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CRAFT/Notes  作者: 式式
ルシア城町要塞戦
14/56

クラフトノーツの銃身 後編

輝きを増すその刀身は、輝きの上で成り立っている。


喝采を!

彼女にありったけの喝采を!

民衆よ彼女を見よ!

大衆よ彼女を見よ!


彼女こそが、美しき刀身なのだから!

彩色煌びやかなステージと共に、その身に大いなる念を込めて。




「ですが、最後に彼女はそれを望まなかった」






私は。

私の鮮やかなステージ上は。


常に、此処あのばしょだけになったのだから。

 そうこうしているうちに時間は進んでいたらしい。

 店の奥から、立派な白髭を携えた老人が此方に向かってくる。

 この国の宝。至高の鍛冶屋の一人とされる老人は、威厳のある眼光で彼らのけんかを止めた。か弱そうな老人とは思えない気風に、野次馬の声も止まる。

 名を、炎爺。

 炎に愛された、最高の鍛冶屋。炎熱亭の創業者。


 「宝石、兎。……店の中で喧嘩をするな」


 その眼光に、とても困り顔で答えるラド。

 それとは反対に、姿勢を崩さないホウエイ。


 「宝石。お前の剣だが、ステータスが上限を超えている。……何を食わせたらそんなになるのか知らんが、程々にしておけ。背伸びは身を亡ぼすぞ?」

 「実力だよ実力。炎爺」

 「それと兎。アレはもう駄目だ」


 アレ。

 あれ。


 それは間違いなく先程渡した短刀。私の目では何処が悪いのかわからなかったけど、どうやら刃が欠けているらしいもの。彼のナイフは、この炎爺の作品の中でも一二位を争うほどに丈夫な筈だ。それが欠けてしまう事も驚きだけど、直せないレベルとなると……。


 「……マジで?」


 ラドも、焦ったように答える。


 「お前さん。刃物をきちんと整備していないだろ。あの剣は錆びやすいと言っておいたはずだが?」

 「……あー。マジか。……修理不可能?」

 「修理不可能。もう戻らない。分かる?」

 「全然オッケーじゃあねえんだけどさ。……マジか。気に入っていたんだけどな」


 ……こいつの性格だから、雑にあつかっているのは確定だ。


 「それでだ。お前さんの新しい剣だが………。おい、こっちにこい」


 炎爺は扉を示し、店の奥に入る様に招く。

 私達はそれに従い、野次馬達を通り過ぎその場を後にした。

 様々な武具が飾られている廊下。剣だったり、斧であったり、鎧であったり、盾であったり。様々な種類。様々な用途のそれらは、一つ一つが一級品のそれだ。彼の職人としての腕は、その名声をこの国にとどまることなく、様々な弟子と共に語られている。彼が積み上げてきた作品達には、しべ手思いが込められており、間違いなくこの世界の住人である彼は、異世界人だろうがこの世界の住人だろうが、贔屓なしの商売をする。

 そして、彼は誰よりもこの町を愛している。

 

 長い廊下を抜け、職人たちの工房が見える。

 其処は熱さが支配する世界。腕を振り、打ち続け、形を成す職人の世界。ガラス越しだったけど、その気迫はこちらまで伝わってくるようだった。

 工房への入り口とは違う別の扉、それを炎爺が開けると、其処にはガラス製の台座に一本の剣が置かれていた。そしてその横には、恰幅のいいノームさん。


 「ちょうどいい素材が数日前から入荷してよ。それを基に作成した短剣が、今し方完成した。二年半をかけて型を生成、色々と工夫して材料が全部そろった」


 ラドは、それを受け取る。


 元手の鉱石は常に流動し、鼓動し、暗い影が波打つように蠢いていた。

 そのナイフは、はたから見ても異質のように思えた。剣先が暗く、濁っていて、普通の剣ではない雰囲気を持つ。暗い暗い側面には何やら文字のようなものが書かれていて、それが魔術的な文字であることは一目瞭然だ。


 「見ろ、魔術師殺しだ」


 炎爺は、静かにそう言った。

 その小刀は店に飾られるどの製品よりも異彩を放っている。

 

 「対魔術師に特化した短剣でな。七号鉱石っていう鉱石をあんた等が運んだノーツで強化改修した。こいつらの中で一番の暴れん坊だが、あの、オリハルコンに迫る短剣でもある。

 七号鉱石の性質は”分離”だ。何でもかんでもお構いなしに引き離す。唯一つの鉱石を覗いてな。要は、功績としての硬さではなく、性質上において”分解し離れさせる”って話だ。……間違っても自分で触るんじゃあねえぞ?後、こんなところで振り回すなよ?」


 ノームさんはそれだけを言うと、あとは仕事があると仲間たちの元へと向かった。


 「切る。じゃなくて分離か。……なんか、かっけぇな!」


 「一応。リミッターとしてこっちで術式を入れてある。力を入れると効力を発揮するからな?後で使い方を教えてあるから、明日もう一度来い」

 

 それを見たラド。

 私は、その反応に心当たりがある。


 「おお!かっけぇ!!」


 それは、好奇心。期待。その他諸々な感情が混ぜ合わされた、子供のような反応。

 子供のおもちゃに対する反応と相違ない目の輝きを見せ、鞘と刀身を見比べ、まじまじと見比べている。口元は明らかに緩んでいて、聞く耳を持っていない。


 「こいつはお前の相棒も入れてある。」

 「形?」

 「それも似せた。だが、一番の特徴は物質としての混合にお前の短剣を混ぜているんだよ。此奴にかけられている術式の名が”思い”だからな。

 お前の思い入れの分、その剣は力を貸してくれる」


 ノームさんは、その反応に満足しているようだ。

 彼は客が喜ぶ製品を作る事に生涯を掛けているらしい。

 自身の作品が手元に渡り、このような反応をされるのが何よりもうれしいのだろう。


 「……ところで、ニアさん。」


 「なんだ?」

 「前の短剣の名前って、なんだっけ?」

 「ああ。確か……」


 確か、酷い名前だった気がする。


 「お前の名は、ドラゴンソード二号”デストロイヤー”だな!」


 記憶の違いでないならば、彼の名称に対するセンスは壊滅的だという事を知っている。

 打からそのような名称を口にしたとき、唖然としない代わりに納得をした。ある意味センスの塊で脱帽しか感じない。


 「それはあらゆる魔術、物理に対して効力を発揮する」

 「ンで?今手持ちあんまりないんだけどさ」

 「そいつはくれてやる。……だから、お前は仕事を全うしろ」


 その老人は、確かに仕事を全うした。

 その言葉には、何か、普通に返してはいけないような重みがあった。

 人生の重み、今迄の重み。全部が詰まった其は、軽く返してはいけない何かがあった。


 それは、ラドに伝わっているのか。

 子供のような目をしていたラドも、その言葉に表情を変える。




 「この町を、守ってくれ」


 ただ一言。

 哀愁と重みを言葉にのせた彼は、それだけを答えた。



 「……ああ。炎爺。おっさん」



 ラドは、短剣を胸に当てそう答える。



 息苦しくなった私は、……重苦しい空気に嫌気をさして、少しばかり息を吐いた。






__________





 多量の札束を袋に詰め、それを背負い場を後にする。

 肌寒い季節には変わらない。手袋を常備していなければやってられないと愚痴をこぼして、ため息ばかりの自分自身に嫌気をさしていた。棚引くような雲が印象的な午後の日。付き人となったラドは、晴れやかな笑顔を続けていた。

 四か国協定のおかげで、この国の貨幣は国の国債の代わりに発行されている。これは、流通、情報、人員の移動が自由に貿易として有る四か国内で、確かに信頼されている共通の貨幣だ。他の国でも、十分に貨幣として活用できその信頼性はかなり高い。


 「……随分暢気だね」

 

 思いがけず、言葉を溢す。

 彼等から語られたのは、ラドに対する信頼であり”責任”だ。

 炎爺たちはこの街を見捨てないだろう。この街の人間は、この町に対しての思い入れが場に強い。それは、何年間も支えたこの壁同様に、彼等の在り方は此処で固まっているから。……そういう解釈もできる。実際はその通りなのだろう。大半の人間はそれしかないのかもしれない。

 ……しかし、他人が何を歩んできたのかは真に分からない。

 ……同様に、その思いがどれほどのモノかは曖昧だ。

 私は不謹慎だと言ったつもりはない。

 だけど、その言葉は、その通りの意味を持つ。


 「辛気臭いままで何かで来るのか?それだった、口角を上げて余裕を見せるほうが格好がつく。嘘でも現実的でなかったとしても、それが出来なくなったら人間は終わりだ

 少なくとも俺は、この町を守る気でいるさ。傭兵は報酬のために働く。こんな上等な報酬をもらっているんだ。その分の仕事をしなければ”傭兵”の意味がない」


 ……傭兵は、そう語る。

 ラドにとって、それは借りではなかった。それは彼にとって報酬であり仕事の一つに過ぎない。

 徹底的に現金な彼に、私は少しばかり理不尽に怒る。拳で腹を軽く殴り、笑顔に準じる彼に抗議をする。


 「それって、傭兵であるために戦う。……って話?」

 「そんな哲学的な話をしてんじゃあねえ。報酬を前払いされたから働く。払わなかったら働かない。価値なんてのは、自分で付けるって話だ。それが、仕事ってもんだろ?」


 それは仕事の反中でしかない。

 分かっていたはずの答えに、……それでもと声を上げたくなった。


 「……君は期待されている」

 「……急にどうした?らしくない事ばかり聞いてきて」


 彼等は、英雄になれるだろうに。

 その力があるだろうに、傭兵に準じている。

 それは彼ららしさであり、私達の出る幕ではない。


 「私のらしくないは、君だけの視点の話。私のらしさは、私だけの物だよ」

 「何だそれ?」

 「自我が主導権じゃあなきゃ、やってられないって話」

 「……お前の話こそ、哲学的だな」


 それが歯がゆくて、もう一度殴る。

 ラドは相変わらず崩さなかった。

 その上で取り出したのは、ラド曰く質の悪いタバコ。そして愛用のライターを取り出し火を付けようとする。前筆の通り私は少しばかり不機嫌だった。

 だから、渡井は普段言わないようなことまで口を挟む


 「タバコ。止めたら?」

 「健康の為か?」

 「少なくとも、それをしていてロクな死に方をした奴を見たことが無いから」

 「なんだ?タバコがフラグになる事があんのかよ?」

 「肺をやられることは確定事項でしょ。あんたがいつまで生きるのかは興味ないけど、その煙も匂いもうっとうしいからやめてほしい」

 「今更受動喫煙心配してるのか?」

 「止めなかったら、打つよ?」

 「ハイハイ、お前の前ではやらねえわ。」


 苦笑いを繰り返しながら、それらを仕舞うラド。

 今更受動喫煙なんて気にしてはいないけど、嫌な気分になるのは変わらない。


 「ところで、最近の景気はどうだ?」

 「……悪いとも言えないし、いいとも言えない。四か国協定が生きているから、大型のお客様には困らないし、アーツの売り上げも悪くはない。……まあ、唯、最近妙に知り合いの様子はおかしい」

 「おかしい?」

 「最近の主流が戦略的な兵器の方を求めている。地雷とか、機雷。さすがに対空ミサイルとかそんなのは降ろしていないけど、そういったトラップが多くなっている。しかも、どこも注文を下すのは貴族や国が多い。転生者に対しての派遣要請が少なくなっているんだ」

 「国はともかく、貴族が?……大体そいつらは、何で地雷を知ってんだ?」

 「しかもどの国も、契約解除の要求や規模縮小を語るバカばっか。……今回痛かったのは、四か国連盟がその要求を正式に要求してきた事」

 「……国との取引は面倒くさいと言ったのは、確か俺だよな?」

 「これから、そのまねをしようとする奴が出ないか胃が痛い」


 具体的にいうと、吐き気が出そうなくらいだ。

 売り上げの増減はどうだっていい。……正確にはどうだってよくはないけど、取引先が減るよりはましだ。何せ、取引先の数ほどお私達には利用価値がある。……しかし、ここ最近はそれを利用しようとしている輩が目立ってきている気がする。


 「ま、大半がお前らの情報と人脈に頼っているから、それはないとは思うけどよ。……そっか。思っていたよりもひどいな」

 「……どういう事?」

 「最近、異世界人に対しての抗議が多発している。しかも、それは若い貴族の間でだ」

 「……」


 若い貴族の間で……。

 年長の貴族の場合、保守的なモノが多い現状は知っている。しかし、最近の動向までは把握していなかった。


 「自らの地位の転覆。その他諸々が影響してるんだがな」

 「その他諸々ってなんだよ」

 「端人はずれびと問題。そして、転生者による略奪横暴。中世のヨーロッパって感じだ。やはり、もう少しばかりまとまったルールが必要らしいな。……この世界は特に」


 端人。自らの隙色をうまく運用できなかった転生者が抱える問題の一つ。

 転生者には、各一つづつ固有のスキルが分けられるのだが、端人はそのスキルをうまく運用することが出来ず、その多くが放浪者、または厄介者として扱われることとなった存在だ。そして、この世界の中で、転生者による掠奪問題は、先の問題と併せて危険視されている。

 転生者を罰則する法律は各国ごとに違い、ある国では無法地帯と化しているところもある。例を挙げるとするなら、アナスタ国の現状がこれに近い。

 しかし、アナスタ国については、転生者に対して後れを取っている訳ではなく、その国家を数百年維持してきた実力が折り紙付きであり、一転生者ではどうにもならない強者たちがいる。


 この世界は、特にそうだ。


 帰路が見える。

 彼は町はずれに野暮用があると語る。



 「ラド」


 少しばかり、襟を正したくなるような風が吹いた。

 季節の候を実感し、そうして言葉を紡ぐ。


 「また、明日」


 彼らがいつ攻めてくるのか、それは予測できない。

 それは明日かもしれないし、半年後の話かもしれない。

 その時、私達のどちらかは居なくなっているかもしれない。この世界では様々な事が多様に起きる。それを否定する事は出来ないし、あり得ないと一掃する事も出来ない。すべて十分にあり得る話は、可能性の上でごく少数かもしれない。

 だが、残念ながら。あり得ない話ではないのだ。


 「おう。じゃあな」


 今日を生きるラドは、いつも通りだ。

 いつも通りに、表情を和らげる。





 今日も世界は平和だった。

 だけど、それは明日の話ではない。


 互にそれを理解している私達は、出来る限りその言葉で互いを労う。



 私達は、そんな関係に過ぎなかった。

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