フェルナンドの伝統
厳かな老師が語る
田園風景が印象残る村。
突如としてあらわる敵兵。
魔術大隊とクラフトノーツの活躍は、無敗の国に通用するか。
戦争を起点に、世界を変えろ!
北風が身を震わせた。
そんな季節
大規模な戦争は、突如として始まる。
あわただしくなる本陣。
フェルランド領事館。貴族の家でもあり、緊急事態の際には公共な施設としても機能するその館は、張り詰めた様子を見せていた。
少なくとも、観光都市としてもあるこの町を詳しく知るモノなら。この館を訪れたことがある者なら。
今の様子を平時だとは思えないに違いない。
厳かな雰囲気が特徴的なそれは、明らかな異常性を示していた。
「状況は?」
第二職務室。
他国などの要人たちを迎える由緒正しきその部屋も、例に洩れず忙しさを見せる。
第三十都市治安駐屯中隊。中隊長のエルハレムは、あわただしい室内でも冷静を欠かない。
もともとたたき上げの歴戦兵である私は、状況の整理に明け暮れていた。
「旧街道方面から多数の荷馬車が此方に向かっています。その中心には、敵の主力らしい機甲歩兵団が見えているとの事。精鋭の機甲師団と思われます。
また、荷馬車の兵を含めますと、数は五千人を下らないとの報告が上がっています」
報告するはこの館の主。
ガト・フェルランド。南フェルランドの領主である彼は、軍事面においても一般的ではない。元々、フェルランド家は武勲で名を挙げた領主の一人だ。彼の私室に掲げられている古めかしい長剣は、決して飾りだけのものではない。
隣国の領地を取得した第一次フェルナンド戦争において、彼らは互いの腕を尽くして敵兵を葬った。その実力こそが今の地位であり、我らの誇りだ。
祖国の為、彼らは争う姿勢を崩さない。
「……正面突破か」
「中央軍の戦力が見込めなかったことは、彼等も知る限りでしょうね。旧街道からの奇襲攻撃。……監視されていることを知らない彼らは、それを変える事は無いでしょう。」
「分からんぞ?作戦が筒抜けの可能性もある。」
「そうなったらお手上げですね。……まあ、この道を通ることは確実でしょう。……問題は。」
長机を合わせたような街の地図。
旧街道に続く森の中からの奇襲は、相手方にとって有利な地形先方となるだろう。この町の上には峠があるが、急斜面が続くその道は、機動力を得意としている相手方には厳しい道筋だ。
「敵兵団が、例の奇行兵団だけを主力としているのが気にかかります。五千の兵は駐屯兵だと考えると、それ以外に主力が居る可能性もあります」
「騎兵か?」
「おそらくは」
答える老兵。
敵の主力の一部が此方に向かっているのなら、槍兵で迎え撃ちつつこちらの策にはめるだけだ。……しかし、相手は何十年と国土の維持を行ってきたアナスタ国。内戦の中、本当の戦争を体験してきた者たちばかり。精鋭中の精鋭軍に、果たしてどこまで持つか想像が出来ない。
「住民の避難はどうなっている」
「すでに各家々に張り巡らされた地下道で避難を開始しています。非武装市民による誘導により、大方早く終わりそうです」
すでに住民は退去してるが、農作物は例に洩れない
あとは収穫というこの時期。狙いは収穫前。
作物を移動させられる前に、この村を占拠する予定なのだろう。
「穀物は放棄するのか?」
「我々にとっても、彼らにとってもあれは宝です。よほどのことが無い限り手が出せないし、彼らも同様です。地下道に専用のスペースを設け、収穫をした物に関しては面制圧に耐え抜くようにしています。あくまで焼かれるのは村です。国全体が、冬が越せなくなるよりはいい。新住居の選定は済んでいます」
「……この町を、放棄するか」
「第一陣で防御態勢を敷き、村が制圧される前に、フェルナンド第三主力大隊が丘上からの攻撃を開始します。歩兵ばかりが多い彼らは一網打尽。……と行けばよいですが……」
だがしかし、不安は拭えきえない。
「それ以外にも策は用意しています。……後は」
行ったすべての策が通用せずとも……か。
自嘲気味に、彼は笑った。
「彼らに任せるしかないでしょう。」
聞きなれない足音が聞こえた。
見たことが無い甲冑に身を包んだ少年は、我らを見ると妖艶にほほ笑む。それは実にこの状況を楽しんでいるかのようで、それ以外に何かの意味を含んだ表情にも見えた。
それが、異世界のものだと私はすぐに分かった。
「お話し中でしょうかね?」
「……君が、傭兵の。」
「ティーンとお呼びください。第三十常駐中隊閣下殿。戦場についての確認を少しばかりおこないたく、軍令部の様子を見に来たのですが。……よかった、皆様忙しそうで何よりです」
「ティーン。今はジョークを言っている場合ではないのです」
ため息交じりに、ガトが答える。
少年は様相を変えずに、忙しなく情報収集に励む同法を一瞥し、……実に、晴れやかな笑顔を見せた。
「これがジョークではなくてですね。……いやはや。あの国では皆々様が頭にハムだけを入れてしまっていて大変でした……。ああ、失礼。思い出に浸るのが最近の流行りでして。
それで閣下。我々の部隊は布袋通りの配置につきました。何時でも戦闘状態に入れます。敵軍の様子はどうでしょうか?」
そういった言葉を並べ、彼は我らの間に入る。
地図を片手に、先ほどの説明を私は繰り返す。
「旧街道方面からの進行を確認したそうだ。予定通り、ポイントⅮにかかるだろう」
「敵の編成は?」
「機甲師団が一大隊。歩兵が軽く見積もっても五千。歩兵は荷馬車にいるようだ。おそらく、占拠した後の常駐兵が大半を占めていると思う。実際問題、あの機甲師団を止められるのは我々だけでは無理だからな。
こちらの槍兵は千人も満たない。しかも、片田舎の本物の戦争などしていなかった連中だ。地方の魔道大隊が居るからと言って、彼ら相手の戦闘は難しいだろう。」
「例の特務隊ですね」
「ああ。籠城戦で虐殺の限りを尽くした……な」
状況を理解した彼は、自身の胸元に手をあて、言葉を吐いた。
それはこの状況を理解していない軽いものだったが。
彼が一般的でないことが、その眼を投資手理解できる。
「お任せください。我々も、十分に化け物ぞろいです」
「諸君らの腕に疑いはない。存分に暴れ、我々を守ってくれ」
「ええ。それが仕事のうちですからね」
それだけ言い、離れようとする彼は、付け足すように次のことを言葉にする。
「それと、魔道大隊の方々は早々に撤退された方がよろしいかと。……彼らは役に立ちません」
「それはどういう意味かな?」
「どういう意味でしょうね?……まあ、それは後に」
「皆様。どうか、よき戦争を」
彼は、それだけを語った。