第一話
いつから人生は狂いだしたのだろう。
いや、分かっている。
雰囲気に騙されてブラック企業に勤め、来る日もくる日も働く日々。
休みなど取れず、労働基準法ガン無視の勤務時間。
労基の調査も上手いこと誤魔化し、通報した社員を見つけては徹底的に追い込み二度と通報出来ないようにしていたり。
さらにはパワハラ、セクハラは当たり前でもう無法地帯のような社内で今日もパソコンに向き合い資料の整理や作成などをする。
社会人一年生でもう人生に疲れ切ってしまった。
退社を考えたが、所詮一流大卒ではない俺に転職先などはなく、簡単に辞められない。
自殺は…生産性がなさ過ぎる。
そんな人の迷惑になるくらいなら、この環境で生き続ける。
と言うプライドに拘り続けて、今日も今日とて残業をしている。
現在時刻は午前2時。
労働基準法なんてあったものじゃない。
しかも、強制サービス残業だ。
エナジードリンクを飲み干して最後の仕上げをする。
元気の前借りと言うが、人生を削って今を生きているとも言う。
書類を終わらせ、帰路に着く。
当然、人は周りに居ない。
だが、何やら小さな人影が遠くに見えた。
不審に思いながらも、いつもの道なので気にせずに進む。
不用意とも思うかも知れないが、死ぬならそれでもいいと考えている。
ただ、痛いのは嫌だな。
出来るなら一思いにさっくりと死にたい。
そんな下らない妄想をしながら、どんどんと人影に近づいて行く。
その人影が完全に見えた時、それの異常さに気づく。
確かに人間の子供の様なシルエットだが、その肌は緑色で皺皺だ。
さらに手には石の様な物で出来た棍棒を持っている。
そして、半開きの方からは黒い涎の様な物を垂れ流していた。
(これは関わらないほうが良いな。)
そう思いながら目の前を通り過ぎようとすると、突然緑のそいつが殴りかかってきた。
体は反射的に攻撃を避ける。
(あっぶねぇ…今の当たってたら死んだぞ…)
そんな事を考えながらそいつと向き合う。
そいつは先程と同じように棍棒を振り上げて襲いかかって来る。
俺はまたそれを避ける。
(あれ?何で避けてるんだ?俺は別に死んでも良いと思ってたはずなのに…)
そう考えながらそいつの攻撃を避け続ける。
すると攻撃が当たらない事を怒ったのか、そいつはさらに乱雑に棍棒を振り回す。
「ぐっ…」
一発だけ横腹にもらい、鈍い痛みが走る。
だが、その一撃により、眠りかけていた頭も完全に覚醒し、状況を整理する。
(こんな変な見た目のやつ、明らかにこの世のものでは無いよな?なら何処かの研究機関から逃げ出したか?でもそれなら殺すと問題になるかも知れない…
だが先に襲ってきたのはあっちだし、正当防衛になるか。)
そんな事を考えて当たりを見渡す。
すると、そこには地面に落ちている鉄製の棒があった。
俺はそれを手に取ると、襲いかかって来るそいつの攻撃を避けて、カウンターの一撃を頭に入れる。
するとそいつは倒れて青色の血を流す。
(青色の血…?やはり人間では無かったか。)
そう思いつつも、これ以上そいつに絡むのは辞めようと思い、鉄の棒を持ったままその場を後にした。
その後は何事もなく無事に家に着き、シャワーを浴びてから布団に入る。現在の時刻は4月7日の午前3時30分。
俺は今日あった事は忘れようと思い、そのまま深い眠りに入った。
世界が変わりつつあるとはさも知らず。
『戦闘終了を確認。経験値を獲得します。』
『人類種で初の討伐を確認。ボーナスとして全ステータスに一定値を加算。経験値を獲得。スキルを5個獲得』
『初討伐時にソロと確認。ボーナスとして全ステータスに一定値を加算。経験値を獲得。スキルを3個獲得』
『レベルが一定値に達した為、意識レベルの低下時に進化を行います。』
『意識レベルの低下を確認。進化を開始します。』
『この作業が終了するまでは意識レベルの上昇はされません。』
『進化が完了するまで後、10日3時間51分47秒…』
『世界合成の第一フェーズ完了まで4日3時間48分56秒…』
この日から世界は大きく変わっていくことになる。