と夕焼けを眺めて

作者: 山納言


 一戸建てのボロアパートごと異世界に転移したサラリーマンの青年。

 転移先は不運にも、強欲な忍者が牛耳る「聖女のおにぎり屋」という名の劣悪なブラック企業の真横だった。

 それゆえ彼は忍者に捕まり、営業職を務めることを強制されてしまう。


 「聖女のおにぎり屋」では六名の社畜が働いていた。

 お米を炊き、おにぎりを握る聖女。

 商品のラベルを作る文学少女。

 おにぎりを包装してラベルを貼り、荷台に積む名探偵。

 その荷台を背負って各地へ配送するドラゴン。

 お米の仕入れを担当する大魔王。

 経理のおねぇ。

 サラリーマンの青年は彼らとともに汗水を流して働き始めた。


 それから一年が過ぎたある日、忍者の孫が必殺技を暴発したせいで社員寮の一室が半壊してしまう。

 その部屋に住んでいた聖女は忍者の命令で、サラリーマンの青年のボロアパートで彼と同居することになる。

 一戸建てのボロアパートは1LDKと、間取りに余裕があったからだ。


 当然、サラリーマンの青年は聖女を意識せざるをえない。

 なにせ彼は独身で、聖女は可愛らしい美少女だったのだ。

 仕事を一生懸命に頑張っている子だなぁと、もとより好意を寄せていたものだから、思いがけず訪れた同棲の日々に心躍らせずにはいられなかった。


 一方聖女もまた、サラリーマンの青年に密かに想いを寄せていた。

 その真面目な仕事ぶりと誠実な性格にいつしか心惹かれていたのだ。

 ふと気づけば、彼が折に触れて浮かべる優しい笑みを独り占めしたいと思う欲張りな自分がいた。


 そんな両想いの二人だからこそ、結ばれるのは自然なことだった。

 同居し始めてからちょうど一年が経った日のことだ。

 サラリーマンの青年が勇気を出して告白し、聖女はそれを喜んで受けいれ、晴れて二人は恋人同士となった。


 また一年が過ぎて季節は夏、夕暮れ時。

 二人は縁側に並んで座っており、茜色に染まりいく入道雲を何気なく眺めている。

 遠くで蝉の鳴く声が微かに聞こえてくる。


「僕とずっと一緒にいてください」


 不意にサラリーマンの青年が言った。


「――はいっ!」


 少し遅れ、聖女が嬉しそうに答えた。


 貧しい生活だ。

 婚約指輪なんて贈り物は用意できず、結婚式を挙げる余裕もない。


 それでも二人一緒なら、ほかになにも要らなかった。

 愛する人が隣にいてくれるだけで、ただそれだけでよかった。

 幸せだと思えた。


 なお大魔王の内部告発を受け、忍者が息子によって更迭され、会社の労働環境が劇的に改善するのはもう少し先の話だ。



読了感謝です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルが好きだなと思い、拝読させていただきました。 ええっ、すごい……! キーワードがてんこ盛りですね……! なのに全然大味にならずにすてきにまとめられていて、めっちゃいい話で、ほろり…
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