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CRAFT/Notes  作者: 式式
ルシア城町要塞戦
13/56

クラフトノーツの銃身 前編




銃身が焼け付いたとしても、刃はその冷たさを失わない。

熱を帯びた彼と、表情の様に振舞う彼女の違いは、明確にそれだけだ。



弾丸に意思はない。

刀身に意思はない。


しかし、其処に思想はあり。

我々は、思想によって殺される。


明確に向けられたそれらの意思は。

ただ、持ち主だけのモノなのだから。





 何も、変わらない。







 その日は、息を吐きながら重い荷を背負っていた。

 切り倒し、解体し、加工した荷。

 フェルナンド西部。堅牢を謡う城の中は、如何にも通常な人間は見当たらず、私の背丈と性別を吟味し、隙あらばねらって来るような浮浪者で溢れていた。どの町も、どの国も変わらない。いつも正しい情報を持つ名家はすでにいない。一般住人は、施錠し家から一歩も出ていない。大通りはひときわにぎわっているけど、その多くが疎開の為に荷物をまとめている人間たちだ。

 門番に対して侮蔑を含めたヤジを飛ばし、強硬に門をくぐろうとするものが、また一人、大人数の治安維持の対象として捕まる。荷物検査で、紛れた子供や親御が懇願しながら泣きわめく。


 彼らは、腕を振る。

 木の棒には殺傷能力が無い。痛みを伴わせ、諦めさせる為の武装だ。

 故に装飾品なども無く、簡素なそれは、何か薄黒い物だけがこびりついているのが分かる。


 腕を振る。

 腕を振る。

 腕を振る。

 腕を振る。


 子供を守る様に背中を丸めた母親は、ようやく諦めるようにして其処を去った。

 私に出来る事は何もない。それは私の仕事じゃあないし、私達の仕事ではない。

 私達は武器を売り、開拓を進め、情報を売る人間だ。私達に出来る事は、この国の治安を守る事ではない。この国の治安は彼等が守り、この国は彼等が成り立たせる。


 私は、その光景に息を吐く。

 私は、決して善人ではない。


 結果を知っているから、見て見ぬ振りも出来ない。ただ、それを見ている事しか出来ない。複雑に考えているようで、自分は当事者ではないのだから考えていることは至極簡単だ。ご愁傷様と心に思いながら。何も言えず、行動も出来ない。

 私は、ただ息を吐く。


 もし、今天罰が与えられるのなら。

 もし、今の自分に相応の害が与えられるのなら。


 神様さえ信じていない私は、それを甘んじて受けるのだろうか?


 「辛気臭い顔だな。……何かあったのか?」


 ……成程。これが、天罰のようだ。

 其処に居たのは、タバコをふかす長身の男。幼い顔立ちが特徴的で、自身が愛用しているニット帽を欠かさない。彼がそれを外すのは戦場にいる時。……この情景が広がるここは、彼にとっても戦場ではない。

 彼はそれに気付いたのか、わざとらしく片手を揚げて挨拶としていた。

 見て見ぬふりを続けようにも、そんな気力も残っていない。


 「……ストーカーしに来たの?今日は、生憎個人的な休養なんだ。クラフトノーツの仕事を含まない時以外、貴方ラドの顔なんて見たくない。」


 軽口を多用する彼は、特異の軽口を挟みながら語る。

 

 「ちょっと心配でな。ここら辺は思った以上に治安が悪いのに、お前が一人で行動するのは珍しいからよ。保護者感覚で見かけっちまって、……後は成り行きだ。気にするな。」

 

 何が、成り行きだ。

 この男はいつもそうだ。成り行きを多用して、傍に居る事を好む。

 私たちの関係は他人に相違ない。私たちの境界線はハッキリしている。

 

 「それに、換金しに行くんだろ?変な奴に絡まれたら、お前だけじゃあ何もできないんじゃあないか?今日は俺もオフでな。デートとしゃれこもうぜ?」

 「……君はもっと、女性の扱いを心がけてほしいね。」


 何時もより悩ましそうな表情を浮かべている。

 それは互に同じで、うまく言葉が出なくて独り言のように呟く。


 「どう誘っていいか分かんねぇんだよ。……察しろ」

 「察する訳ないだろ。……諦めろよ」


 互に、今日も主張は食い違う。

 もどかしさをどうにか飲み込んで、仕方がないと息を吐いた。

 ラドの主張にも一理ある。町の様子は、通常時のそれとは違いある種の熱気に駆られており、それは人々の不安に基づいたものであるなら、外から来た人間に対していつも以上に排他的になるのは目に見えている。

 しかも、今回は他の国からの進行が近づいており、十人を解放しない領主に対しての怒りは、日に日に積り、暴徒化がチラホラと見れる。

 

 分かってはいるが、ラドに頼むのが癪なのもある。

 実力は信じている。

 だけど、頼りたくはない。


 ……もどかしい気持ちで、裂けそうだった。


 「……これ換金したい。手伝って。」

 

 諦めながらそれを言うと、彼は子供のように元の表情を浮かべる。

 それは晴れやかな笑顔であり、構ってほしい子供のそれに等しい。

 

 「おう!」


 子気味良い答えで了承をしたラドは、私が重く感じているそれをいとも簡単に持ち上げ、何時ものくだらない話に花を咲かせていた。

 対する私は、何時でも減らない溜息を吐きながら、それでも何処か何処気の晴れた心情だった。何がどうとか理由を説明できるわけではないけれど、それは確かに悪い気はしない。


 

 何も変わらない。


 私は、歩いている。

 横には常にだれかが居る。


 私は常に一人ではなかったし、一人きりの時間がそんなに好きじゃあないのを知っている。

 専門的な用語を並べるラドもその一人だったし、私の友人に関しても例外ではない。私は決して善人ではないが、不幸せというには若干物足りない時間を過ごしている。


 それは私の罪滅ぼしにはなり得ない。

 私の罪は一向に溜まるばかりで、返済を迎えることを許さない。





 そんな中でも、”今日”は確実に過ぎていく。









__________







 繁華街。

 道行く人たちは各種様々だが、どの顔もあまりに忍びない。

 四方を高い塀に囲まれたこの街は、またの名をルシア城町といい、難攻不落の要塞都市として名を馳せた。

 堅牢な外壁は、魔術的に価値の高い魔法石が内部に埋め込まれており、対魔術的攻撃、物理的攻撃に対して効力を発揮する。十年前の戦争もそれが効力を発揮し、死傷者は出ず。彼らは堅牢なこの町で、穏やかな日々を暮らしていた。

 ………それは今になっても変わらない。


 戸締りをしている家々は目立つけど、それでも人通りは激しいままだ。

 矛盾のように思われるかもしれないけど、町に残された人間の半数は北フェルナンドに疎開することが出来なかった南フェルナンド人だという事を含めると、辻褄があう。

 宿屋を含め、狭い敷地内では選別した難民への対策としてキャンプが建てられ、対応に追われている。彼らが持ち込んだ大量の穀物は、すでに城内に保管されており、これを基に争いは起きる事は無いだろう。物資の搬入も、北フェルナンドから譲り受けた大量の荷馬車が執り行っている。

 籠城戦の格好になったこの町は、今まさに、戦火の炎が近づいている。


 「……お邪魔します」


 いろいろな雑貨などを取り扱う店が立ち並ぶ。

 シェルレッタが作成する希少な資源”固定結晶体アーツ”は、武具の強化、並びに物質の強化に繋がる希少資源だ。アーツを多く取り込んでいる物質程、その頑丈さとそれ自体が持っている魔法的要素が強化される。……つまり、強化素材のようなモノ。

 この物質は、希少な鉱山からでしか採掘できなく。又、それによる市場価格は金を超える流通価値となっている。微小でしか取れない為、クラフトノーツ結成以前の世界では、観賞用としての側面が強かった物体だ。

 それが、彼女の能力で大量生産できるようになり、その時期から、他の傭兵や冒険者も似たような能力を開花させ、市場価格は多少高騰な物質程度に収まる事となった。実際、大きな国であれば、戦力の拡張として、優遇される取引になる。


 私が今居るこの店も、その一つ。

 フェルナンドにおける大手武器屋。このあたりの傭兵や、兵士の武具を調達し、各個人にオーダーメイドとして取り扱う。その店主は恰幅がよさそうな図体と、人当たりの良さの両面を持ちながら。私たちに声を掛けてきた。


 「おお。兎にクランじゃあないか!久しぶりだなぁ!!」

 「ノームさん。久しぶりです。」

 「よう!おっさん!くたばってねえか見に来たぜ?」


 煙草を欠かさないラドも、それに乗じて言葉を語る。

 互に愛好家である彼らは、その道でも仲がいい。


 「お前よりも先に死ねんからなぁ。二人一緒ってのは珍しいな。今日はどうした?」

 「固定結晶体アーツが手に入った。換金してくれないかな?」

 「いつもすまんな!数は?!」

 「四千。それと、彼のナイフを見てほしいって。」


 彼が私を理由についてくるのには、もう一つ理由がある。

 それは、先の戦闘で使用したナイフの復元。ラドの愛用するナイフは劣化が異常に早い。耐久性は問題ないのだが、使用したのちは専門の業者に見せなければならない。

 彼の愛する相棒の性質上の欠点だが、彼はそれを手放そうとしない。


 「うれしい限りだ。ところで、兎。……お前、又折ったのか?」

 「歯が欠けっちまってな。俺が悪いんじゃあなくて、あいつらが固いだけなんだよ。後、ナイフがすぐ脆くなるだけ。もっと頑丈な奴ないの?」

 「お前が持っているそれは、うちの商品。……いや、どの国で売られているナイフで一番固いはずなんだぞ?お前が雑に扱うのが悪いんじゃあないのか?」

 「今度はオリハルコンを両断できる奴にしてくれ。それかあれだ。ひと振りで山とか切る奴」

 「アレは聖剣と言ってな何もかもが特別だからなぁ」


 しみじみと語る武器商人は、そのナイフと私の袋を預かり、奥の工房へと足を急ぐ。たくさんの職人がせわしなく働いており、休む暇もないといった感じだ。


 「ま、俺は切れる奴なら何でもいいんだけどさ。鍛え終わったら言ってくれ。銭感情もついでに二人で待ってる。」

 「おう。ちょっと待ってろ。お二人さん」


 私はその言葉に従い、様々な客で入り乱れる店内の端を占拠する。

 何もかもが場違いな空気に、少しばかり気圧されそうになるけれど、どうにか虚空を眺めて気を紛らわせていた。……これが特に苦手だ。換金をするのにはこういった専門の店に行かねばならず、そういった店の大半は私のような人間が浮いてしまう場所。

 ……その意味では彼がついてきてくれるのはありがたいし、感謝はしている。

 ……だけど。

 その時、ラドに対して飛んでくるものがあった。

 煙草に夢中だったはずのラドはそれに対応。軽く身をよけて躱し、裏拳を叩こうとする。しかし、それは空を切り、店の壁を壊す勢いで風圧だけを見せる。

 其処に居たのは、彼と同じチョッキに身を包んだ傭兵。

 そして、傭兵の袖をつかむ十台前後の少女。


 「相変わらず辛気臭い顔しているなぁ!うさぎぃ!!殴り殺すぞ?」

 「おやおや君は野ネズミさん!相変わらず顔立ちだけがいいなぁ!殺していいか?!」

 「……」


 中指を立てることを挨拶とすると、彼らは拳を交える。

 互にはなった一撃は、互いにすべてを受け止め、その迫力は拳かというよりも果し合いに近い。店の中でそのような事をするのだから、やじ馬が此方を見て、私はひときわ浮いた場所にいて。

 ……そして、それを止める手段も無かった。このまま放っておけば、互いが尽きるまで止める事は無いだろう。ヒートアップし、誰もが止められなさそうになる前に、それを制したのは細腕の彼女だった。

 

 ……無反応を貫く彼女は、感情を読む事は出来ないけれど、細腕で両社の腕を止めた後。端的に言葉を述べる。


 「ますたー。ここはお店の中です。じゃれあいはよくありません。」

 「……っち。……って言うか、お前らも来てるのかよ?」

 「お前とは違って勅命だからな!国からの報奨金をたっぷりもらった奴だ。……ところでお前。そいつは誰だ?」

 「俺の彼女。」

 「お前に彼女がいる訳ねえだろ?」


 「おい、表出ろ。久々に殺す。」

 「あ?やるか?」



 またもや険悪な雰囲気に戻る。

 溜息が尽きる事は無い。私は居を決して間に入り、自己紹介を行う。


 「エーテルノーツのクランです。……貴方は、彼の”お友達”の方でしょうか?」

 「認証。データを検索。エーテルノーツは、様々な産業に進出している複合企業です。詳しいデータを閲覧しますか?」

 「……ああ、お前らが贔屓にしているあの。……大変だな嬢ちゃん。そいつに惚れられてよ」


 指を刺された彼はこぶしを振る。

 それをあっけなくよける傭兵。


 「……ンで、お前らは何しに?」

 「武器の強化だ。お前もそれで素手なんだろ?」

 「お前一人ボコるのは素手で十分なんだがな」

 「脳内でやってろ、カス」


 そんな会話を繰り返して、またまた戦闘状態になろうという所。

 名の知らぬ彼女が、傭兵の袖を引いていた。


 「ますたー。武具が完成しました。性能を閲覧しますか?」


 彼女の手元には、何時の間にやら長剣が握られている。

 木製のさやが印象的なその剣は、どこかで見たことがある。


 先程から機械のように問答しているこの少女。

 長剣を使い慣れた、彼と同じ傭兵。


 ……確か。




 名を、ホウエイ。


 国を滅ぼした、英雄だった。


 



 


   




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