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CRAFT/Notes  作者: 式式
フェルナンド攻防戦
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クラフトノーツの在り方

少女は武器を売る

少女は道を売る

少女は情報を売る



それは一つの在り方。

世界で生きていく上での歪なカタチ。

それでも少女は戦うだろう。


これは、少女たちが生きる物語。

 変わらない雲。

 変わらない空。


 移動する車内。

 運転席から時折見える雲。

 どんよりとした暗い光景。


 

 不機嫌か?と答えられたので、そうではないと答えた。相手は雲に例えて、この空と同じような表情を浮かべていると語る。自身が表情溢れる人間でない事を理解している私は、それを実につまらないジョークだと理解している……が。


 実に腹に来たので語る事にする。


 どれだけ晴れ渡っているそらだって、どこかに雲は必ずある。

 世界は、割合で出来ている。

 晴れ渡る空は無く。

 雲が支配する空も無い。


 私の感情さえ割合だ。お前の話は実に面白みがない。

 

 「そうかな。それで注文なんだけど。十二ゲージ、五箱。それ……と……。……とりあえず九ミリをあるだけ。マガジンはオプションで付くんだよな?」

 「十二ダースでマカドニア金貨五枚。二十発入り8箱。マガジンは三つ。ダムダム弾?ホローポイント?」

 「……前より少なくね?ああ。ダムダムな。違法条約なんて知らん知らん」

 「貴方と違って、九ミリ好きな人間はいない。威力も無い。継続能力もない。貫通能力じゃあ勝負にならない。今のご時世、流行っているのはLMG。弾幕こそ正義。至高」


 熱弁する私に、兎は苦笑いで答える。

 キラキラと光る新しめの金貨を掌に乗せる。

 舌が幾ら回っても中身はそんなに感情的ではなかった。実際、弾の口径の違いを舌で語るほど興味があるわけではないし、その分野において有名な彼以上に知っているわけでもない。私としては、商品が売れて。それを活用して。購買意欲につなげる事が出来ればいい。……というだけの話である。


 貫通力がどうのこうのと語るのも。

 威力がどうのこうのと語るのも。

 特に意味が無い羅列に過ぎない。

 

 「昔偉い人が言ってた。7.62が正義。弾幕は至高」

 「誰だそれ。……つか、誰しもが弾幕バカじゃあねーんだよ。それに、俺の娘ちゃんだってマシンピストル並みに制圧力だけはあるぜ?」

 「……ハンドガンな上に、装弾数は?」

 「十発」

 「……一秒ももたなそうだね。 ……ゴミ」


 預かった金貨を袋に入れ、戸棚から弾薬を渡す。

 袋に入った九ミリ弾。マガジンをセットに、彼の愛用する拳銃のマガジンを選ぶ。

 ふと、最近手に入れた武器関連のアタッチメントを思い出した。……口は考えるよりも早く滑る。


 「そういえば、サイト。新しい奴を作れるようになった。……欲しい?」

 「これで十分だよ。あ、拡張マガジンは欲しいかな?」

 「オマケで付けておくよ」

 「おう、ありがと。お礼の差し入れ。さっきそこで生肉買ってきてな。ビールのつまみにでもしてくれや」

 「お互い未成年でしょ?」

 「違いない。昼時の足し位にはしてくれ」

 

 こうして商業的な語りを続ける私に、ひょろ長い青年は包みを渡す。

 どうやら話の通り肉の塊である其。ご丁寧に店の名前が書いていある。

 この肉屋は知っている。結構有名な肉屋だと記憶している。……隣町の隣町。距離にして五十キロほど離れたのどかな耕地が有名な街の店だ。……生ものというのはあまり保存性が優れていないと記憶しているが……。

 その肉は冷凍保存されていたらしい。ひんやりとした塊は、私の体温を奪っていく。

 どこかの術師に頼んで、固まりを冷凍にしたようだ。……まったくもって準備がいい。

 運転席にいる友人は、他の客と雑談に勤しんだり、シェルレッタとの連絡を取っていたりしている。

 ……ああ。そういえば。

 彼が来る時は必ず一人ではないのに、今日はお客様が少ない。

 私たちに用がある例外を除いた今の客人は二人。彼の友人たちの姿は見えない。


 「隊長さん達の分は買わない?」

 「あいにく今仕事中でな。俺だけちょっと野暮用ついでに寄っただけだ。十日後は何処にいる?」


 ……成程。

 傭兵は忙しいようだ。

 

 この世界には、大まかに分かれて二種類の人間が居る。

 この世界に古くからいる人間。そして。何の都合か、別な世界から流れるいた人間。

 別世界から来た人間は、いわゆる転生者と呼ばれ、その多くは冒険者だったり、国々の戦争に加担する傭兵になる場合が多い。転生者の多くは固有スキルを持ち、それは通常の人間よりも強力なモノが多く、そういった職業に片足を突っ込む。


 ……そうして、多くの転生者が煮えを飲むこととなる。


 世界は広く、彼らは平等ではない。

 すべての人が勇者になる事はなく、限りない一部が輝ける。

 そして、それは。私達も例外ではない。


 その最たる例が目の前の人物だ。

 ひょろ長い背丈に、愛用のたばこを加え。火気厳禁だと示した張り紙に対して何の注意を向こうともしないこの男。

 本名は不明。ラビットドールという名がある”兎の狩人”。

 加えた煙草を叩き落とし、再度、火気厳禁と書かれた張り紙を指さす。相変わらず厳しいなと苦笑いを浮かべる彼の足を蹴るのは正当防衛だ。そうこうしている車。しかも、引火物が溢れる車内でタバコを付けようとするその魂胆。正直、何処から来るのか分からない。

 常識を知らない彼に常識を教えるのは骨が折れるので強くは語らないが、その分怒りはこみ上げられる。私は落ち着くために深呼吸をし、もう一度だけ彼を蹴った。


 煙草を拾う彼。

 私は、熱を冷ましながら答える。

 

 「アナスタ方面だね。……ここの仕事も大分落ち着いてきた。今度は南に行ってみようと思う」

 「……ああ。あそこか。気を付けろよ?あそこはめんどくさい。 ……実に」

 「どっちの意味?政治的?それとも社会的?」

 「どっちもだ。アナスタ方面は確かに転生者も多いし需要もある。……が、そのほとんどがいわゆる荒くれ物だ。そういう奴は調子にのって何をするかわからねえ。俺たちみたいに大人しい奴らばかりじゃあねえのさ」


 南方面の戦火が拡大しているのは私も知っている話だ。

 元々、王政だったアナスタ国は自身の資源である鉱石の加工、及び、希少な金属を用いた貨幣経済によって成り立っている。だが、度重なる隣国との権利戦争で国土は疲弊。貨幣経済も、醜悪な金属が混じるようになり、その機能が低下していると聞いている。


 国際的な貨幣が無いこの世界において、信用たる貨幣を作ることは難しい事だ。希少金属を使用した貨幣の生成は、その金属の価値も相まって信用にはおけるものの、余計な混合物を入れ、金属の価値を下げる事態は、いわゆる、経済が上手く行っていない証拠でもある。


 紛争耐えない危険地帯。しかし、そのような場所でなければ需要はない。

 平和な場所に傭兵はいない。平和な場所に情報を求む者はいない。

 故に、私達は平和のひと時が限りなく少ない。


 「……戦争の原因が何言ってんだよ」

 「それに、あそこの政治状況は悪化の一途をたどっている。鉱石の奪い合いが元々深刻だったってのもあるが、……まあこっちで言う、民族迫害の傾向が強い。うねりにうねった感情が今にも爆発しそうな爆弾箱だ。

 国境を渡ればすぐだぜ?石や槍が飛んでくるだけだったらいいがな……。ヒューマンってわからねえように、フードと窓は閉めろよ?……つか、今どこに向かってんだよ」

 「シェルレッタの迎え。森を切るのに忙しいから」


 私たちのもう一人の仲間。シェルレッタ。

 ”切り開く者””開拓者”面白半分で考え出した異名が人々の間で広まり、森を開拓するものとして彼女は定着した。彼女が斧を振れば、一瞬で木々は倒れ、更地になり、木々は加工され、この世界でも希少な資源”固定結晶体アーツ”に生まれ変わる。

 都市伝説のような本当の話。

 開拓者と言われる彼女は、そういった仕事を引き受けることが多い。


 「ああ。あの子か。……実に、俺の好みだ」

 「貴方の好みは聞きたくないし、気持ち悪いから窓から放り投げるね?」

 「おいおい速度を落としてからにしろよ?あと、……マイバック忘れたんだが、袋あるか?」

 「……はい」

 「ありがと。……っと、着いたようだな」


 下らない話を続けていると、あっという間だ。


 「よ、シェルレッタ」

 「……誰?」

 「傭兵のラビットドール。RDと呼んでくれ」

 

 先に降車した彼は、手に入れたばかりの弾薬をマガジンに詰め込み、それ以外を背中に背負う。

 指を鳴らす。

 姿を変える。

 元々スレンダーな体格を縮め、私達と同等の身長に変化した彼は、愛用の拳銃と小型ナイフを見せ、誇らしげに構える。耳を生やし、防刃チョッキに身を固めた彼は異名たる”兎の狩人”にふさわしい姿を見せる。その服装には、少しばかりシミが見える。


 北方の化け兎。

 戦場の荒くれ兎。


 彼には、数々の異名があるが、彼のコードネームの所以たるその姿から名づいたモノがほとんどを占める。兎耳を晒し、柔らかそうな毛で覆われ、中性たる顔立ちの兎は、重々しい防刃チョッキも相まって可愛らしい印象を浮かべる。……だけど。


 見た目が人を決めないように。

 可愛らしい姿は、弱さではない。

 それに騙され、被害者として名を連ねた犠牲者だけが数えきれない。


 「……?」

 「ありゃ、覚えてないか」

 「……人の名前を覚えるのが嫌いなモノで」

 「……そういえばそうだったな、お嬢さん。実は俺も同じだ。人の名前を覚えるのが嫌いでね。好きな奴はすんなりと覚えるんだが、それ以外の奴がさっぱりなのは良く分かるよ」

 

 彼にも、思い当たる節があるのか。それともただの独り言か。

 ニタニタと崩さぬ表情でそんなことを言いながら、一方では私に耳打ちをする。反省の色が見えない兎は、次も又同じような事をすることが目に見えている。

 警戒心をあらわにするシェルレッタ。


 「嫌われたか?」

 「嫌われたね。早く帰った方がいいよ?この前、開拓式パンジャンドラムで……」

 「パンジャンドラムで?……気になるな」

 「……あれは大変だった」


 思い出しただけで寒気がする話だ。

 聞かない方がいい話だと察したのか、ラビットは”大変だなお互いに”とポツリと答えた。私が苦労をしているのは認めるが、お互いの部分は認めない。そんな意味を込めて、彼を蹴る。

 苦悶の表情を浮かべる事は無く、ラビットは冗談交じりに痛いと一言。


 「……それにしても、これ全部シェルレッタがやったのか?」

 「ン。これ全部ね」

 「すげえな。……それはお前らの誰にでもいえる事だけどよ」

 「謙遜は、時には悪口になる」

 「謙遜じゃあねえよ。思ったことが口走っただけだ」

 「……気を付けて」


 ラビットは、ポケットから煙草を出し、古めかしいライターで火を付けた。

 私はそれを止めることなく、煙を見ることなく踵を返して車内に戻る。狭い室内は、私が運営している武器商人としての武器弾薬で埋もれている。わざわざ箱で寝そべるシェルに、私は小言を垂れる。

 車の運転が得意なラステラ。

 森を開拓するシェルレッタ。

 そして、武器を提供する私。

 

 三人は友人であり。この場所の共同管理者であり。

 この車の名前ともなっているクラフトノーツという組織を運営している。


 クラフトノーツは、この世界に紛れ込んだ転生者が組織している団体の一つ。

 武器や貴重品の提供。クラフトノーツ会員同士の情報提供サービス。及び、会員同士の依頼の仲介。それ以外にも、小国からの依頼を引き取り、転生者にクエストとして掲示したり。こちらで対処可能な会員を探し、適切な人物に依頼を引き受けさたり。自分たちで解決を行ったり。

 各町にはクラフトノーツの一年スケジュールが掲載されており、会員はそれを確認し、移動先にて、サービスを受ける。

 そのほとんどが、ラビットのような傭兵。冒険者も複数人はいるものの、利用するものは少ない。現状、クラフトノーツが扱っているものは、現代兵器を中心としたものであり、剣や槍などの長物は取り扱いを行っていない。

 なので現状。私達が利益を上げられるのは、国からの依頼と、私のエフェクトスキル。”現代工学制作クラフト・ビルド”による、傭兵への武器売買。そして、シェルレッタが蓄える”固定結晶体アーツ”という訳だ。

 

 「依頼はこれぐらいでいいの?」

 「随分と切ったね」

 「森の半分も開拓していない。……この森全てには遠い」

 「大丈夫。これくらいでいいんだって」


 葉巻を愛用する彼女から葉巻を取り、その火を消した。

 これから車内に戻るのだから火は厳禁であることを何度言っても直そうとしない。彼女が覚えることがあまり得意でないことも相まって、強く言えない代わりの実力行使。不機嫌な表情を見せるシェルレッタに対して、私はジト目で答える。


 「やあ、シェルレッタさん。ご苦労様です」

 「……」

 「依頼人のガトさん。……もう一度聞きますが、農地に必要な面積はこれくらいで大丈夫ですね?」

 「ええ。いや、思った以上に整地してくださり感謝の至りです。……本当に彼女一人でここまでの木を切ったのですか?」

 「彼女はこういうのが得意なんです」

 「そうですか。……いやはや本当にご苦労様です。……ところで、例の話なのですが」

 「中で行いましょうか?」

 「……それもそうですな。失礼しました。では、お先に」


 礼節に欠かない老人は、そういって車内へと戻る。

 私はそれに沿うようにシェルレッタの袖を引っ張った。

 人形のように、味気が無い彼女は素直に従う。









 変わらない雲。

 変わらない日。


 私たちは、何時ものように生きている。

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