クラフトノーツの戦い
戦略的価値を無くした地雷原。
しかし、相手方の様子に変化はない。
対するスナイパーは、確かに異常性を見出していた。
軽口の得意な彼らの前に、それは突如として襲い掛かる。
それは、_からやってくる
死体と荷馬車で山積みとなった一本道。
地雷の類は、その死体と共に意味を失った。死体が続く道となった其処は、もはや戦略的に意味をなしていない。歩兵部隊からは道の様子をうかがう事が出来ず、先ほどの光景に歩兵の顔は優れない。
眼下の様子は、あまりにも凄惨な状態を示している。
心躍る彼らとは違って、私はそういう情景が好きではない。
「……妙だな」
「なにが?」
「後に続く様子が無い。……奴らは、あの馬たちを地雷除去に使ったくせに、即効性の優を利用していない」
首無しの馬は、攻撃用に作られた兵器ではないか。
確かに、彼らは偽装用。又は囮として利用された可能性が高く、彼らの荷物に兵が含まれていないのを見れば、特攻用の兵器なのは一目瞭然だ。
「驚いているのかも」
「……あんな馬を使って、敵の策を瓦解しようとする奴がか?少なくとも敵の大将は頭がいい。面制圧だろうが何だろうが、斥候としてああいう奴を前に出すってのは気分が悪いが悪手ではない。……しかもあれは、地雷の存在を知っている動きだ。」
確かに。
地雷の弱点は、安価で効果的な反面。一度通った道の安全を確保できるという事だ。同じ場所に地雷は無く、首無し馬は、その弱点を知っているかのように真っすぐ。しかも、同じような道をただ走っていた。つまり、その存在自体が何かしらの対策であったことは間違いが無い。それが故意的であるか、それとも意識的かは置いといて。
「少なくとも、何か罠を張っており、罠を解除する。又は、罠を明確にするという目的がある。敵が罠の種類を知っているかどうかは置いといてな。」
「……だから、敵の次の攻撃は直接攻撃に出ると?」
「本体が来るかどうかわからない敵にとっては、増援が来る前にケリをつけたいはずだ。その為には、罠が何であろうと囮の次に突っ込まなきゃああいつらの意味が無い。……なら」
「……なら?」
「……これが、囮なら……」
インカムに手を当て通信をつなぐ。
応答したのは、相棒のラド。
実に暇そうに欠伸を漏らす。
「イナギだ。両兎、あいつらは囮だ。本体は別方面から来る可能性が高い。」
『囮?敵の進行は見られないか?』
「こちらからは、正面からの展開は見られない。敵の進行方向は未確認だ。」
『了解。警戒を続ける』
そんなはずはない
地形的に、正面以外のルートは進行の足かせになる。
「囮って……。敵の進行は正面からしかありえない。」
「いや。……ラド?」
『____っと! っ_____』
声。いや、周囲の音に確実な異変が起きた。
イナギは、体勢を戻し、対物ライフルのスコープを覗く。
私もそれに倣い、双眼鏡で町の様子を見る。
そして、そこには彼らが居た。
牙が印象的な猪の群れ。
力を何よりの信仰とし、強者こそが正義と称す彼らは、重々しい盾を振りかざしながら兵士を、文字通り千切り、投げる。部分的になった人間は除去されない地雷に当たり、その部分をさらに粉々にしていく。
いつの間にか、現れた敵兵は。
いつの間にか、人を潰していた。
敵は、其処にいた。
「……まずいな」
状況は、乱戦へと移行していた。
マガジンを交換し、排莢。胴体を打ち抜いた徹甲弾にて狙いをつける。
乱戦。いわゆる、敵味方入り乱れる戦場において、スナイパーはその意味をなさない。乱戦に移行しているという事は、敵味方が常に動き回っている流動的な戦線状況であり、長距離射撃をする上で、味方への誤射が付きまとう。
だがしかし、彼は引き金を躊躇なく引いた。
弾丸は直線的な軌道を描き、煽られるはずの風速や重力を無視し、最大加速にて目標へと吸い込む。敵主力の一人。筋肉隆々のアナスタ国重武装歩兵を貫いた。
それはもはや弾丸というより、”砲”に近い。
厳密的には弾丸の類に含まれるそれは、上半身を確実に吹き飛ばし、内臓や血潮をまき散らす……はずだった。貫かれた兵は倒れはしたものの、弾丸による損傷は明らかに軽減されている。
次弾装填。
間を入れず、次の目標に引き金を引く。装弾数は十発。弾薬の生成がいくらばかり特殊であり、必要数は用意が出来ないため、徹甲弾の残りは十数発が限度。
「相棒。無事か?」
『後方の一人はお前がやったのか?』
「今相手をしているのは敵主力だ。死体の山に向かって、敵の増援が来ている。兵士はあとどれくらい残っている?」
『数人程度逃がすのが限界だな。こっちは五人くらい殺したが、敵が思った以上に固い上に数が多い。魔術的特性が見えるな。娘ちゃんが、思った以上に効かないっと!』
確かに。
五十口径の弾丸を食らい、貫かれた敵兵。息はしていないモノの、その威力に似合った破壊力を示す事は無かった。人一人の上半分を吹き飛ばす威力のそれを食らえば、いかに彼らが頑丈であったとしても意味をなさない。
それが、意味を成している。
彼らは、弾丸に対する耐性を得ている。
「お前の九ミリに期待はしていない」
『恐れ多い言葉で』
「褒めてないぞ?糞兎」
軽口をたたきながらも、彼らは仕事を進める。
排莢し、スコープを覗いたイナギは次の目標を狙う。吐き出された弾頭は目標の頭を目指し加速し、最大威力で貫いた。二人目。小さな声で、応える。
五百程度の敵主力。アナスタ国主力の重武装歩兵。鋼鉄製の重々しい鎧と、身の丈以上の盾を振りかざす彼らは、自身らの二倍以上ある敵兵を文字通り赤子の手をひねるが如く千切り投げていた。
兵力は明らかであり、これ以上事態の改善には努められない。
誰もがそれを、”対処不可能な状態”だと思った。
しかし。
それは違った。