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CRAFT/Notes  作者: 式式
ルシア城町要塞戦
18/56

クラフトノーツの逃走

私は武器を持つ。

だけど、武器を使ったことは一度もない。使い方も知っているし、構造も知っている。だけどそれを向けた事は無い。私は、人を殺したことが無い。



人の殺し方を知っている

だけども、この手を汚した事は無い。


それでも。



間接的なそれを売っている私は、現在進行形で汚れている。

 肌寒さが続くこの頃。

 袋を抱きかかえ、誰しもが俯くように上る坂道を進む。


 その日、帰路を歩いていた。

 インカムからは友人たちの談笑が聞こえる。興味深さと多様に含まれるジョークを二分割した会話。彼女達との話は実に面白い。軽快に語ることが止まらない程度には。

 商業的に大成功。この紙幣で何を買おうか。そんな話で盛り上がっている。


 ……そして、それは襲ってきた。


 一回り以上の巨体。

 少なくとも一般人には見えないローブに身を包んだ男。

 隠れるようにして見える肉質から、その手のものだと一瞬で理解する。強盗、不審者。そういった類の関わりたくない存在は、一直線にこちらを捕まえようとしてくる。

 とっさに除けようにも、多量の札束が手を塞いでいて、何時もよりも体が重い。

 ……血走った目からは、会話が困難だという事が分かる。


 「っ!」


 思わず袋を捨てて、大鎌のように振りかぶった手を除けた。袋からこぼれた札束。しかし、周囲の人間は誰一人として異常を認識していない。……それは明らかに異常な事態だ。

 手ごたえを感じなかったのか、大男は方向と共にこちらに向かってくる。

 その手は確実にこちらを狙う。

 そうして、その手が触れそうになった瞬間。


 タン


 乾いた音が聞こえた。



 談笑。

 乱雑な足音。

 軽快な荷馬車。

 

 日常の音の中で生きる人々。

 そんな日常は、決してありえない音と共に、異常へと変わる。

 最初に気付いたのは、親の手を引く子供だった。


 「え?」


 その子に、倒れ掛かる巨体。不意の事でよけられなかった少女は、自身に浴びせられ、塗られた色鮮やかな色彩を見る。紺色の鮮やかな色は、周囲に鉄の匂いを発した。

 文字通り、首無しの巨体は、動脈からの多量の血を噴水のように噴き出す。

 赤く 

 紅く

 朱いそれは、生温かさと共に現実を見せる。


 「……!」


 顔色を変えた少女は、すぐさま声を上げる。

 奇声、罵声。いろいろな感情が含まれた声なき声は、周囲の人々に伝染していく。悲鳴と共に、その場から離れる人間。何が起きたか分からぬ野次馬達が、なんだなんだとその光景に吸い込まれていく。手早く現金を回収し、逃げ惑う流れに沿ってその場を離れた。

 一連の騒動に頭が回らない。

 インカムからは友人たちの声が聞こえる。しかし内容は周囲の声に掻き消される。


 とにかく、ここを離れなければ。


 人通りが少ないわき道を通り、記憶を辿って合流を急ぐ。

 その度にすれ違う人々は、先ほどの悲鳴が気になるのか世間話と現場へ向かう人間で分かれていた。


 先程襲った大男は、どう見てもフェルナンドに住んでいる体格ではない。あの顔立ちはアナスタ国の人間によく似ている。

 つまり、アナスタ国の人間が、この国に紛れ込んでいる可能性が高い。

 連中の狙いは分からないが、合流を急ぐ理由には十分になり得る。細足に取り付けられたホルダーからガバメントを取り出し、角を確認しつつ慎重に進んだ。人込みは事件現場から遠ざかる程に、その波を減少していき、友人たちの声も多少聞こえる。

 周囲の状況を端的に伝えつつ、合流場所に急ぐと答える。

 片腕は荷物で塞がっていた。

 両手持ちじゃあなきゃあどうしても扱えない代物でも、我慢するしかない。


 標準を向ける。

 誰も居ないことを確認。


 小走りを続けていると、肺は鉄の匂いを覚え咳き込みそうになる。どうにか我慢しようにも、自身の体力逃げ宴会が生じようとしていたその時。

 目の前に、友人の姿を確認した。

 インカムからも声が聞こえる。


 「こっちに急いで!」


 もう少しだと確認した。

 痛む足をどうにか踏ん張らせ、鉄の匂いを香らせる肺を黙らせ。呼吸を続け、どうにか歩こうとした。

 前だけを向いて駆けていた。

 それと共に、”あの情景”が頭に浮かぶ。


 「っは! ……っ!」


 吐きそうになる胸を締め付け、どうにか堪える。

 吐き出しそうになるそれを堪えて、どうにか通常に戻すために上を向いたんだ。




 そして



 大きな太陽を見た。




 一瞬、それが何なのか理解できなかった。

 太陽だと思った。大きな太陽だと。

 しかし、太陽にしては……。



 「後ろ!!」


 

 その声で、我に返る。

 友人たちの急いでという言葉は、真上のそれの事ではない。

 もっと身近にあった危険について、彼等は叫んでいた。

 それを自覚しない私は、立ち止まった足をどうにかできる訳も無く。

 その時にはもう、幹のような手が迫っていた。



 「させる訳ないよねぇ。残念賞」


 その”手”が吹き飛ぶ。

 その手には、銀色のメスが握られていた。

 愛用の白衣に身を包んだ人物は、私の方を一瞥すると口角を上げ、耳元に備え付けられていたインカムに応答する。会話の主は分からないが、それが彼等だとは一瞬で理解した。


 「こちら部長。目標の安全を確保。スナイパーはそっちの援護を宜しく。こちらは一人で十分だ。………二人捕まえた?それは良かった。こっち傷物にしちゃったからさ。そっちを尋問するね。こちらで処理をするから、そのまま維持兵さんにお願いしてくれ。上空のあれは、君たちで何とかしてね?頼んだよ?」


 通信を切る。

 迷わず首をこちら向ける彼の表情は、相変わらず不気味なほどに晴れやか。


 「さーて。……期待しますか」


 目の前の人物は、彼等をまとめるリーダー。

 災害の目。紅茶を愛する男。ティーン。


 「やあ、奇遇だ御嬢さん方。危ない所だったね。」

 「……部長さん。どういう事?」

 「どういう事と言われても。こういう奴らが君たちを狙っているらしいって情報が来てさ、しょうがないから、勝手に護衛した。」

 「逆に、それで説明になると思う?」

 「君は随分疑い深いね。嘘偽りないよ」

 「ラド君とかだったら疑わないよ。でも、君。前嘘ついたでしょ?」

 「アレは水に流してほしいな。しょうがないだろ?君たちの為なんだから」

 「そのツケが今来てるの。……分からない?」


 上空を指さす彼。

 その先には、先ほどの球体。


 「それよりも”アレ”だ。お嬢さん方。”アレ”は何だと思う?」


 火の玉。

 そう呼称するのに、それは適切だった。


 「ただの”神様”さ」


 彼は、そう語った。

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