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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幸せな夢

作者: summer




それはそれは昔の、とある国のお話。

その国はとても活気に溢れ、きらびやかで他国にも大きな評価をもらうほど美しい国でした。

今回はそのお城の今年18になるお姫様の物語で御座います。





お姫様はとても好奇心旺盛な少女でした。宝石などには一切興味がなく、王族としては少々困るような行動を取り、使用人達を困らせることもしばしば…、ですがそんな元気で明るいお姫様の可愛らしい笑顔を見るのがこの国の楽しみでもありました。

そんなお姫様がある日突然、街に赴こうと言い出しました。使用人は危険です、それならば護衛を、とお姫様に進言しましたが、お姫様はそれを拒否し、すたこらさっさっと、お城を飛び出し街の方へと駆けて行きました。








街へと飛び出したお姫様は街の風景や人の様子を見渡し、その可愛らしい笑顔を振り撒きました。

お姫様を認識した街の人々は、お姫様の存在に驚きましたが、それは一瞬、すぐに声をかけ、街は一際賑やかになりました。

街の人々からするとどうやら日常茶飯事のようで、お姫様をお城へと戻そうとする人はいませんでした。

お姫様はそんな街の人々の間を抜け城下町の先、下町に足を向けました。

下町の様子は城下町とはまた違い、土埃の多いところでした。その中でもお姫様は足を止めず、スタスタと歩いていきます。

そんなお姫様を下町の人は歓迎をしてくれます。これもどうやら日常茶飯事の様子です。声をかけてくれる人々に手を振り、笑顔を向け、歩んでいきます。








お姫様はある一つの家の前に止まりました。

そして勢いよくその家の窓を

ドンドンドンッ!

と叩き、声を発しました。

数秒と待たず窓が開き、家の中から出てきたのは、まだ幼さの残した少年です、歳は恐らくお姫様と同じか少し上位でしょうか。

少年はお姫様に向かって怒り、そして呆れたような溜め息をついた後、笑ってお姫様を出迎えました。お姫様もにっこりと笑い、その家の中へと入って行きました。きっと家の中では、少女と少年の笑い声が絶えないのでしょう。日が暮れるまで、二人はお話をしていました。








お姫様はそろそろ帰る頃だと、少年に言い、家を出ようとしました。少年はそんなお姫様の手に一つの綺麗な石を渡しました。

お姫様は首をかしげ、これは何だと問いました。

少年は母の形見なんだ、と答えました。

どうしてそんな大切なもの渡してきたのか少年に聞きましたが少年は何も言いません。お姫様はぶすっと頬を膨らませました。

少年は困ったような笑顔を浮かべ、ごめんね。

と一言だけ言いました。

お姫様は少年には答える気が無いのだと察すると、不満げな顔を更に酷くしましたが、すぐに笑いました。

手の中にある石を夕日に照らし、綺麗だと褒め、少年に向かってありがとう大切にする、と感謝を述べました。

少年もそんなお姫様に笑い、気をつけてと言葉をかけ、お姫様の背中を押しました。

お姫様はいきなり背中を押されたため、文句を言って、少年を振り返りました。

少年はまた困ったような笑顔を浮かべ、お姫様に謝り、早く帰るように催促しました。気づけば辺りは暗くなり、お城へと早く戻らねば行けなくなりました。

それがお姫様と少年が会った最後の日となったのです。







しぶしぶ帰ったお姫様はお城に帰って早々に怒られながらも、部屋で休むことにしました、貰った石を眺め、本当に良かったのかと悩みながら、そして何故か誰にも見せたくないと感じたお姫様は引き出しの奥の奥にしまい込みました。

次に下町に行くとしたら何時になるのか、明日行こうか。

そんな事を考えながら床につき眠りに落ちました。

ですが、お姫様は少年には会うことが出来ませんでした。

いえ、それ以前に、まずお城から出ることさえも出来ませんでした。昨日まではなんだかんだと見逃してくれた使用人達は皆揃って行く手を阻むのです。

そうやって外に出ることが叶わなかったお姫様は自室で一人燻り籠っていました。








そしてある日の時、それは突然でした。

偉大なる父の呼び声に答え、偉大なる父が鎮座するであろうその場所に足を踏み入れるとそこにはお姫様よりも遥かに年上だろう男の人が立っていました。

お姫様は困惑しました。この人は誰か…。どうして自分が呼ばれたのか…。

男は隣の国の若い王様でした。若いと言ってもお姫様より10も違う。

そんな簡単な挨拶の後に偉大なる父が発せられたのはお姫様と若い王様の婚約でした。

いきなりで納得出来なかったお姫様は勿論反対しました。

ですがもう決められたこと、権力に叶うわけもないお姫様はその婚約を受け入れるしか術はありませんでした。







お姫様は少年に会いたくなりました。

でもお城の皆は許してくれない。

部屋に籠もり、ふと、外を眺めました。

それで見えたものは煙でした。

下町の一部からモクモクと煙が上がっており、ひと目で火事が起きているのがわかりました。

そしてその火事が起きているであろう場所も…。

お姫様は慌てました。

止めようとする使用人を振り払い、走って、走って、走りました。

いつもより止める力が弱かったのもあったのか、お姫様は目的の場所まで来ることが出来ました。








その目に映ったのは、燃え盛る朱。

お姫様にとってかけがえのない時間を過ごせた場所。

優しく、いつも笑ってくれてた少年の住処が燃やされていました。

お姫様はただ呆然と立ち尽くすしかありません。

すると背後からお姫様を呼ぶ声がして、お姫様は恐る恐る振り向きました。

そこには偉大なる父と若い王様、数人の配下が立っていました。

偉大なる父は笑っていました。若い王様も笑っていました。

これで何の迷いもなく結婚を受け入れてくれるだろう。

所詮下町の人間、一人くらい居なくなっても困らない。

そのような言葉を耳にした瞬間。

目の前の人間が醜く汚く見えてしまいました。

偉大であった父は消え、婚約者であろう若き王もただの醜悪の物体だった。

激しい苛立ちや憎しみがお姫様を襲いました。








ですが、確かに何も変わらないのです。

お姫様は憎くて堪らない若い王様と結婚をし隣の国へと嫁ぎ、嫌だ、と叫んでも国の繁栄の為に子を授かるために身体を差し出し、暴れれば鎖で拘束される。

お姫様は心身ともに疲弊していきました。

何度、死を覚悟しても周りに止められ、ただ夜な夜な揺さぶられるだけ、お姫様はなんの為に生き長らえてるのか考えてしまいます。

お姫様はもう何も考えず、抵抗もしなくなったお姫様は拘束も解かれ、人形のような日々を送っていました。








そんな毎日にふと、少年から貰った石を思い出しました。

大切に大切に仕舞っていて、嫁ぐ時に誰にもバレずに持ってこれた少年からの贈り物。

今日は夫である醜悪な若い王様はどこがの国に旅立っており、夜の営みも無いことが分かっていたお姫様は、その石を手に取り大切に握って胸に抱えました。

ただ一つ縋れるものがその石しか無かったお姫様は静かに涙をこぼします。月明かりがとても綺麗で、その美しさに更に悲しくなり…。その石を強く胸に抱いたままお姫様は眠りに落ちました。








深い深い夢の中、お姫様はどこからか声が聞こえ辺りを見渡します。

その声はもう二度と会えないと思っていた少年の声だったからです。

お姫様は叫びました。

手を伸ばしました。

走りました。

どれだけそうしたでしょう。

少年は何事も無かったかのようにお姫様の前に現れました。

お姫様は少年に抱きつきました。

美しい顔をぐしゃぐしゃにして強く抱きしめました。

少年は困った顔をしながらもお姫様を抱きしめ返しました。







少年はまず一言目にごめんね、と言いました。

何故謝られるのか分からなかったお姫様は首を傾げるしかなく。

少年はお姫様を苦しめてしまった事を深く謝りました。

お姫様はそんな少年を笑い、気にしなくていいと声をかけました。

そうして暫くお姫様と少年は寄り添い続けました。

何よりも大切なこの時間が永遠に終わらなければ良いのに、そう思うくらいお姫様は幸せでした。

少年はそんなお姫様の頭を撫で笑いました。

そして少年はお姫様にずっとここにいたい?と問いかけました。

お姫様は少年を見つめ、ゆっくりと頷きます。

少年はそんなお姫様を見て、またにっこりと笑います。

お姫様もそんな少年を見て、幸せそうで綺麗な笑顔を浮かべるのでした。







次の日の朝、使用人がお姫様を起こそうとその皮膚に触れると驚きました。

何故なら、お姫様の身体は氷のように冷たく、硬くなっていたからです。






お姫様の固く閉ざされた手には淡い青灰色の石が握られていました。

甘い夢の中に閉じこもったお姫様は少年といつまでも穏やかな毎日をこれから送ることでしょう。

彼女たちにとってそれが幸せなのですから。



最後までお読み下さりありがとうございます!

今回、「」を使わないで書いたらどんな感じに仕上がるのかと思い見辛い形式で書きました。

お話も暗めですが大丈夫でしたか?

石はエンジェライトという石を思い浮かべながら書きました。

ほんの少しのお時間を割いていただきありがとうございます。

皆さんは二人は幸せだと思いますか?

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