第二話
細々と復活
『個体名《天津俊》の登録が完了しました。』
『ステータスの付与が完了しました。』
『レベルの付与が完了しました。』
『スキルの付与が完了しました。』
『種族を《人類種》より《救世種+3》への変更が完了しました。』
『固有武器《鉄の棒+3》の登録、及び順応が完了しました。』
『意識レベルの上昇を試みます……成功。』
『現在時刻は太陽暦4月17日7時21分です。』
『人類種の生存率は開始時より53%減少し、残り47%』
『攻略率は全体の約1%未満。』
『人類種の戦闘能力が規定値未満となった為、人類種への情報開示の上限が一部解除されました。』
『救世種の数が一定値未満の為、救世種のステータスに一定値が加算されます。』
『ステータスへの付与を開始…成功。』
無機質な声で目が覚める。
「なんだ今の…?…っ…!」
言葉にならない痛みが頭を走る。
まるで、電撃を直接頭に受けたような痛みだ。
その痛みが引くと、まるで脳が全てをリセットしたかのように澄み渡る。
疲れ切っていたのが嘘のような澄み渡りようだ。
別に記憶がないわけでも無い。
例えるなら、脳の容量を何十倍にも増やし、今までの記憶をちっぽけな物にしたかのような感じだ。
澄み渡った脳で何があったのかを考える。
(昨日の帰り道、変な緑の化け物に出会って、そいつを殺して、それから…)
何故か、そこから先がすっぽりと抜けたように記憶に無い。
そして、その出来事が何日も前に思える。
(っ、そうだ会社!)
仕事があった事を思い出し、スマホを手に取り電源ボタンを押す。
しかし、電源は付かなかった。
(何故だ?きちんと充電コードは繋がっている筈だし…)
スマホから伸びているケーブルはきちんと電源ソケットに刺さっている。
一度抜き差ししてみるが、スマホに反応は無い。
部屋の時計は引越しの時、強い衝撃を与えてしまい壊れた為無い。
仕方なく、窓の外を見て太陽の位置を確認する。
太陽はある程度登っているが、電車の中で見る位置とほとんど同じだ。
(って事は遅刻じゃねぇか!)
不意に煙が上がっている所が見えたが、まだ乾燥している時期なので火事でも起きたのだろうとスルーした。
窓を閉め、すぐさまスーツに着替えて髪を軽く整え、鞄を持ち、靴を履いて家を出る。
家はオンボロの安いアパートで扉は音を立てながら閉まる。
すぐに鍵を閉めて道路に出る。
するとそこには異様な光景が広がっていた。
血を流して地面に横たわる人。
それも1人や2人では無く、何十人も。
その中には警察官の服らしきものを着た人もいた。
よくその人を見ると、皆、体の何処かを失っていた。
損傷が酷い人に至っては上半身が丸々無く、男なのか女なのかを判別できるのは、片方しか履いていない靴のみだった。
本来ならば吐き気を催すような光景だが、何故か平常心のままいられた。
(どうなってんだ?何があった?)
そう考えていると、少し奥に人影のようなものが見えた。
それをよく見ようとすると、
『スキル《千里眼》を発動します。』
と言う声が頭の中に響くのと同時に人影がまるで近づいたかのように見えやすくなる。
(なんだ今の?いや、それよりも…)
人影のように見えた″それ″は緑の化け物だった。
そして、その緑の化け物は″人の手″のようなものを食いちぎるように食べていた。
(つまり、この惨状はあいつがやったって事か?て言うか、あいつは一体…)
なんだ、そう考えようとした途端、頭の中にまるで今まで知っていたかのように″それ″の情報が浮かび上がる。
『ゴブリン:《魔物種亜人属》に分類される魔物の一種。その手に持つ棍棒は体の一部で生み出された際より所持している。体は非常に弱く、体に着火するだけで10秒以内に死に至る。頭も非常に悪く目についた動くものに襲いかかる。雑食性で食べられるものならばなんでも食べる。』
(ゴブリン?漫画やアニメの世界じゃあるまいし…だが、目の前にいるのはゴブリンにしか見えん…)
よくファンタジーな作品で描写される特徴と酷似している″それ″を見ながら考える。
″それ″は今もこちらには見向きもせずに死体を貪っていた。
(だが、ゴブリン程度があんな殺し方出来るのか?棍棒しか持ってないようだし、何よりも非力そうな見た目をしている。もしかしたら、ゴブリン以外にも居るのでは…?)
そんな事を考えていると、突如鈍い音が響き渡り、ゴブリンが吹き飛ぶ。
そして、その吹き飛ばした存在が道路に出てくる。
″そいつ″は、よく肥えた腹と筋肉質な手足、そしてその手には石でできた血濡れた大剣を持っていた。
そして、″そいつ″の情報もまた、ゴブリンと同じように脳に浮かび上がる。
『オーク《変異種》:《魔物種亜人属変異型》に分類される魔物の一種。オークが突然変異し、筋肉が肥大化し、力が数倍にも増した。さらに脳の構造も変化しており、通常のオークよりも賢いが死を恐れない。オーガとほとんど変わらない性能をしているが、オークを複数体引き連れている為、オーガ単体よりも厄介。肉食性で、どの様な生き物の肉でも食べる。』
それは、最悪な出会いだった。
生き別れのシリーズがあった気もしますが、この作品以外のモチベーションが上がらない為、しばらくはこの作品一本で行きます。




